【完結】好きにすればいいと言ったのはあなたでしょう

高瀬船

文字の大きさ
上 下
38 / 68

38

しおりを挟む

ジルの言葉を聞いたウルミリアは、信じられないと言った表情で瞳を見開く。

監禁、と言っただろうか。
そんな非人道的な事をこの国の筆頭公爵家が?
しかも、何の為に……?

「そ、それは……昔の戦火に巻き込まれていた時の名残りとかでは無くて……?数百年前は、まだ国内がここまで落ち着いていなかったから、捕虜を捕まえていた、とか……」
「──いえ。そう言った場所とは雰囲気が違いました。公爵邸のその部屋は異質な空間だったのです……。まるで、証拠隠滅を計るような……」
「──そう言った証拠が残っていたの……?」

ウルミリアの言葉に、ジルは視線を落とすと小さくこくり、と頷く。

聞きたいような、聞きたくないような。
そのような気持ちになるが、それでもウルミリアは言葉を続ける。

「それは……、どんな……?」

ウルミリアの言葉に、ジルは躊躇うように一度視線を宙に彷徨わせるが、ウルミリアに視線を戻すとぽつりと言葉を零した。

「"出して"、と。恐らく、あれは子供の字かと……」

ジルの言葉を聞いて、ウルミリアはくらりと目眩を覚える。

「ウルミリアお嬢様……っ、」
「──大丈夫、大丈夫よ」

ソファから腰を上げかけたジルに向かってウルミリアは自分の手のひらを向けて制すと、扉付近に控えていたアマルへと視線を向ける。

二人の会話をただ黙って聞いていたアマルだったが、そのアマルの顔色も青白くなっている。
あまりの衝撃的な内容に、アマルも信じられないような心地なのだろう。

「ちょっと、待って……。頭を……頭を整理する時間が必要だわ……」

ウルミリアは自分の額に手のひらを当てながらぐるぐると考える。

──思っていたよりも、公爵家が抱えている闇は深いのではないか?

貴族達の弱体化を計り、国を弱らせ、今度は監禁?
何も線で繋がらない。

「テオドロン様は、何がしたいの……。そもそも、監禁って……テオドロン様が誰かをそうしていたの……?」

そこで、ウルミリアの脳裏に過去のテオドロン達の恋人達の姿が思い出される。
六名が行方知らずだ。

もしかしたら、と考えてしまったが、ジルは子供の字で書かれていた、と言っていた。

「待って、ジル……。その部屋……普段から使用されているような雰囲気だったの?」
「いえ……。少なくともここ暫くは使用されていた形跡はございませんでした……。埃も溜まっておりましたし、食料庫に僅か残っていた日持ちのするような食料も、原型を留めておりませんでした」
「──そう」

ジルの言葉を聞いて、ウルミリアは取り敢えずほっと息をつく。
ジルの言葉から、最近は使用していないと言う事が分かる。
それであれば、行方知らずの過去の恋人達はあの場所で監禁等されていないのだろう。

「短い時間だと、深くまで探れないわね……。それこそ本当に公爵家に嫁ぐなりしないと……」
「──いけません……っ!あのような場所がある公爵家に嫁いだら、ウルミリアお嬢様の身にも何が起きるか分かりません……!」
「けれど、公爵夫人には手を出さないと思うわ、きっと。幸い、テオドロン様も私を迎え入れるつもりなのは変わっていないみたいだし……」
「それでも、駄目です、絶対駄目です……きっと、この事を知れば旦那様も、ウェスター様もウルミリアお嬢様を止めると思います……」

ウェスター、ウルミリアの兄の名前を出されて、ウルミリア自身もうぐっ、と口篭る。

「──うぅ……。そうね……きっとお兄様が猛反対するわね……」
「ええ、そうですよ。明日、私が旦那様にしっかりとご報告致しますので……ウルミリアお嬢様はそろそろご就寝の準備をされて下さい……。明日も学園に行かれるのですよね?」
「──ええ、そうね……。テオドロン様がまた迎えに来られるかどうか分からないけれど……」
「もし、テオドロン様がウルミリアお嬢様を迎えに来られたら、私は明日行動を別に取らせて頂いても宜しいですか?テオドロン様が公爵邸に居られない際にもう一度地下を確認して参ります」
「──え、それは……もう一度同じ場所に侵入するのは危険を伴うわ。何かあったら……」

