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しおりを挟むユリナミアが怪我をしてから数日。
しっかりと邸で療養して学園に戻る日がやって来た。
婚約者であるクロノフには昨夜手紙を出しているので、今日の朝には王城に届いているだろう。
だが、今朝届いたとしてユリナミアの元に迎えに来る時間は無い。
その事がしっかりと「分かっている」ユリナミアはゆっくりと学園の制服に袖を通し、登校の準備をする。
学園用の鞄を手に取り、着替えを済ませたユリナミアが自室から出ると廊下で待っていたアヴィがぱっと表情を明るくさせてトトトと駆けて来る。
「姉さん、鞄持ちますよ」
「あら、ありがとうアヴィ」
手を差し出して来るアヴィにユリナミアも笑顔で有難く鞄を差し出す。
アヴィもユリナミアから差し出された鞄をにこにことしながら受け取り、姉のユリナミアの体調を心配するように度々振り返りながらゆっくりと歩を進めて玄関まで向かう。
「姉さん、馬車のステップ危ないので僕の肩に掴まって下さいね」
「ええ、ありがとう。──あら、? アヴィも一緒に行くの?」
ユリナミアが馬車に乗り込み、座席に座るとアヴィも続いて乗り込みユリナミアの向かいに腰を下ろす。
そうして、馬車の御者に出してくれと声を掛けると馬車がゆっくりと走り出した。
「ええ、勿論。学園の門までお送り致しますよ。姉さんに何かあったら嫌ですから」
ぐっ、と悔しそうに眉根を寄せてそう告げるアヴィにユリナミアも眉を下げて苦笑する。
言外に、先日階段からユリナミアが突き落とされた事を指している事が分かる。そして、その転落事故を防げなかった事に、自分自身に憤りを感じているのかもしれない。
ユリナミアは黙り込むアヴィの頭に手を伸ばすと、そっと撫でてやった。
「姉さん……?」
「そんな顔をしないでちょうだい、アヴィ。もうあんな事は起きないわ」
「本当に、そうだと良いんですけど……」
ユリナミアは心配そうに表情を歪めるアヴィの頭を、学園に着くまで撫で続けて落ち着かせた。
学園に到着し、アヴィに手伝ってもらいながらユリナミアが馬車から降り立つと、背後から女性の声が聞こえて来た。
「──やだぁ……もう治ったの……」
ユリナミアが肩越しに背後を振り返ると、そこに居たのは案の定レイチェル・フリーシュアで。
レイチェルは、ユリナミアが振り向いた事でにっこりと笑顔を浮かべるとユリナミアが降りて来た馬車の中を窺うように体をずらした。
「……クロノフ様が居ない……、?」
嘘でしょ? と小さくレイチェルが呟き、つまらなさそうにユリナミアに視線を移す。
「──ユリナミア様、お怪我は大丈夫でしたかぁ? あの日は、ごめんなさい? まさか、足を滑らせてしまうなんて……」
こてんと首を傾げ、申し訳無いと全く思っていないような表情で謝罪を口にするレイチェルに、ユリナミアも、ユリナミアを送って来たアヴィも不愉快な表情を隠しもせずに浮かべる。
だが、そんな二人の表情を見たレイチェルは大袈裟に体を後退させると、周囲に良く響く声で喚いた。
「やだぁ! 怖い……っ! ごめんなさい、って謝罪してるのに何でそんなに私を睨むんですか? 態とじゃないのに……!」
レイチェルの大声に、学園に登校している学園生達が何だ何だ、と視線を向けてくるが騒いでいるのがフリーシュア伯爵家のレイチェルで、その向かいに居るのがアルドナシュ侯爵家のユリナミアと、跡継ぎであるアヴィである事に気付くと学園生達は巻き込まれたくない、と言うように視線を逸らす。
「……姉さん、こんな無礼な方放っておいて中に入りましょう」
「──ええ、そうね……そうしましょうか」
ユリナミアは疲れたように溜息を吐き出すと、アヴィに促されてくるり、とレイチェルに背中を向けて建物に向かって足を踏み出す。
だが、ユリナミアとアヴィのその行動に苛立ったのだろう。
レイチェルがユリナミアを呼び止めようと唇を開いた所で、今度は男性の声がユリナミアを呼び止めた。
「──ユリナミア……! 何故私を待たずに……っ!」
馬車を降りて、走って来たのだろう。
些か声を弾ませ、ユリナミアの婚約者であるクロノフが建物に向かって歩くユリナミアを追い掛けて来た。
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