【完結】好きにすればいいと言ったのはあなたでしょう

高瀬船

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本当にそう思っているのだろう。
金品を与えれば人を簡単に御せると思っている。
今まで、テオドロンの周囲にはそのような者しか居なかったのだろうか。
テオドロンが持つ事になるであろう権力や、財力、容姿に群がるその他大勢のような扱いをされたと知り、ウルミリアは怒りを覚えた。

そのような人間だけでは無いというのに、このテオドロンと言う人間はその事を知らない。

「──お言葉ですが……。私は金品に執着も、流行りの物を知りたい、と言う執着も──そして、テオドロン様の容姿にも興味はございませんわ」
「──は、?」

ウルミリアの言葉に、テオドロンは意表を突かれたような表情をして瞳を見開いた。

「では……何が欲しいのだ……?金品ではないのであれば、土地?公爵家の管理する領地?それとも公爵家の持つ権力……?」
「人は損得勘定で動く者も居れば、そうではない人も居ますので。少なくとも私はその人の人となりを大事にしております。その方が私にとって尊敬出来るお人であればその人を支えたい、助けになりたいと思います」
「──はっ。そんな者、何の役にも立たないだろう?人となり?そのような者で食べてはいけない……生きてはいけないだろう?人を食い物にして生きて行くのが我々貴族ではないか」

吐き捨てるように嘲笑い、そう言うテオドロンにウルミリアはテオドロンの人としての姿が垣間見えたような気がする。

結局、どれだけ権力を持とうが、金を持とうがテオドロンは人を信じていない。

──貴族として生きるのに、どちらの方が生きやすいのか。

勿論、テオドロンのように割り切り、生きて行くのもいいだろう。
そもそも貴族と言う者はそう言う気質の者の方が多いだろうし、その方が周囲に騙されにくく、生き残りやすい。
公爵家と言う大きな権力を持った家に生まれたのであればそう教えられ、生きてきたのも頷ける。

「テオドロン様にはテオドロン様の、私には私の感じ方がございます。……どちらが正しい、等正解はないと思います」

だからこそ、感性の違いや価値観が違い過ぎるからこそこれから先、共に過ごすのは難しいのではないだろうか。

「──きっと、テオドロン様と私の性格は真逆なのではないでしょうか?ですから、私達が夫婦になる、と言うのは難しいと思います」

きっと上手く行く事はない。

ウルミリアは、扉をノックして紅茶を持ってきた店員に軽く礼を告げると、そのままカップに口を付ける。

(ん、本当に美味しいわ……。噂になるだけあるのね)

ウルミリアがちらり、とテオドロンを見やると、ウルミリアの言葉が理解出来ないようにテオドロンは何かをぶつぶつと呟いている。

もう話は終わりだろうか。

(──帰りたい)

溜息を一つ零して、ウルミリアは席から立ち上がると個室に備え付けられている窓へと視線をやった。
──先で。
見知った姿を眼下に見つけて、頬を綻ばせる。

ガタガタっ、と窓を開けると、その音に反応した男がウルミリアが居るカフェの二階を仰ぎ見た。

「──ジル!」
「ウルミリアお嬢様」

ジルもウルミリアの姿を見つけて表情をぱっと明るくさせると、このカフェの出入口へと向かうのが見えた。

ウルミリアはジルと合流しようと個室を後にする為、テオドロンの方へと振り返る。
ウルミリアの視線の先には、未だ受けた衝撃から復活出来ていないテオドロンが自分の額に手をあてて俯いている姿が瞳に映った。

「──それでは、失礼致します。ご馳走様でした」

ウルミリアは、テオドロンへ向かって口早にそうお礼を告げるとさっさとテオドロンの隣を通り過ぎる事にした。
ここで、また何かしら話し掛けられて時間を取られてしまうと帰宅が遅くなってしまう。
ジルが迎えに来た、と言う事はもう既にいい時間なのだろう。

俯くテオドロンの隣を通り過ぎた時、ウルミリアの耳にテオドロンの独り言が届いた。
テオドロンは混乱しているようで、必死に言葉を並べ、状況を整理しようとしているのだろう。

「これでは……──どうにも、ならない……ウルミリアをどうにか妻にしなければ……」









個室を出た所で、ウルミリアは階段横の壁に手を付いた。

「──え……、?」

テオドロンの口から呟かれていた言葉に、心臓がばくばくと音を立てる。
何故、ここであの単語が出てくるのか。

自分を妻に迎えて、どうするつもりなのか。

先程テオドロンの口から零れた言葉がウルミリアの耳に聞こえ、動揺する。

「──王室、って……どう言う事……?テオドロン様は王室に何をするつもり、なの……?」

侯爵家の人間を、公爵家に引き入れて王室に何をするつもりなのだろうか。

嫌な汗が背中を伝うその気持ち悪さに、ウルミリアが眉を寄せると、聞き慣れた声が階下から自分の名前を呼ぶ声を聞いた。

「ウルミリアお嬢様、お迎えに上がりました」
「──ジル」

ああ、早く侯爵邸に戻ろう。
そう気持ちが逸ったせいだろうか。
それとも、嫌な予感を察知してしまったからだろうか。
緊張に、硬くなってしまった体が上手く言う事を聞かず、階段を降りようとしていたウルミリアの足先が段差を踏み外してしまった。
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