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しおりを挟む「お父様、失礼致します」
ウルミリアは、入室の許可が出るなり扉を開けるとジルを伴い室内へと足を進める。
書斎には、ウルミリアの父親と長男が居りジルが持ち帰った公爵家の歴史書をテーブルに広げ、顔色を青くしながらその歴史書を読み進めていたようだ。
父親はチラリとウルミリアとジルに視線を向けると小さく「戻ったか」と声を掛けた。
些かその声音が震えているように思えて、ウルミリアは小さく喉を鳴らした。
公爵家の歴史書にも、何か衝撃的な事柄が記載されていたのだろうか。
「──お父様。ジルが、公爵邸から三代目公爵の手記を持ち帰りました……」
「なに?──ウルミリアの顔色を見るに、その手記の中身も中々のようだな……」
「ええ……。この事実をラフィティシア侯爵家が知ってしまった事が王家や、公爵家に知られたらどうなるのか……考えるだけで恐ろしいですわ」
ウルミリアはふるり、と自分の肩を震わせると、手記を受け取る為に自分の腕を伸ばした父親の手のひらに手記を乗せる。
「──忌避、?」
ウルミリアから受け取った手記を早速開き、読み進める父親の怪訝な声が聞こえる。
先程まで兄のウェスターは歴史書を確認していたが、父親に渡った手記を見るためにウェスターも父親の方へ移動してその手記を一緒に確認している。
父親と兄が手記を確認している内に、ウルミリアとジルは歴史書の方へと移動すると二人並んでソファに腰掛ける。
「──手記の内容と関係あるのは、恐らく……ここからだと思います……」
「ありがとう、ジル」
パラパラと歴史書を遡り、ジルはある頁の部分で自分の腕を止めると、ウルミリアが見やすいように体をずらす。
ウルミリアが公爵家の歴史書に視線を落とすと、その頁にはこの国の始まりと、王家との関係、公爵家と王家とのやり取り──恐らく、忌避の対象である双子の事が詳細に記載されていた。
「──テオドロン様の公爵家の他に、歴史ある家々の事が記載されているわね……」
「ええ。それが、今回テオドロン様の過去の恋人達の家の事ですね」
「そうね……。歴史が古いと言う事は、歴代当主達はテオドロン様と同じく、この国で何が起きていたのか、知っていた可能性があるわね……」
「はい。そして、双子に纏わる件は今はティバクレール公爵家でのみ細々と続けられています。何故、公爵家以外の家々が抜けられたのか、反対に何故公爵家は未だにその古くからの習わしのような物を続けているかは分かりかねますが……」
ジルの言葉に続けるように、ウルミリアは静かに言葉を放つ。
「──当時からの呪いのような習わしを、公爵家だけが受け続ける事に対する恨みを晴らしたのかしら」
何故、公爵家だけがその習わしを続けなければいけないのか。
何故、他の家はこの呪いのような残酷な習わしから解放されているのか。
そんな思いがあったのだろう。
「──テオドロン様は、自分の……、公爵家が抱える呪いを晴らすように自分達と同じく古くから続く家に復讐のような事をしていた、と言う事ね……」
そう考えれば納得が行く。
何故あのように簡単に恋人を取っかえ引っ変えしていたのか。
全ては恋人達の背後にあるその家そのものに対して復讐めいた事をしていたのだろう。
「──けれど、最近叙爵された家の令嬢は何故行方知らずになったのかしらね……公爵家の歴史など知らないでしょうに……」
実際、ウルミリアのラフィティシア侯爵家も過去そのような事が行われていたなど知りもしなかった。
不自然な程に、その情報は全く表に出ていなかったのだ。
「──王家がきっと綺麗に、上手く隠していたのね……」
数百年も前の歴史など、王家の力があれば隠す事など容易い事だろう。
双子が忌避されていた、と言う歴史はもしかしたらこの広い国内で探せば知る者がいるかもしれないが、公爵家が未だにその習わしを実行し続けている事は当人達しか知らない。
当時の公爵家当主と、王族……国王陛下との間でどんなやり取りがあったのかは分からないが、争い事を好まない公爵家当主だったのだ。
下手に王家に歯向かわず、条件を飲んだ可能性もある。
「行方知らずになった令嬢達には、このような意図があったのね。……テオドロン様は、……」
令嬢達の命はあるだろうか。
ウルミリアは、もやもやとした気持ちを振り払うように緩く首を横に振ると、歴史書を読み進めて行く。
「──ああ……。この事を受け入れる代わりに、公爵家は自由貿易の権利を得たのね……輸出、輸入の自由が認められれば、他国との貿易が格段にやりやすくなるものね……」
もっとも、最初は苦労したようだが、軌道に乗ってからは公爵家の財力は膨れ上がる一方だったみたいだ。
王家から無茶な出兵の命があっても、財力があれば私兵を多く持つ事が出来るし、兵の鍛錬にも力を入れられる。
初めは防衛費や私兵の充実に財力が必要だった。
次に、飢饉等が発生した際の保存食の開発に力を入れ始めたようだ。
領民あっての領地である。
人が居なければいくら公爵家とは言え、無傷ではいられない。
数多くの領地の管理の為に人材登用を行い、食料の確保、開発などにも力を入れ始めた。
王家から許された自由貿易から得た財力で、公爵家は財源を上手く活用し、領地を肥やして来た。
「公爵家は、こうやって長い年月を掛けて公爵家としての地位と権力を確立させていったのね……」
ウルミリアがポツリ、と呟き次の頁を捲る。
そこで、記載された一文を目にしてウルミリアは驚きに目を見開いた。
──謀反を企てた罰として、公爵家当主と夫人が事故死と言う形でひっそりと葬られた。
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