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 クロノフが呼び出しを受けて学園から戻り、謁見の間に向かうと何故かその場にはフリーシュア伯爵家の当主、伯爵とレイチェルが同席していて。
 何故この場に二人が同席しているのだ、とクロノフは目を見開く。

 だが、その驚きも一瞬で表情を引き締めるとクロノフは室内に足を進めて行く。
 玉座に座る自分の父、国王の前に歩みでると胸に手を当て口を開く。

「お呼びですか、陛下」
「──うむ……」

 クロノフの言葉に、国王は言葉を返す。
 だが、その声音には僅かばかりに困惑しているような色が滲んでいて。
 それにクロノフだけが気付く。

(何だ……? 父上が戸惑っているのか……?)

 どうしたのだろうか、とクロノフが眉を顰めると国王がゆっくりと口を開いた。

「クロノフよ……、この度我が国に魔晶石と思われる鉱物が採れる鉱山が発見された」
「──っ、!?」
「その鉱山を発見したのが、そこに居る──フリーシュア伯爵でな……」

 国王の言葉に、クロノフの背後に居たフリーシュア伯爵とレイチェルが嫌な笑みを張り付けたまま、胸に手を当てて腰を折っている姿をクロノフは顔だけ振り向き、確認する。
 クロノフの視線を受けて、フリーシュア伯爵はにんまりと口元を歪めてクロノフに視線を向ける。

(──魔晶石の鉱山は、の時だった筈……。それ以外では魔晶石の事など一切出てこなかった筈なのに……何故……)

 表情には出さないよう何とか気を引き締めるが、クロノフの頭の中は混乱で一杯になっていた。
 四度目に、ユリナミアが命を落とす切っ掛けになった鉱山の発見、そして視察。

 今回の五度目では魔晶石の事など一切話に上がって来てはいなかった。

(──ユリナミアが、助かったから……? 過去、何れも十八歳を迎えるその日に命を落としていたが……)

 五回目の今回。
 今回はユリナミアは十八になってからも生きている。
 だからこそ、以前命を落とす切っ掛けとなった魔晶石の鉱山の存在が今更明るみになったのだろうか。

(……そうだ。前回も、フリーシュア伯爵家が魔晶石の鉱山を発見した……そして、ユリナミアのアルドナシュ侯爵家は鉱山の視察を命じられ……何故かユリナミアも同行を命じられたせいで……あの日っ)

 クロノフはぎりり、と拳を握り締める。

 思い返せば、ここ数日。
 ユリナミアが本来であれば誕生日のあの日から、ユリナミアの周囲でおかしな事が起きている。

 先日は、ユリナミアが街で男達に襲われた。
 それは一回目の暴漢に殺された時と似た物ではないだろうか。
 そして今回は魔晶石の鉱山。
 魔晶石の鉱山に視察に向かったユリナミアは、レイチェルの手によって鉱山内で有毒ガスの吹き出る窪みに落とされ、命を落とした。

 救助される間、苦しみ藻掻いていたユリナミアの姿が今でも瞼の裏に鮮明に思い出せる。
 レイチェルの手からクロノフを庇い、助けた事によりレイチェルの恨みを最大限買ってしまったユリナミアは、過去四度の中で一番悲惨で、非業の死を遂げたのだ。

 もう、二度とあのような目には合わせない。
 自分を慕い、あれだけ愛してくれていたユリナミアをもう二度と苦しめたく無い。

(だからこそ……っ、俺は……)



◇◆◇

 あの日。
 今回の人生で、ユリナミアが階段から転落した時。
 ユリナミアに向かって手を伸ばした瞬間にクロノフの頭の中に様々な情報が、記憶が突然怒涛のように蘇った。
 記憶の荒波に呑まれるような感覚。
 記憶の波に窒息してしまいそうな程の苦しさ。

 だが、記憶は一瞬の内に蘇り、クロノフの伸ばした手の先でユリナミアは派手な音を立てて階下に落下した。

 その時には既にクロノフは「理解」していた。
 何が自分の身に起きて、ユリナミアの身に何が起きたのか。

 自分の隣に居るレイチェルをその場で直ぐに殺してしまいたかった。
 けれど、レイチェルを殺してしまったらユリナミアを助ける事が出来ない。

 クロノフは急いで階段を駆け下りた。
 階下に倒れたユリナミアを助け起こす為に駆け下りた先で見たユリナミアは、頭から大量に出血していて。
 一目見ただけで「助からない」と言う事が分かった。

「──ユリナミア……っ」

 だらり、と腕を垂らして力無くクロノフの腕に体重を預けている。

「──ユリナミア……っ」

 ──ああ、これでは駄目だ。
 こんな事ではあの後に色々とやって来た事が全て無意味になってしまう。
 ユリナミアを助けなければ意味が無い。

 だからこそ、クロノフはそっと自分の手のひらにを集中させるとそっと発動した。
 ユリナミアとクロノフをカッと眩い光が包みこみ、その光の中でクロノフはユリナミアの額にそっと口付けた。
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