ウルミリアがジルの身を案じるように少し前屈みになると、ジルは緩く首を横に降って微笑む。

「深入りは致しません……。実は、書斎のような場所があったのですが、そこをもう一度しっかりと確認しておきたいのです」

そこを調べれば、公爵家の歴史が分かるかもしれない。
軽く確認した時は、図書館で確認出来るような書類や資料しか無かったが、それならば何故あのように別棟にあの資料達を隔離するように置いてあるのか。

「現公爵や、公爵夫人に見つからないように致しますので」

本当は公爵を捕らえて吐かせてしまうのが一番手っ取り早いが、まだ時期尚早だ。
先走ったせいで、公爵家に消されてしまう可能性も否定出来ない。
そうなると侯爵家にまで飛び火する可能性もある。

国に対して謀反を企てている、などと吹聴されてしまえば侯爵家は終わりだ。

「ウルミリアお嬢様は、普段通りテオドロン様と接して下さい。もし、明日テオドロン様が迎えに来られてもいつも通りで……。私が居ない事を不審に思われたら、そうですね……旦那様の仕事に付き従ってるとでも言って下さい」
「──分かったわ。絶対に無理はしない、と約束して頂戴」

ウルミリアは、ソファから立ち上がるとジルの手をそっと握り、しっかりと視線を合わせてそう告げた。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

私が再婚したら急に焦り始めた元旦那様のお話

新野乃花(大舟)
恋愛
ドレッド侯爵とアリステラは婚約関係にあったが、公爵は自身の妹であるエレスの事ばかりを気にかけ、アリステラの事を放置していた。ある日の事、しきりにエレスとアリステラの事を比べる侯爵はアリステラに対し「婚約破棄」を告げてしまう。これから先、誰もお前の事など愛する者はいないと断言する侯爵だったものの、その後アリステラがある人物と再婚を果たしたという知らせを耳にする。その相手の名を聞いて、侯爵はその心の中を大いに焦られるのであった…。

どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね

柚木ゆず
恋愛
 ※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。  あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。  けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。  そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。

余命3ヶ月を言われたので静かに余生を送ろうと思ったのですが…大好きな殿下に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、ずっと孤独の中生きてきた。自分に興味のない父や婚約者で王太子のロイド。 特に王宮での居場所はなく、教育係には嫌味を言われ、王宮使用人たちからは、心無い噂を流される始末。さらに婚約者のロイドの傍には、美しくて人当たりの良い侯爵令嬢のミーアがいた。 ロイドを愛していたセイラは、辛くて苦しくて、胸が張り裂けそうになるのを必死に耐えていたのだ。 毎日息苦しい生活を強いられているせいか、最近ずっと調子が悪い。でもそれはきっと、気のせいだろう、そう思っていたセイラだが、ある日吐血してしまう。 診察の結果、母と同じ不治の病に掛かっており、余命3ヶ月と宣言されてしまったのだ。 もう残りわずかしか生きられないのなら、愛するロイドを解放してあげよう。そして自分は、屋敷でひっそりと最期を迎えよう。そう考えていたセイラ。 一方セイラが余命宣告を受けた事を知ったロイドは… ※両想いなのにすれ違っていた2人が、幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いいたします。 他サイトでも同時投稿中です。

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

有能婚約者を捨てた王子は、幼馴染との真実の愛に目覚めたらしい

マルローネ
恋愛
サンマルト王国の王子殿下のフリックは公爵令嬢のエリザに婚約破棄を言い渡した。 理由は幼馴染との「真実の愛」に目覚めたからだ。 エリザの言い分は一切聞いてもらえず、彼に誠心誠意尽くしてきた彼女は悲しんでしまう。 フリックは幼馴染のシャーリーと婚約をすることになるが、彼は今まで、どれだけエリザにサポートしてもらっていたのかを思い知ることになってしまう。一人でなんでもこなせる自信を持っていたが、地の底に落ちてしまうのだった。 一方、エリザはフリックを完璧にサポートし、その態度に感銘を受けていた第一王子殿下に求婚されることになり……。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

処理中です...