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 学園に到着し、ユリナミアはきょろ、と周囲を見回す。

「……変ね。普段だったらレイチェル嬢がすぐに話し掛けてくるのだけれど……」

 いつも待ち伏せでもしているのだろうか、と言うタイミングでユリナミアとクロノフの下にやってくるのだ。
 けれど、今日はいつものようにレイチェルが姿を現す事は無く、ユリナミアは再び違和感を覚える。

「──お休みなのかしら。……クロノフ様が休まれている今日、同じタイミングで……?」

 同じタイミングで休むのは些か出来過ぎているのではないだろうか、とその場で立ち止まり考え込んでいたユリナミアの横をこの学園の生徒達は不思議そうにしながら通り過ぎて行く。

(何処かで情報が漏れているの? けれど、王太子であるクロノフ様の予定を知る事が出来る人間は限られているわ……)

 昨日のように実際本人から伝えられる立場であるユリナミアだったらまだ分かる。
 クロノフの身辺警護をしている人間や、ユリナミア──婚約者の家族であるならまだ分かる。
 それでも、ユリナミアの家族だって自国の王族の予定を予定外に知ってしまったとしても他者にそれは漏らさない、漏らしてはいけない。
 情報を漏らし、王族の身に何かあれば大事になってしまうからだ。

(それくらい、この国の人間は心得ているわ……。知る立場の無い人間が情報を知っていると言う事は……)

 情報を漏らした人間がいる事。
 そして、その情報を何らかの理由があって欲した側がいる、と言う事。

(レイチェル嬢がクロノフ様と接触したい、と言う理由だけでフリーシュア伯爵も危険な橋は渡らないでしょう。……それ以上の狙いがあると言うの?)

 考えが嫌な方、嫌な方へと寄って行ってしまう。
 まさか、万が一、と様々な考えが頭の中を過ぎり、ユリナミアはふるふると頭を振ってその考えを追い出そうとする。

(──いえ。私はもうクロノフ様から離れると決めたのだから、レイチェル嬢がクロノフ様と接触しようとしても気にする事は無いわ)

 万が一、など考え過ぎだと思考を切り替える。

 気を取り直して学園の中に入ろうと、再びユリナミアが足を踏み出した所で。

「──様、お嬢様……!」

 ユリナミアはアルドナシュ侯爵家の護衛、バシューの声が聞こえて来た事に驚き、振り向いた。

「バシュー!?」

 何故ここに? と言うように驚き目を見開くユリナミアの視界の先には、見慣れた護衛の姿があり、バシューの隣にはラグナも居る。
 二人はユリナミアに向かって急ぎ足で向かって来ており、近くにやって来るとバシューはほっと安堵したような表情を浮かべた。

「まだ学園に入る前で良かったです、お嬢様」
「……何か、あったの? 貴方達が来るなんて……それだけの事が起きたの?」
「旦那様から連絡が……一先ず馬車で邸にお戻り下さい」
「え、ええ。分かったわ」

 馬車へ、と促すバシューに戸惑いながらそれでもユリナミアは先程まで自分が進んで来た道を今度は戻る為に進む。

「学園には旦那様が数日休む事を報告しておく、と仰ったそうです」
「数日……? そんなに休む事になるの? それだけの事が起きたの?」
「私も詳しくは分かりませんが、なにぶん使用人が急いで戻って来まして……。旦那様からお嬢様に頼み事があるとか何とか……」
「使用人から詳細は聞いていないの?」
「休憩も取らず馬を走らせ急いで戻って来たようで……。戻って来るなりへろへろの状態でして……詳しく話を聞く事が出来なかったのです。お嬢様が戻る頃には回復しているかと思います」
「……そう、分かったわ」

 ユリナミアと護衛二人は馬車に乗り、邸に戻った。



 馬車を走らせ、ユリナミアが邸に戻ると父親の指示で戻って来た使用人も回復していたようで、ユリナミアとその護衛バシューとラグナを出迎える一行の中に居た。

 ユリナミアはその使用人から話を聞く為に早足で邸の中に入り、玄関からほど近いサロンへと向かった。
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