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しおりを挟む全てを助けるのは無理だ。
ならば、最低限の犠牲で事を収める事が出来ればいい。
ウルミリア達はラフィティシア侯爵家に戻ると、ウルミリアの兄であるウェスターも交えて、今後の事を話した。
翌日。
ウルミリアが学園に向かう準備をしていると、自室をノックする音が聞こえて来た。
「──はい?」
「失礼するよ、ウルミリア」
ウルミリアが返事をすると、扉の向こうに居たのは兄のウェスターだったようで、扉を開けるとひょこりと扉から顔を出した。
このような時間、ウェスターが学園に行く前に自室に尋ねて来るのは珍しい。
ウルミリアはぱちくり、と瞳を瞬かせるとパタパタとウェスターの元へと駆け寄る。
「お兄様?何かございましたか?」
「──いや……。昨日の話をして……ウルミリアが落ち込んでいないかなぁ、と思って……」
「あら、ありがとうございます。……ふふ、大丈夫ですよお兄様。元々私とテオドロン様は相性が合わなかったのですし……恨まれたとしても仕方ない事を私はしようとしておりますので」
「だが、最終的には手を差し伸べるつもりだろう?」
「それは、テオドロン様が望めば、ですわ」
今、ウルミリア達の手元にはテオドロンのティバクレール公爵家の歴史書と三代目公爵の手記がある。
そして、今までテオドロンが行って来ていた事を報告書に纏めている。
その数々があれば証拠としては弱いがテオドロンに、王族に謀反の気配がある、と報告する事が出来る。
謀反人の疑いを掛けられたテオドロンの身柄がどうなるか。
想像にかたくないが、侯爵家が嘆願すれば公爵と、公爵夫人は命を助けて貰えるだろう。
謀反を企てたのは、テオドロン・ティバクレールと言う人間ただ一人だけだ。
一族郎党を処刑させてはいけない。
そもそも、王家にそのような事を出来る権利などないのだから。
「王家の公爵家への仕打ちは周囲にすぐ知れ渡るように手配はしよう。──民衆を味方に付けてしまえば容易く広がって行く」
「ええ。その際に王政派を押さえ込めれば……」
「ああ、そうだな……そうなるように手を尽くすつもりだよ」
ウェスターは優しく瞳を細めると、ウルミリアの頭を優しく何度か撫でる。
知ってしまったのだから、知らないふりはもう出来ないだろう。
そして、このままテオドロンの好きにさせてしまってはウルミリアの侯爵家も巻き込まれ共倒れしてしまう可能性がある。
テオドロンに、同情してしまう部分は確かにある。
この世に生まれ、生まれた事が罪だと言われて生きるのはどれだけ辛かっただろうか。
そして、テオドロンが本当のテオドロンと入れ替わって居るのであれば。
「テオドロン」として生きるのがどれだけ辛かっただろうか。
それならば、その秘密を知ってしまった者がその者を止める事が出来る唯一ではないだろうか。
「──婚約者として、私がテオドロン様に出来る事を致しますわ」
最善ではないかもしれないが。
ウルミリアは、ウェスターに微笑み掛け、二人で朝食を取る為に食堂へと向かった。
部屋を出れば、いつもの様にジルが部屋の外に控えていて、ウルミリアの姿を見ると笑んでくれる。
その笑顔を見て、ウルミリアもジルに笑顔を返す。
(──血も涙もない人間だ、と思われるかしらね。……でも、侯爵家を巻き込もうとしているテオドロン様に、こうでもしないと止める事が出来ないわ)
裏切りだと言われても、ウルミリアはそれがどうした、とテオドロンに言い返すだろう。
テオドロンが自分の目的に向かって非道な事をして来たのであれば、ウルミリアは自分の大切な人達を守る為にいくらでも非道になれる。
実際、テオドロンに関わり、行方不明となった人達は今、生きていないのだろうから。
ウルミリアはいつものように朝食を食べると、いつもの時間に外に出て、馬車を待つ。
昨日、共に過ごしたからだろうか。テオドロンは迎えに来ておらず、ウルミリアはテオドロンの馬車が来る事は無いだろうと判断すると、以前のようにギリギリまで待つ事無く、学園へと向かった。
学園に到着し、教室へと向かう道すがら廊下に居たテオドロンに声を掛けられ、ウルミリアとテオドロンは共に教室へと入った。
「ウルミリア。昨日話した件だがいつ頃から邸に来てくれるか、と両親が煩くてな。週末にでも侯爵と共にもう一度来てくれないか?」
「──あら、そうですの。では、父と共に行ってしっかりとお断りしなければですわね」
ウルミリアはふふふ、と声を出して笑うとテオドロンに視線を向ける。
視線を向けられたテオドロンも、「まだ逃げるのか」とでも言うように口端を持ち上げ勝気な笑みを見せる。
「そんなに逃げられると逆にどうしても手に入れたくなるな」
「逃げる者を追い掛けるなんて、テオドロン様は意外と積極的な方だったのですね?普段のテオドロン様からは想像出来ませんわ」
「新しい一面を知るのは刺激的だろう?」
お互い言い合いながら教室へと入って行く。
この姿が、本当のテオドロンなのか、とウルミリアはしんみりとしてしまった。
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