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建国から続く古い家。
その家々の令嬢達がテオドロンの恋人となり、そして行方不明となっている。

「──旦那様も、気付いておられたのですか?」

ジルの言葉に、侯爵は苦虫を噛み潰したような表情をすると静かに首を横に振る。

「いや……。気付かなかった……。ウェスターに言われ、資料を見せられ説明され、知った……。かなり古い資料だぞ……?今では学園でもそのような事は学ばないだろう……」
「建国時から残る家門は数家のみ、と言われていますしね。しかも、普通ならば誇ってもいい事なのに何故か子爵家や伯爵家はそれを表に出そうとしていない……。何だかおかしいですよね」

父親である侯爵に、ウェスターはそう呟く。
確かにウェスターの言う通りだ。
建国から続く由緒ある家柄なのであれば、もっと誇ってもいい筈なのに、それを誇りに思い周囲に語っている家が無いのもおかしい。

ティバクレール公爵家は筆頭公爵家であり、歴史も古い為建国から続く家だと言うのは周知の事実だが、他の侯爵家や伯爵家は何故自慢しないのだろう、とジルは考える。
血筋が途切れず、長く続く家は格式高く、周囲に一目置かれるような長所しか無いはずなのに、何故。

「まあ、歴史が古いと言う事はいい事も悪い事も沢山目にして来た事だろうし、何かを隠したかったのか、それとも何かから目を背けたかったのかも知れないな……」
「侯爵家や、伯爵家が目を背けたい事実、ですか……?」

ウェスターの言葉に、ジルは言葉を繰り返す。
歴史ある家を誇るより、目を背けたい何か。
それが、公爵家が抱えるような闇なのか、それともこの国の?

ジルが視線を落として考え込んでいると、話していたウェスターが楽しそうに口端を持ち上げるとジルに向かって唇を開く。

「この国に、公爵家に、きな臭さが出てきたな。うちの可愛い妹の嫁ぎ先だ。このままでは妹を安心して預けれない。──ジル」
「──はいっ」
「公爵家にある歴史書を何冊か、出来れば古代文字で書かれている書籍を持って来てくれ。歴史書があれば何かが分かるかもしれない」

新しいおもちゃを見つけた少年のように瞳を輝かせてジルにそう告げるウェスターに、ジルはただただ頷いた。

ウルミリアは学園に向かった。
テオドロンが迎えに来たので、公爵邸にテオドロンは居ないだろう。

忍び込むには丁度いい時間になった。














「あの使用人は今日は居ないのか」
「──……、あぁ。ジルですわね」

揺れる馬車の中、興味無さそうにそう呟くテオドロンに、ウルミリアは自分に話し掛けられているとは気づかず、一瞬反応が遅れてしまう。

昨日に引き続き、何故か今日も迎えに来てしまったテオドロンの馬車に仕方なく乗り込んだウルミリアは、向かいの席にテオドロンから出来るだけ距離を取って座っていた為、反応が少し遅れてしまった。

「ジルはお父様の仕事に付いております」
「……。そうか」

ウルミリアは、テオドロンからそう返答があり、思わず心の中で「それだけ?」と呟いてしまう。
自分から話し掛けて来たくせに、大して興味が無さそうに素っ気なくそう答えただけで、視線をこちらに向けもしない。

(会話が弾まないわね……。何か探れればいいと思ったのだけど……)

今まで大した会話もして来なかったからか、話題が見つからない。
会話を広げようともした事がなかった為、テオドロンの言葉に続ける言葉が見つからない。

(ジルだったら……会話が尽きてしまう、なんて事ないのに……)

今頃、侯爵家を出た頃だろうか。
ウルミリアは、ジルを思い浮かべてついつい馬車の窓から外の景色を眺める。
そのウルミリアの様子を、真向かいに座ったテオドロンがじっと鋭い瞳で見つめるが、テオドロン等気にしていないウルミリアはその視線に気付かない。

「──あの使用人……。いつからウルミリアの側にいるのだ」
「へ、?え、えぇ。ジルは確か十年以上前からですわね」
「十年以上……。それ程か。──だから、使用人のくせに主人の名前を呼ぶのか」

テオドロンの言葉に、ウルミリアは戸惑う。
確かに、ジルだけがウルミリアの名前を呼ぶ。
他の使用人は皆、アマルでさえウルミリアを「お嬢様」と呼ぶが、ジルだけが「ウルミリアお嬢様」と名前を呼ぶ。

その事に会う機会も少なく、共に過ごす時間も少ないテオドロンが気付いているとは思わずウルミリアは眉を寄せる。
興味がない者の筈なのに、しっかりと自分達の関係性を見られている。
視野が広いのか、それとも観察されていたのか。

「ええ、そうですわね。ジルだけがうちの使用人の皆の中で私の名前を呼びます。……それが何か?」
「いや、なに……。随分と使用人に心を許しているのだな、と思ってな」

馬鹿にしたように、テオドロンに鼻で笑われてウルミリアはむっとする。

別に、自分が誰に心を許していても、誰と仲良く過ごしてもテオドロンには関係無いだろう。
その気持ちもあり、ウルミリアはテオドロンを責めるように瞳を細めると、唇を開く。

「ええ。そうですわね?テオドロン様と初めてお会いした際にお許し頂いたので、私も好きな人間と好きに過ごさせて頂いております。お相手がテオドロン様で無ければ、関係を改めなければいかないかもしれなかったので、感謝しておりますわ」

にっこりと嬉しそうに笑うウルミリアに、テオドロンは瞳を細めると、「生意気な」と低く呟きながら小さく笑った。
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