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しおりを挟む「──貴女っ、私にそんな態度でいいと思っているんですか!?」
ミーチェの鋭い怒声に、ウルミリア達が居たテラスに視線が集中する。
その視線を、"自分の味方"だと勘違いしたミーチェは更に唇を開いた。
「周囲の人間の反応を見て下さい、ウルミリア嬢。婚約者に愛されず、ずっと蔑ろにされている貴女を皆馬鹿にしているのですよ?周囲の憐憫に満ちた視線を見て下さい。誰も彼もがウルミリア嬢を哀れみ、嘲り、見るに堪えないと思っているのですよ?」
「周りの視線──ですか」
ウルミリアはくすり、と小さく笑みを零すとそっと周囲を伺う。
確かに、テオドロンと婚約をした当初の頃は、テオドロンがウルミリア以外の女性を隣に連れていたり、学園でウルミリア以外の恋人を連れていたりした際は周囲から嘲るような視線を向けられた物だ。
だが、それも今ではどうだろうか。
今ではテオドロンの奇行に眉を顰め、公爵家の醜聞をみっともない、と呆れている家の者の方が多い。
テオドロンと婚約した当初は何故自分がこのような目に、と傷付き悔しさに涙を流した日々もあったが、今ではそれも遠い記憶となっている。
それでも、確かに未だにウルミリアへ嘲るような視線や言葉を投げて来る者も居るには居るが、そのような者の言葉にも、態度にも傷付く事は無くなった。
ウルミリアはそのような人々の言葉や態度にはもう傷つかなくなったのだ。
それよりも、最近はテオドロンの評判の方が地に落ちてきている。
その事実に目の前のミーチェは気付いていないのだろうか。
「何が可笑しいって言うのですか……!みっともなくテオドロン様に縋り付くのは辞めて下さいます!?いい加減、彼を解放して下さい!貴女が婚約を解消してくれないせいで、彼は毎日傷付いているのよ!」
興奮したようなミーチェの言葉に、ウルミリアはふとミーチェの後ろに視線を向けると瞳を細めてにっこりと笑う。
「まあ、テオドロン様がそんなにも悩んで居たとは気付かず申し訳ございません。早々に我が侯爵家とテオドロン様の公爵家で話し合いが必要ですわね?」
ウルミリアは、ミーチェの背後、面倒臭そうに表情を歪めたテオドロンに向かって声を掛けた。
テオドロンが近付いて来ている事になどちっとも気付いていないミーチェは、ぱぁっと表情を明るく輝かせると、嬉しそうに自分の両手を胸の前で重ね合わせた。
「あら!ウルミリア嬢やっと分かって下さったのね。それならば初めからそう言えば宜しいのに、公爵夫人と言う地位にみっともなくしがみつくからこのような辱めを受けてしまいますのよ?でも、そう言って下さっ──」
「申し訳ないね、ウルミリア。僕の友人が君に失礼な事をしたようだ」
背後にいたテオドロンは、目の前のミーチェの口を自分の手のひらで塞ぐと彼女の言葉を無理矢理封じ込める。
ミーチェは、まさかテオドロンが後ろに居た等思わなかったのだろう。
先程までの勢いが嘘のように顔色を真っ青にしてガタガタと震えている。
「まあ、大丈夫ですのよテオドロン様。私、テオドロン様の婚約者だと言うのに、テオドロン様のお気持ちにちっとも気付けませんでして……。これ程まで貴方を傷付けているとは思いませんでしたの」
「友人は何か誤解しているようでね。婚約者である君とあまり仲が上手く行っていないと勘違いし、心配してこのような暴走を……。ウルミリアを傷付けてしまっただろう。申し訳ない。僕は君を大事な婚約者だと思っているよ、友人の話は気にしないでくれ」
テオドロンは困ったように眉を下げてそう言うと、ミーチェを無理矢理自分の方へ振り向かせると、ミーチェの耳元で一言二言、何かを囁いた。
その瞬間、ミーチェは瞳を見開いてテオドロンへ視線を向けるが、テオドロンはその視線を無視してウルミリアへ言葉を続ける。
「せっかくの昼食の時間を邪魔してしまって申し訳なかった。僕はこれで失礼するよ、ウルミリア。また」
「──ええ、テオドロン様」
テオドロンは、にこやかに微笑んでウルミリアへそう言葉を告げると、ミーチェを連れてテラスを後にする。
ウルミリアも、これ以上昼食の時間を無駄にしたくない為、特にテオドロンに何か言うでもなく、その場からさっさと追い出す。
ウルミリアの隣に居たジルは、不機嫌さを隠しもせず、ウルミリアに振り向くと唇を開いた。
「ウルミリアお嬢様、何故あのような令嬢に何も言い返さなかったのです……!?」
「あら、ジルも気付いていたでしょう?ハズボーン嬢がここに来て少し。テオドロン様がハズボーン嬢の行動に気付いてこちらに近付いて来ていたわ。だから私、テオドロン様に向かってあのように言ったのよ」
ウルミリアは、そこで言葉を止めるとアマルの用意した昼食を手に取り、ぱくりと口に入れる。
もぐもぐと小さく口を動かして、こくりと飲み込むとハーブティーの入ったカップに手を伸ばし、中身を一口飲む。
「けれど、テオドロン様はハズボーン嬢を切り捨てたわね。私との婚約は解消や破棄をするつもりが無い、と言う事が分かったわ。……やっぱり、テオドロン様は恋人達を愛している訳ではないのよ」
婚約解消について少し話してみたらあのように恋人の口を塞いで無かった事にした。
恋人、ではなく友人の暴走として片付けたのだ。
ウルミリアはハンカチで自分の口元を軽く抑えると、ジルに向かって視線を向けた。
「──ハズボーン嬢、もしかしたらテオドロン様に処理される可能性があるわ。しっかり監視しておいてね」
「畏まりました」
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