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しおりを挟む「──……何なのかしら……」
ウルミリアは、テオドロンが乗った馬車が去って行くのを、訝しげに眉を顰めてぽつりと呟く。
ウルミリアの隣に立ったジルも、困惑顔だ。
「テオドロン様は何故急にウルミリアお嬢様と距離を縮めているのですかね……」
「さあ……。学園の卒業が近付いて来て、私達の結婚が現実味を帯びて来たからかしら?」
「今更関係の修復を図ろうとしているのですか?そんな馬鹿な……」
「ええ。本当に今更よ。これからテオドロン様との関係など修復できっこないわ。だからこそ、何を企んでいるのかしら……?」
ウルミリアは、ジルと言葉を交わしながら邸の玄関へと向かう。
本当に、今更なんのつもりなのだろうか。
テオドロンが取る行動の真意が掴めなくて混乱する。
お互い好きにすればいい、と言ったのはテオドロンだ。
ならば、今更関係の改善など必要無い。
それとも、改善しなければいけない何かが発生したとでも言うのだろうか。
「尾行していたのがジルだと気付いているの……?」
言葉にしながら、そんな筈は無いと考える。
その考えはジルも同じなようで、ウルミリアの言葉にジルは緩く首を横に降った。
「それは、有り得ないかと……。何者かに尾行されているのは勘付かれているとは思うのですが、普段の行動からテオドロン様自身も自分が目立つ存在だと分かって居られると思いますので、何処の誰が自分を尾行したのかまでは分かっていないと思われます」
「そう、よね……。もしかしたら察しては居るのかもしれないけど、私達がテオドロン様の行動を掴めないのと同じで、テオドロン様も私達の動きは掴めてはいないと思うわ……」
だが、何かしら感じ取ってはいるのだろう。
ジルもウルミリアとは同じ思いのようで、ウルミリアへと唇を開く。
「調査を、急ぎますか……?」
ジルの言葉に、ウルミリアは「そうね」と呟いた。
ジルは、ウルミリアに言われた事を遂行する為に夕食後自室へ戻ると闇に溶け込みやすい影用の仕事着に着替えていた。
(ウルミリアお嬢様も、旦那様もテオドロン様のティバクレール公爵家を探るように、と仰った……。テオドロン様個人では無く、公爵家……。それならば侵入の際には隠し部屋などが無いかどうかを確認した方がいいな)
大抵、どの家でも後暗い物がある場合は誰の目にも触れないような場所に隠している。
相手はこの国でも王族を除けば一番力も、歴史も古い公爵家だ。
その歴史もとても古くから続いている為資料もかなりの量になるだろう。
(──隠すなら金庫などではなく、部屋丸ごとを使用している筈……そうすると隠し部屋があるのは確実か……?)
ジルはそう考えると、最後に自分の鼻から下半分を覆う黒い布を首元からぐっと引き上げて顔半分を隠すと窓を開け、その場から姿を消した。
真夜中よりも、まだ人が活動している時間帯の方が邸内に人の気配が蠢く為紛れやすい。
ジルは公爵邸の屋根の上でじっと身を潜めながら、邸内の気配を探る。
時刻は日付が変わる少し前。
使用人達はまだその日の仕事が終わっていないのだろう。
忙しなく動いている気配が邸内から感じられる。
ジルは屋根のある場所へと向かうと、そっと下方を確認する。
ジルが確認したその場所はテラスとなっているらしく、窓から侵入が可能な場所だ。
だが、普段から余り人が寄り付かない場所なのか、その周辺に人の気配は無い。
慎重にテラスに降り立つと、降り立った体制のまま暫し息を殺す。
(大丈夫そうだな)
ジルはそのまま窓へと近付くと懐から鉄製の細長い物を取り出す。
窓が施錠されている事を確認すると、その鉄製の物を施錠の鍵がある場所へと差し込み何度か自分の腕を動かし、施錠を解く。
窓を僅かに開けて、細い隙間からするりと中へ入り込むと、音を立てないように窓を静かに閉めた。
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