【完結】好きにすればいいと言ったのはあなたでしょう

高瀬船

文字の大きさ
上 下
40 / 68

40

しおりを挟む

建国から続く古い家。
その家々の令嬢達がテオドロンの恋人となり、そして行方不明となっている。

「──旦那様も、気付いておられたのですか?」

ジルの言葉に、侯爵は苦虫を噛み潰したような表情をすると静かに首を横に振る。

「いや……。気付かなかった……。ウェスターに言われ、資料を見せられ説明され、知った……。かなり古い資料だぞ……?今では学園でもそのような事は学ばないだろう……」
「建国時から残る家門は数家のみ、と言われていますしね。しかも、普通ならば誇ってもいい事なのに何故か子爵家や伯爵家はそれを表に出そうとしていない……。何だかおかしいですよね」

父親である侯爵に、ウェスターはそう呟く。
確かにウェスターの言う通りだ。
建国から続く由緒ある家柄なのであれば、もっと誇ってもいい筈なのに、それを誇りに思い周囲に語っている家が無いのもおかしい。

ティバクレール公爵家は筆頭公爵家であり、歴史も古い為建国から続く家だと言うのは周知の事実だが、他の侯爵家や伯爵家は何故自慢しないのだろう、とジルは考える。
血筋が途切れず、長く続く家は格式高く、周囲に一目置かれるような長所しか無いはずなのに、何故。

「まあ、歴史が古いと言う事はいい事も悪い事も沢山目にして来た事だろうし、何かを隠したかったのか、それとも何かから目を背けたかったのかも知れないな……」
「侯爵家や、伯爵家が目を背けたい事実、ですか……?」

ウェスターの言葉に、ジルは言葉を繰り返す。
歴史ある家を誇るより、目を背けたい何か。
それが、公爵家が抱えるような闇なのか、それともこの国の?

ジルが視線を落として考え込んでいると、話していたウェスターが楽しそうに口端を持ち上げるとジルに向かって唇を開く。

「この国に、公爵家に、きな臭さが出てきたな。うちの可愛い妹の嫁ぎ先だ。このままでは妹を安心して預けれない。──ジル」
「──はいっ」
「公爵家にある歴史書を何冊か、出来れば古代文字で書かれている書籍を持って来てくれ。歴史書があれば何かが分かるかもしれない」

新しいおもちゃを見つけた少年のように瞳を輝かせてジルにそう告げるウェスターに、ジルはただただ頷いた。

ウルミリアは学園に向かった。
テオドロンが迎えに来たので、公爵邸にテオドロンは居ないだろう。

忍び込むには丁度いい時間になった。














「あの使用人は今日は居ないのか」
「──……、あぁ。ジルですわね」

揺れる馬車の中、興味無さそうにそう呟くテオドロンに、ウルミリアは自分に話し掛けられているとは気づかず、一瞬反応が遅れてしまう。

昨日に引き続き、何故か今日も迎えに来てしまったテオドロンの馬車に仕方なく乗り込んだウルミリアは、向かいの席にテオドロンから出来るだけ距離を取って座っていた為、反応が少し遅れてしまった。

「ジルはお父様の仕事に付いております」
「……。そうか」

ウルミリアは、テオドロンからそう返答があり、思わず心の中で「それだけ?」と呟いてしまう。
自分から話し掛けて来たくせに、大して興味が無さそうに素っ気なくそう答えただけで、視線をこちらに向けもしない。

(会話が弾まないわね……。何か探れればいいと思ったのだけど……)

今まで大した会話もして来なかったからか、話題が見つからない。
会話を広げようともした事がなかった為、テオドロンの言葉に続ける言葉が見つからない。

(ジルだったら……会話が尽きてしまう、なんて事ないのに……)

今頃、侯爵家を出た頃だろうか。
ウルミリアは、ジルを思い浮かべてついつい馬車の窓から外の景色を眺める。
そのウルミリアの様子を、真向かいに座ったテオドロンがじっと鋭い瞳で見つめるが、テオドロン等気にしていないウルミリアはその視線に気付かない。

「──あの使用人……。いつからウルミリアの側にいるのだ」
「へ、?え、えぇ。ジルは確か十年以上前からですわね」
「十年以上……。それ程か。──だから、使用人のくせに主人の名前を呼ぶのか」

テオドロンの言葉に、ウルミリアは戸惑う。
確かに、ジルだけがウルミリアの名前を呼ぶ。
他の使用人は皆、アマルでさえウルミリアを「お嬢様」と呼ぶが、ジルだけが「ウルミリアお嬢様」と名前を呼ぶ。

その事に会う機会も少なく、共に過ごす時間も少ないテオドロンが気付いているとは思わずウルミリアは眉を寄せる。
興味がない者の筈なのに、しっかりと自分達の関係性を見られている。
視野が広いのか、それとも観察されていたのか。

「ええ、そうですわね。ジルだけがうちの使用人の皆の中で私の名前を呼びます。……それが何か?」
「いや、なに……。随分と使用人に心を許しているのだな、と思ってな」

馬鹿にしたように、テオドロンに鼻で笑われてウルミリアはむっとする。

別に、自分が誰に心を許していても、誰と仲良く過ごしてもテオドロンには関係無いだろう。
その気持ちもあり、ウルミリアはテオドロンを責めるように瞳を細めると、唇を開く。

「ええ。そうですわね?テオドロン様と初めてお会いした際にお許し頂いたので、私も好きな人間と好きに過ごさせて頂いております。お相手がテオドロン様で無ければ、関係を改めなければいかないかもしれなかったので、感謝しておりますわ」

にっこりと嬉しそうに笑うウルミリアに、テオドロンは瞳を細めると、「生意気な」と低く呟きながら小さく笑った。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。 ※誤字脱字、名前間違い、よくやらかします。ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))9万字弱です。

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

処理中です...