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「──え、?」

ジルの言葉に、ウルミリアは驚きに瞳を見開くとジルに向かって何を言っているのか、と言葉を返そうとしたがジルの言葉に、何処かストンと納得してしまった自分も居る。

納得出来てしまった自分の感覚に、ウルミリアが戸惑っているとジルが言葉を続けた。

「──確実な証拠はございませんが、あの方は公爵家嫡男、としての雰囲気と言うより……何と言いますか……その真反対の雰囲気を感じます。そう感じているのは私だけでしょうか?ウルミリアお嬢様も、そう感じるのでは……?」
「──っ、そう、ね。ジルの言う通り……。私も今、ジルの言葉を聞いて妙に納得してしまったわ……ああ、そう言う事だったのか、と」
「もし本当に、"テオドロン"様が既にこの世にいないのであれば、それを公爵夫妻はご存知なのかどうか……双子が、……入れ替わっている、と言うのを知らなかったら……」



双子の入れ替わり。



もしそれが本当に起きていたのであれば、公爵家は古くから続く王家からの残酷な仕打ちの生き証人に力を与え、権力を与え、着々と力を溜め込ませていたと言う事だ。

その憎悪が、復讐心が爆発する前にどうにかしなければいけない。
このまま、テオドロンの計画通りに国に復讐をさせてはいけない。

今、テオドロンが考えている、計画している通りに事を進めさせてしまったらティバクレール公爵家もラフィティシア侯爵家も共倒れしてしまうだろう。
王族へ謀反を企てた後、その家の末路は悲惨だ。

「実行した後、何も残らないわ……」

そうなってはいけない。

ウルミリアはぽつり、と呟くと軽く痛みを覚える額に手を当てて隣に座るジルに寄りかかった。










サロンに足音が近付いて来る音に気付き、ジルはピクリと肩を震わせる。

「──公爵様と夫人が来られたかしら?」
「そのようです」

ウルミリアは、ジルに凭れさせていた体をさっと起き上がらせると、それに合わせてジルもソファから立ち上がり、ウルミリアの背後に移動する。

二人が何事も無かったように表情を引き締めたと同時、サロンの扉が開かれて公爵本人と公爵夫人、そしてテオドロンが姿を表した。



「ウルミリア嬢、待たせて申し訳ないね」
「お久しぶりでございます、ティバクレール公爵、公爵夫人。本日はお招きありがとうございます」

ウルミリアがカーテシーを行うと、公爵と夫人は優しい笑顔で「座って」と声を掛ける。
テオドロンはウルミリアの隣まで歩いて来ると、ウルミリアに座るよう促し、自分もウルミリアの隣へと腰を下ろす。

ウルミリアとテオドロンがソファに座った事を確認すると、ウルミリアの正面に座った公爵がにこにこと笑顔を浮かべて唇を開いた。

「ウルミリア嬢、テオドロンの提案を快諾してくれてありがとう。私達も、ウルミリア嬢と共に暮らすのが待ち遠しいよ」
「──え」
「ああ、父上。まだウルミリアには伝えてなかったんだ。──ウルミリア、以前話しただろう?婚姻式も近い。その為、公爵邸で共に過ごしてはどうだろうか、と。ウルミリアから了承を貰った事を父上と母上に話してあるんだ」

(──その話は、まだ何も返事をしていないのに……!)

にこにこと嬉しそうに笑顔を見せる公爵と、公爵夫人に視線を向ける。
テオドロンの言葉を信じ、ウルミリアがこの邸に来る事を信じているようだ。

テオドロンの言葉に、提案に了承していないのに、先に公爵と夫人に話を通してしまうなんて些か乱暴過ぎないだろうか。
それだけ、テオドロンは焦っているのだろうか。

(どうすれば……ここで違います、と伝えるには……この場にお父様が居ればまだどうにか出来るけれど……)

ウルミリア一人で、テオドロンのみならず公爵と夫人を上手く説得出来るだろうか。

(いえ。出来ないわ……。ここで無理して公爵夫妻とお話をして不敬な態度を取ってしまったら……ならば、お父様が来られると言うのを待つ?……いえ、それもいつお父様が来られるか分からないから得策じゃないわね……ここでお父様の訪れを待つ為に下手に場を繋いで、何か失言をしたり、言質を取られたりしてしまえばお終いだわ)

その証拠に、ウルミリアの隣にしっかりと腰を据え、ウルミリアの一挙手一投足に目を光らせている男が居るのだ。

今回、公爵夫妻をこの場に呼んだのだって何かウルミリアが失言をするのを待つ為に揺さぶり目的の為に呼んだのかもしれない。

(ええ、そうよ。だってこう言った話は普通家の当主同士がする物ではないのかしら?)

ちらり、とウルミリアがテオドロンへ視線を向ければウルミリアの視線に気付いたテオドロンがウルミリアに向かって甘ったるい微笑みを浮かべて来る。

その様子を、テオドロンの両親である公爵夫妻は「あらあら」「おやおや」と嬉しそうに表情を綻ばせて満足気に笑っているが、ウルミリアとテオドロンの間に流れる空気は緊張を孕んでおり、ピリピリとした空気が流れている。
その二人の様子に気付かないのか、それとも気付いていない振りをしているのかは分からないが、夫妻は終始満足気だ。

(ここは、笑顔で誤魔化すしかないわね。肯定も、否定もしないわ)

ウルミリアはそう考えると、これから先の事を頭を必死に働かせて考える。

公爵家をどうにかしなければ。
そうする為には一度公爵家に入った方がいいのか。
いや、そうすると罰せられる際にウルミリア自身も巻き込まれる。

そこで、ウルミリアは一つの考えが浮かんだ。

それは、とても酷く辛い仕打ちとなるだろうが、後の事は自分や、侯爵家が動けばどうにかなるかもしれない。
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