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しおりを挟む自分を引っ張り、歩いて行くテオドロンの後ろ姿にウルミリアは困惑した。
(宝石店に来るだけでは無かったの……?)
他にも目的地があるのだろうか。
テオドロンの足取りは、目的地が決まっているようにしっかりとその方向へと向かって歩いて行っているようで、ウルミリアはこっそりと溜息を吐いた。
どうやらテオドロンはまだウルミリアを解放するつもりはないようだ。
それならば、無理に抵抗しても疲れるだけだし、テオドロンの散策に付き合って用を済ました方が早く解放されるだろう。と考えたウルミリアは、ただ黙ってテオドロンの進む方へと着いていく。
(──あら……、?あれは……)
次いでテオドロンがウルミリアを連れて来たのは、最近若い貴族達の間で噂になっているカフェだった。
他国の紅茶を多く仕入れており、国内ではあまり味わう事が出来ない不思議で、でもとても美味しいと評判のカフェ。
ウルミリア自身も、その噂を聞いた時に友人のジェミーとナターシャといつか行きたいと話した記憶がある。
そんな今噂になっているカフェをテオドロンが知っている事も驚きだし、その場所にウルミリアを連れてやってくるという事をしたテオドロンにもウルミリアは驚いた。
(貴族の子息や令嬢達が楽しそうに噂話をしているのを嘲っていたのに……)
本当にどうしたのだろうか、とウルミリアはそっとテオドロンを横目で盗み見る。
だが、テオドロンはウルミリアの視線に気付かずにそのままカフェの扉を開けるとズカズカと中へと進んで行った。
「──個室は空いているか?」
テオドロンは、出迎えたカフェの店員にそう聞くと、煩わしそうに店内を見回した。
時刻は夕方。
学園も終わったこの時間帯は、学生やその他の貴族達の姿が多く、とても賑わっている。
その喧騒が気に入らないのだろう。
テオドロンは眉を寄せると、階段の上の方に視線を向ける。
カフェに個室がある事も、その個室が階段の上に用意されている事もウルミリアはこの店に来た事が無いので知らなかったが、テオドロンは何故知っているのだろうか。
(過去の恋人達と一緒に来られた事があるのかしら……?それとも、公爵家の事業で携わっているのかしら?)
公爵家の事業は幅広い。
街中にある店の融資や経営に始まり、果てには河川の工事や商団の運営まで様々な事を手掛けている。
恋人達と遊びながら、その公爵家の事業にも幾つか携わっていると言うテオドロンの手腕には素直に関心する。
(頭がいいのは確かなのよね)
それなのに、何故愚かな事を仕出かしているのか。
その頭脳があれば、自分が周囲にどう見られているか等すぐに分かるのに。
「ウルミリア。個室が空いているそうだからそちらに行こう」
「……分かりましたわ」
テオドロンは、ウルミリアに振り向いてそう言うと店員の案内に着いていく。
何を考えているのか、その表情から読み取れなくてウルミリアは得体の知れない不気味さを感じた。
「さあ、ウルミリア何が飲みたい?紅茶に合うケーキも何種類かあるみたいだが……全部頼むか?」
「……いえ、お腹一杯になってしまうから紅茶だけで……」
「──?一口食べればいいだろう。後は残しておけばいい」
メニュー表を手渡しながらテオドロンにそう言われ、ウルミリアは何とも言えない表情をする。
これでは、普通の婚約者同士の逢瀬のようだ。
やはりテオドロンは今までの行いによって壊れた関係を修復したいのだろうか。
今までには無かったような対応をされてウルミリアは些か混乱する。
「──いえ。結構ですわ……。それよりも、テオドロン様……。何故急にこのような事をされたのか……そろそろ何が目的なのかお話頂いても宜しいでしょうか?」
「──……」
ウルミリアが真っ直ぐテオドロンを見つめると、それまでテオドロンが浮かべていた微笑みが表面上から消える。
テオドロンは自分とウルミリアの紅茶を店員に注文すると、ゆったりと足を組み、腕組みをした。
「──……逆に聞きたいが……ウルミリアは何がそんなに不満なのか」
「え……?」
「だってそうだろう?」
テオドロンの言葉に、ウルミリアがキョトンと瞳を瞬かせると億劫そうにテオドロンが言葉を続ける。
「好きなだけ宝石を贈るし、こうやって今若い世代に人気のカフェにも連れてきた。好きなだけ買い物をしていいし、好きな物を好きなだけ食べる事が出来る。その生活に何が不満なんだ?」
本当に理解出来ない、と言うような態度でそうテオドロンに問われ、ウルミリアはテオドロンの言葉に憤りを感じた。
「──私を、懐柔しようとしていたのですか?金品で人を懐柔しようと……?」
「……女性はそう言うのが好きだろう?過去の女性達も皆そうだった。僕の容姿や、僕が持つ金や権力が目当てだったんだ。例外などいなかった。公爵夫人となれば、その全てが手に入るんだから何も不満等無いだろう?だから、今日はそれを理解してもらおうとした」
懐柔など言われて不愉快だ、と眉を顰めてそう宣うテオドロンに、ウルミリアは感性の違いに目眩を覚えた。
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