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しおりを挟む廊下を進み、自室に辿り着いたユリナミアは部屋に入室するとそのままベッドにころり、と横になる。
一大決心をして、父親に婚約の解消を申し出たと言うのに肝心の理由が説明出来ず、もやもやとした気持ち悪さを心に残す。
「──何故、話せなかったのかしら……」
ぽつり、と呟くと誰も居ない自室でユリナミアはもう一度父親に説明しようとした言葉を紡ごうと唇を開いた。
「──……っ、──っ!!」
けれど、やはり言葉を発しようとするとまるで一切声が出てこない。
「──何で……っ、」
その他の言葉であればこんなにもするり、と言葉に出来ると言うのに、何故かレイチェルに殺される恐れがあると言う事を告げようとする言葉はまるで何か魔法に掛かったかのように紡げなくなってしまう。
「──ふっ、ふふっ、魔法なんて……っ」
子供のような事を考えてしまって、ユリナミアはついつい笑い声を零してしまう。
この国、メディルアート国から魔法と言う存在が無くなってしまってから何百年経つのだろうか。
昔は、人間の体には血潮と同じく魔力と言う物がその身に宿っていたらしい。
血流が巡るように、魔力も体を巡り、様々な不思議な現象を引き起こせるような時代があった、と歴史の教本や授業で学んだ。
御伽噺のように、手から炎を生み出したり、何も無い場所に水を生み出したり、土の壁を作り出したり──果ては天候まで操る事が出来た者までいた、らしい。
天候を操るなど、人間に出来る訳が無い。きっとその時代では偉大な魔力を持った人間をそのように畏敬を込めて呼んでいたのだろう、と想像した。
御伽噺のようなそんな話が、何故真実であるかのように言い伝えられているのかには理由があった。
魔法に関して、書物しか残っていなければ信憑性が無く、全ての国民が知る歴史とはなり得なかっただろう。
だが、魔法が確かにあったのだ、と言う証拠とも言える遺物が見つかってしまっているのだ。
それが見つからなければ、魔法などと言う不可思議な、現実的では無い物を誰も信じる事などなかっただろう。
だが、魔法が使えていた過去。
その時代には、魔力が少ない者でも快適な生活が出来るように、と「魔道具」なる物が使用されていた。
その魔道具、と言う物は魔晶石と言う物に魔法を閉じ込め、少ない魔力でも発動出来る道具だ。
魔晶石に閉じ込める事が出来るのは簡単な魔法のみ、と言う事から魔力を流し込んで使用していた魔道具達は生活の一部を助ける為に重宝されていたらしく、風や雨で消える事の無い灯りを灯したり、暑さ寒さを調節してくれる風魔法だったり、水を汲みに行く手間を省く無限に水が湧き出す物だったり、と様々だ。
その魔道具が、山奥の遺跡から出土して、長年研究していた研究者達がそれらが魔道具だ、と言う事に気付き、発表した事から本当に過去には魔法が存在していたのだ、と言う事が分かった。
その遺跡から同時に発掘された魔晶石が無ければ、魔道具など眉唾物だと一蹴されてしまっていただろう。
だが、今では見つかる事が無くなった魔晶石と共に、昔の人間が魔力を保存していた魔晶石が同時に出土して。
その魔道具と魔晶石が共鳴した時に、魔道具に火が灯ったのだ。
熱くも無く、燃え広がる事も無い灯り。
その魔道具に灯った火は、数年間灯り続けたと言う。
遺跡からの出土が無ければ、魔法などと言う存在は誰にも知られず、この世から消え失せてしまっていただろう。
だが、魔法と言う存在は今現在は完全に失われている。
それにも関わらず、ユリナミアに起こっている現象は、「普通」では有り得ない。
数百年前の、魔法が「普通」に生活の一部として存在していた時であれば有り得そうな現象ではあるが、とユリナミアは考える。
「──でも、やはり一人の時でも……周りに人が居ない時でも、喋る事が出来ないのはおかしい……」
心の中ではいくらでも考える事が出来るのだ。
だが、それを言葉にして発する事が出来ない。
「一体、どうなっているのよ……」
ユリナミアは小さく溜息を吐き出して、目元を腕で覆った。
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