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しおりを挟む◇◆◇
翌日。
ユリナミア達一行が滞在していた街の宿で、その報せはやって来た。
部屋で休んでいたユリナミアの元に、常に無い緊張を孕んだ様子のラグナとアヴィがやって来たのだ。
「姉さん、少し良いかな?」
「アヴィ……? どうしたの? あら、それにラグナも……?」
アヴィの声が聞こえ、扉を開けるとそこにはアヴィのみならず、ラグナの姿まである。
その事に驚いたユリナミアではあったが、二人の表情からすぐに何か良く無い事があったのだろう、と察して自身も表情を引き締め、口を開いた。
「……何か、あったのね」
「はい、お嬢様。邸から報せが……。バシュー隊長が危惧していた通り、邸に侵入しようとした者がいたそうです」
「そう……、捕らえたのかしら?」
「はい。捕縛は問題無く。ですが、以前と同じく依頼主は辿れません」
「以前と同じく、ね」
──依頼主はきっとレイチェル嬢ね。
ユリナミアは確信めいた考えを言葉にはせず、バシューの身を案じる。
「それじゃあ……先行して単身向かっているバシューの身が危険じゃないかしら? でも……今から報せを送ろうにも、もう追い付けないわよね」
どうしたものか、と考え込むユリナミアとは反対に、何故かラグナが胸を張って自信満々に答えた。
「ご安心下さい、お嬢様! バシュー隊長の昔の異名をご存知ですか? 鬼神ですよ、鬼神……! あの人に屠られた人間がどれだけいるか、今は一線を退き、後進育成に従事していますが腕は衰えておりませんので、隊長は大丈夫ですよ」
「き、鬼神……!? バシューはそんな風に呼ばれていたの……!?」
普段の好々爺といったイメージが強く、ユリナミアがギョッとする姿を見てラグナがははっと声を出して笑う。
「──ですから、この道中の護衛もご安心を。俺達はみんな、隊長に選ばれてお嬢様を護衛してますから」
自信満々のラグナの言葉を聞いて、ユリナミアは先程まで抱いていた不安感がすぅっと消えて行くのを感じた。
自分の力を過信している訳では無い。
今まで訓練して来た、長い間しっかりと己の力に慢心せずに研鑽して得た実感だろう。
驕りでは無く、純粋な自信。
そしてその自信は周囲の人間を安心させる。
ユリナミアはラグナを見返して自然に笑顔を浮かべる。
「ええ、私達をしっかり護衛してちょうだい。心配なんてしていないから」
ユリナミアの言葉にラグナは笑みを深め、「かしこまりました」と言葉を返した。
街の宿に滞在中、そして街を出た後の道中。
驚く程にその道程は穏やかで。
邸を出た後は緊張感に包まれていたがそれも薄れ、目的地まであと少しと言う所までやって来た。
「お嬢様、旦那様の視察先まではあと少しです。少し早いですが、今日はこの街の宿で休み、明日早く出発しましょう」
「分かったわ」
地図を見ていたラグナがそれから顔を上げ、ユリナミアに声を掛ける。
ユリナミアに体を預け、眠ってしまっているアヴィの頭を優しく撫でてやりながら窓から見える景色に視線を移した。
◇◆◇
場所は変わって、ユリナミア達の目的地。
ユリナミアの父、アルドナシュ侯爵が視察にやって来た場所は鉱山のある大きな街だ。
王都から離れた場所にあるこの街は、工業地帯として栄えており、その街の近くにある鉱山の開発に力を入れているらしい。
そして、今回その鉱山から離れた場所にある山からも貴重な石が採れる、と報告が上がったとの報告が上がった。
「──貴重な石、とは一体なんなのか……」
アルドナシュ侯爵家は代々国の採掘権の管理担当をしている家の一つ。
採掘権の管理担当をしている家は他にも複数あるが、今回の視察はアルドナシュ侯爵家に回って来た。
普段は他家が中心となり、管理関係はその家が表立って行っていたが正式な国の仕事で、視察依頼が来てしまえば向かわざるをえない。
「貴重な石が採れる、と報告が上がったのならば王族も視察に訪れている可能性がある……もしそれが殿下ならばお話させて頂く機会を設けれられれば……」
何故、視察に向かわないように、とわざわざユリナミアに告げたのか。
ふむ、と顎に手を当て馬車から街を見回していたアルドナシュ侯爵は、外套を纏い、深くフードを被った人物を視界に入れてギョッとした。
ちらり、とした顔は見えなかったが見間違える事は無い。
何故、伴も付けず単身こんな場所を彷徨いているのか。
「──クロノフ殿下!?」
小さく小さく呟いた声であったのだが、その声がまさか聞こえたのだろうか。
建物の影に消える寸前、クロノフがふ、と父親の方へ振り向き、クロノフも驚きに目を見開いたのが見えた。
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