36 / 44
36
しおりを挟む学園に到着し、ユリナミアはきょろ、と周囲を見回す。
「……変ね。普段だったらレイチェル嬢がすぐに話し掛けてくるのだけれど……」
いつも待ち伏せでもしているのだろうか、と言うタイミングでユリナミアとクロノフの下にやってくるのだ。
けれど、今日はいつものようにレイチェルが姿を現す事は無く、ユリナミアは再び違和感を覚える。
「──お休みなのかしら。……クロノフ様が休まれている今日、同じタイミングで……?」
同じタイミングで休むのは些か出来過ぎているのではないだろうか、とその場で立ち止まり考え込んでいたユリナミアの横をこの学園の生徒達は不思議そうにしながら通り過ぎて行く。
(何処かで情報が漏れているの? けれど、王太子であるクロノフ様の予定を知る事が出来る人間は限られているわ……)
昨日のように実際本人から伝えられる立場であるユリナミアだったらまだ分かる。
クロノフの身辺警護をしている人間や、ユリナミア──婚約者の家族であるならまだ分かる。
それでも、ユリナミアの家族だって自国の王族の予定を予定外に知ってしまったとしても他者にそれは漏らさない、漏らしてはいけない。
情報を漏らし、王族の身に何かあれば大事になってしまうからだ。
(それくらい、この国の人間は心得ているわ……。知る立場の無い人間が情報を知っていると言う事は……)
情報を漏らした人間がいる事。
そして、その情報を何らかの理由があって欲した側がいる、と言う事。
(レイチェル嬢がクロノフ様と接触したい、と言う理由だけでフリーシュア伯爵も危険な橋は渡らないでしょう。……それ以上の狙いがあると言うの?)
考えが嫌な方、嫌な方へと寄って行ってしまう。
まさか、万が一、と様々な考えが頭の中を過ぎり、ユリナミアはふるふると頭を振ってその考えを追い出そうとする。
(──いえ。私はもうクロノフ様から離れると決めたのだから、レイチェル嬢がクロノフ様と接触しようとしても気にする事は無いわ)
万が一、など考え過ぎだと思考を切り替える。
気を取り直して学園の中に入ろうと、再びユリナミアが足を踏み出した所で。
「──様、お嬢様……!」
ユリナミアはアルドナシュ侯爵家の護衛、バシューの声が聞こえて来た事に驚き、振り向いた。
「バシュー!?」
何故ここに? と言うように驚き目を見開くユリナミアの視界の先には、見慣れた護衛の姿があり、バシューの隣にはラグナも居る。
二人はユリナミアに向かって急ぎ足で向かって来ており、近くにやって来るとバシューはほっと安堵したような表情を浮かべた。
「まだ学園に入る前で良かったです、お嬢様」
「……何か、あったの? 貴方達が来るなんて……それだけの事が起きたの?」
「旦那様から連絡が……一先ず馬車で邸にお戻り下さい」
「え、ええ。分かったわ」
馬車へ、と促すバシューに戸惑いながらそれでもユリナミアは先程まで自分が進んで来た道を今度は戻る為に進む。
「学園には旦那様が数日休む事を報告しておく、と仰ったそうです」
「数日……? そんなに休む事になるの? それだけの事が起きたの?」
「私も詳しくは分かりませんが、なにぶん使用人が急いで戻って来まして……。旦那様からお嬢様に頼み事があるとか何とか……」
「使用人から詳細は聞いていないの?」
「休憩も取らず馬を走らせ急いで戻って来たようで……。戻って来るなりへろへろの状態でして……詳しく話を聞く事が出来なかったのです。お嬢様が戻る頃には回復しているかと思います」
「……そう、分かったわ」
ユリナミアと護衛二人は馬車に乗り、邸に戻った。
馬車を走らせ、ユリナミアが邸に戻ると父親の指示で戻って来た使用人も回復していたようで、ユリナミアとその護衛バシューとラグナを出迎える一行の中に居た。
ユリナミアはその使用人から話を聞く為に早足で邸の中に入り、玄関からほど近いサロンへと向かった。
14
お気に入りに追加
3,018
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
婚約者は私を愛していると言いますが、別の女のところに足しげく通うので、私は本当の愛を探します
早乙女 純
恋愛
私の婚約者であるアルベルトは、私に愛しているといつも言いますが、私以外の女の元に足しげく通います。そんな男なんて信用出来るはずもないので婚約を破棄して、私は新しいヒトを探します。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる