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しおりを挟むジルの言葉を聞いたウルミリアは、信じられないと言った表情で瞳を見開く。
監禁、と言っただろうか。
そんな非人道的な事をこの国の筆頭公爵家が?
しかも、何の為に……?
「そ、それは……昔の戦火に巻き込まれていた時の名残りとかでは無くて……?数百年前は、まだ国内がここまで落ち着いていなかったから、捕虜を捕まえていた、とか……」
「──いえ。そう言った場所とは雰囲気が違いました。公爵邸のその部屋は異質な空間だったのです……。まるで、証拠隠滅を計るような……」
「──そう言った証拠が残っていたの……?」
ウルミリアの言葉に、ジルは視線を落とすと小さくこくり、と頷く。
聞きたいような、聞きたくないような。
そのような気持ちになるが、それでもウルミリアは言葉を続ける。
「それは……、どんな……?」
ウルミリアの言葉に、ジルは躊躇うように一度視線を宙に彷徨わせるが、ウルミリアに視線を戻すとぽつりと言葉を零した。
「"出して"、と。恐らく、あれは子供の字かと……」
ジルの言葉を聞いて、ウルミリアはくらりと目眩を覚える。
「ウルミリアお嬢様……っ、」
「──大丈夫、大丈夫よ」
ソファから腰を上げかけたジルに向かってウルミリアは自分の手のひらを向けて制すと、扉付近に控えていたアマルへと視線を向ける。
二人の会話をただ黙って聞いていたアマルだったが、そのアマルの顔色も青白くなっている。
あまりの衝撃的な内容に、アマルも信じられないような心地なのだろう。
「ちょっと、待って……。頭を……頭を整理する時間が必要だわ……」
ウルミリアは自分の額に手のひらを当てながらぐるぐると考える。
──思っていたよりも、公爵家が抱えている闇は深いのではないか?
貴族達の弱体化を計り、国を弱らせ、今度は監禁?
何も線で繋がらない。
「テオドロン様は、何がしたいの……。そもそも、監禁って……テオドロン様が誰かをそうしていたの……?」
そこで、ウルミリアの脳裏に過去のテオドロン達の恋人達の姿が思い出される。
六名が行方知らずだ。
もしかしたら、と考えてしまったが、ジルは子供の字で書かれていた、と言っていた。
「待って、ジル……。その部屋……普段から使用されているような雰囲気だったの?」
「いえ……。少なくともここ暫くは使用されていた形跡はございませんでした……。埃も溜まっておりましたし、食料庫に僅か残っていた日持ちのするような食料も、原型を留めておりませんでした」
「──そう」
ジルの言葉を聞いて、ウルミリアは取り敢えずほっと息をつく。
ジルの言葉から、最近は使用していないと言う事が分かる。
それであれば、行方知らずの過去の恋人達はあの場所で監禁等されていないのだろう。
「短い時間だと、深くまで探れないわね……。それこそ本当に公爵家に嫁ぐなりしないと……」
「──いけません……っ!あのような場所がある公爵家に嫁いだら、ウルミリアお嬢様の身にも何が起きるか分かりません……!」
「けれど、公爵夫人には手を出さないと思うわ、きっと。幸い、テオドロン様も私を迎え入れるつもりなのは変わっていないみたいだし……」
「それでも、駄目です、絶対駄目です……きっと、この事を知れば旦那様も、ウェスター様もウルミリアお嬢様を止めると思います……」
ウェスター、ウルミリアの兄の名前を出されて、ウルミリア自身もうぐっ、と口篭る。
「──うぅ……。そうね……きっとお兄様が猛反対するわね……」
「ええ、そうですよ。明日、私が旦那様にしっかりとご報告致しますので……ウルミリアお嬢様はそろそろご就寝の準備をされて下さい……。明日も学園に行かれるのですよね?」
「──ええ、そうね……。テオドロン様がまた迎えに来られるかどうか分からないけれど……」
「もし、テオドロン様がウルミリアお嬢様を迎えに来られたら、私は明日行動を別に取らせて頂いても宜しいですか?テオドロン様が公爵邸に居られない際にもう一度地下を確認して参ります」
「──え、それは……もう一度同じ場所に侵入するのは危険を伴うわ。何かあったら……」
ウルミリアがジルの身を案じるように少し前屈みになると、ジルは緩く首を横に降って微笑む。
「深入りは致しません……。実は、書斎のような場所があったのですが、そこをもう一度しっかりと確認しておきたいのです」
そこを調べれば、公爵家の歴史が分かるかもしれない。
軽く確認した時は、図書館で確認出来るような書類や資料しか無かったが、それならば何故あのように別棟にあの資料達を隔離するように置いてあるのか。
「現公爵や、公爵夫人に見つからないように致しますので」
本当は公爵を捕らえて吐かせてしまうのが一番手っ取り早いが、まだ時期尚早だ。
先走ったせいで、公爵家に消されてしまう可能性も否定出来ない。
そうなると侯爵家にまで飛び火する可能性もある。
国に対して謀反を企てている、などと吹聴されてしまえば侯爵家は終わりだ。
「ウルミリアお嬢様は、普段通りテオドロン様と接して下さい。もし、明日テオドロン様が迎えに来られてもいつも通りで……。私が居ない事を不審に思われたら、そうですね……旦那様の仕事に付き従ってるとでも言って下さい」
「──分かったわ。絶対に無理はしない、と約束して頂戴」
ウルミリアは、ソファから立ち上がるとジルの手をそっと握り、しっかりと視線を合わせてそう告げた。
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