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しおりを挟む翌日。
ユリナミアは体調が優れない、と言う事にして学園を休んだ。
幸い、クロノフも朝早く迎えには行けないと言う連絡が来たので安堵する。
体調不良で休むと言う事を告げればクロノフは心配して訪ねて来る可能性がある。
訪ねて来られては困るのだ。
今日、ユリナミアは過去の人生と、五回目の今回の人生との違いを確認しに行く。
「──でも、そう言えば……」
ユリナミアは着替えながらぽつり、と呟く。
昨夜、どれだけ思い出そうとしても四回目の最後の辺りの記憶は思い出せなかった。
十六歳辺りの事までは朧気に思い出せたのだ。
だが、どう思い出そうとしても命を落とした原因も、命を落とした周辺の期間の記憶も、思い出す事が出来なかった。
「おかしいわよね……。一回目から三回目まではしっかりと覚えているのに……」
比較的新しい四回目の記憶が思い出せない、と言う事に僅かばかり引っかかりを覚えるが、そもそも。
何度も死を繰り返している、と言う事そのものがおかしな出来事なのだ。
何処かの記憶がすっぽりと抜け落ちていても何ら不思議は無い。
「……さて、バシューとラグナに声をかけようかしら」
街へ行くのであれば、護衛の二人に声を掛けて着いて来て貰えば良い。
学園を休んでおきながら街に向かうと言う事を知れば、父親は変な顔をするだろうがクロノフと婚約を解消したい事を既に告げている。
婚約解消の申し出自体が既におかしな事だ。
それに関係するのだろうか、と勘ぐられる可能性はあるが目立つ行動をしなければ街へ向かう事も訝しがられるが拒否はされないだろう。
ユリナミアは足取り軽く、父親の書斎へと向かった。
◇◆◇
ユリナミアは馬車から降り立つと、ぐぅーっと伸びをするように腕を伸ばす。
「……お嬢様、許可が出たとは言え長居は無用ですよ」
「もう、分かっているわバシュー。あなたは昔から細かいんだから……」
「ええ、ええ。旦那様にも煙たがられる程ですからね」
「ああ、やだわ」
バシューは昔はユリナミアの父親の護衛をしていた男だ。
バシューとユリナミアは親子程年が離れており、子供の頃からバシューは過保護過ぎる程ユリナミアを守っている。
ユリナミアは自分の後ろを着いて歩くバシューとラグナ二人をちらり、と見やる。
護衛として着いてきてくれる二人は過去四回の繰り返しの中で自分自身の護衛であった事は一度も無い。
バシューは変わらず父親の護衛をしていたし、ラグナは母親の護衛役として存在していた。
(……何故、こうして過去の出来事に矛盾が生じているのか分からないけれど……)
五回目の今回は、ユリナミアが幼い頃にバシューとラグナが専属の護衛となった。
先日、街で男性に後をつけられていた時も、二人でなければあれ程スムーズに犯人を捕らえる事は出来なかった可能性がある。
最悪の可能性だってあったのだ。
五回目の今回、こうして二人がユリナミアの側に居てくれたからこそ、大変な事にならなかった。
(……何だか、守られているみたいね)
ふ、とユリナミアはその言葉が頭に浮かんできて、「有り得ない」と笑ってしまう。
(そんな、有り得ない事だわ。私が命を落とす運命だって事を、知っている人なんている訳が無いわ。神様くらいなものよね)
そもそも過去を繰り返している、なんて事が起きている時点で何らかの超常的な力が働いているのだ。
ただの人間にそのような事が出来る筈がない。
時を繰り返す、など神と言われる存在が介入しなければ無理だろうとユリナミアは軽く頭を振って考えてしまった事を追い出す。
非現実的な事を考えるよりも、現実的な事を考えよう、とユリナミアは前を見据える。
学園を休み、わざわざ街に出てきたのは目的があるからだ。
ユリナミアはとある建物を視界に入れると、そちらの方向に足を踏み出した。
向かう先にはこの国で市民向けに不動産を貸し出している建物があった。
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