38 / 44
38
しおりを挟む驚く一同をそのままに、アヴィはスタスタ足を進め、ユリナミアが座っていたソファの隣にぽすん、と腰掛ける。
「ちょ、ちょっと待ってアヴィ……! 跡継ぎの貴方が、罠かもしれない場所に赴くのはいくら何でも危険過ぎるわ……! それに私と行動を共にすればその危険は更に上がるのよ……!」
「罠だと分かっていて、姉さんは行くんだろう? それなら守り手は多いに越したことはないじゃないか。それに、自ら危ない橋を渡ろうとしている姉さんに僕を止める権利は無いんじゃない?」
「……っ、うっ」
確かにアヴィの言う通りだ。
危ないと分かっていて、その場所に行こうとしている以上このように言われてしまっても仕方ない。
けれど、ユリナミアはクロノフが何故鉱山を避けろと言ったのか、その真意を確かめに行きたい気持ちもある。
何故、知るはずの無い事をクロノフが知っているのだろうか。
その疑問の答えが、今回の視察先にはあるような気がしてならないような──。
二人の会話に護衛のバシューとラグナは更に頭を抱えて「勘弁してくれ」と口にした。
結局、ユリナミアとアヴィは父親からの手紙に従いその場所に向かう事になったのだが、それにはバシューから条件を出された。
「──いいですか、お嬢様にアヴィ様……。先ずは私が先行して旦那様の下に向かいます。お嬢様達は商団の一行と言う振りをしてゆっくり馬車で向かって下さい。護衛にはラグナ他十名程、信用出来る部下を置いて行きます。午後、この邸に商団を呼び寄せますので、それと入れ替わって下さいね」
「ええ、分かったわ」
「普段お使いになる馬車とは違い、乗り心地が悪いですよ……? 護衛の男達が同じ馬車内に滞在しますよ……? それでもよろしいのですね?」
「ええ、勿論よ」
「……分かりました。決して貴族、と知られてしまうような振る舞いはせぬように気をつけて下さい」
バシューの言葉にこくりと頷いたユリナミアを見て、次いでバシューは家令に視線を向ける。
視線を受けた家令も心得た、と言うように頷いた後、商団を手配するために動き出す。
父親からの手紙を怪しんだユリナミアは邸に滞在している、と言う体にしてバシューだけを先行して父親の下に走らせる。
もし一連の事が罠だとしたらユリナミアが来ないと知れば動き出すだろう。とバシューは口にした。
邸に侵入する者がいれば、それを捕縛してその相手を吐かせれば良い。
罠だとしたら、移動中が一番狙われやすいため、ユリナミアとアヴィを隠し商団として邸から出してしまえば見つかりにくいだろう、とバシューは続けてそう口にした。
父親の視察先は馬車を走らせて二日もあれば到着する距離だ。
王太子であるクロノフも同じ場所にいるとすれば遠くからでも分かるだろう。
「では、私は支度をして直ぐに邸を出ます」
「ええ、道中気を付けてねバシュー」
「はい。お嬢様もくれぐれも、くれぐれもお気を付け下さい」
心配そうに何度も振り返りながら部屋から出て行くバシューに、ユリナミアも苦笑しながら見送る。
そうして、バシューが馬で出立する際。
敢えてユリナミアも見送りのために邸の正門前まで姿を現し、バシューを見送った。
バシューを見送り数時間。邸に商団がやって来て、手筈通り商団と入れ替わったユリナミアとアヴィ、護衛のラグナを筆頭に十数人はそのまま商団が乗ってきた馬車で邸を出た。
バシューが心配していた、危惧していた通りに邸に侵入者が現れたのは商団の馬車が邸を立ってから数刻後。
その侵入者は以前ユリナミアを街で襲った男達と同じように、誰かから依頼をされたようだが、依頼主までは口を割らなかった。
邸に侵入者がやって来た、と言う事実は馬車で移動しているユリナミアはまだ知らない。
その事実を知るのは、翌日、休憩の為に寄った街の宿での事だった。
14
お気に入りに追加
3,018
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
婚約者は私を愛していると言いますが、別の女のところに足しげく通うので、私は本当の愛を探します
早乙女 純
恋愛
私の婚約者であるアルベルトは、私に愛しているといつも言いますが、私以外の女の元に足しげく通います。そんな男なんて信用出来るはずもないので婚約を破棄して、私は新しいヒトを探します。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
【完結】彼と私と幼なじみ
Ringo
恋愛
私には婚約者がいて、十八歳を迎えたら結婚する。
ある意味で政略ともとれる婚約者とはうまくやっているし、夫婦として始まる生活も楽しみ…なのだが、周囲はそう思っていない。
私を憐れむか馬鹿にする。
愛されていないお飾りなのだと言って。
その理由は私にも分かっていた。
だって彼には大切な幼なじみがいて、その子を屋敷に住まわせているんだもの。
そんなの、誰が見たってそう思うわよね。
※本編三話+番外編四話
(執筆&公開予約設定済みです)
※シリアスも好物ですが、たまには頭を空っぽにしたくなる。
※タグで大筋のネタバレ三昧。
※R18命の作者にしては珍しく抑え気味♡
※念のためにR15はしておきます。
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる