【完結】好きにすればいいと言ったのはあなたでしょう

高瀬船

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そして、それから翌日もテオドロンの行動は前日とあまり変わらず、街へ出て前日とは違う恋人と逢瀬を楽しみ、公爵家の仕事として何件か店を視察して邸へと戻って行った。

その様子を確認していたジルは首を捻る。

何の為に女性達と会い、醜聞を広めているのか。
ジルは今までテオドロンの行動にそこまで着目した事は無い。
侯爵邸に婚約者としてテオドロンが足を運び、ウルミリアと形だけの婚約者としてお茶の時間を設け、ぽつぽつと会話をする姿を見ていた。

その後のテオドロンの行動を確認する事などなかったし、命令もされた事は無かったのだ。
だが、ここに来て最近ウルミリアの父親からも、ウルミリアからもテオドロンの周囲や行動を探るように、と言うような言葉が聞こえるようになって来た。

(旦那様が俺にそう言って来たのは、ご自身の影達だけだと目的を達成出来なかったからか?では、ウルミリアお嬢様は何故今になって急に……?テオドロン様からの態度に何か変化があったのか、違和感を感じたのか……)

ジルは自室で、先日侯爵に渡された報告書を横目で見ながら暖炉の中に放り込んだ。

内容は全て記憶した。
メイドの名前が記載された書類も、犯した犯罪を記した書類もこれで全て消える。

ぱちぱち、と音を立てて炎に飲み込まれ、そして炎に飲み込まれ崩れ去っていく紙の破片を瞳に写し、ジルはもう一度心の中で"可哀想にな"と呟いた。











休日明け。
学園に向かう日がやって来た。

ウルミリアはいつもの様にジルにその日のスケジュールを確認し、ジルの手を借りて馬車へと乗り込む。
その馬車にジルも、侍女のアマルも続いて乗り込んで馬車が学園に向けて動き出した。

「今日は一日座学の授業ですね、ウルミリアお嬢様。お昼はどう致しましょうか?学園のテラスでお食べになりますか?それとも中庭で?」

ジルの言葉に、ウルミリアは「そうね……」と呟くと唇を開く。

「今日はテラスにしようかしら?」
「畏まりました。昼食時にはご用意しておきますね」

ジルが微笑んでそう告げると、ウルミリアもジルに微笑み返す。
ウルミリア、ジル、アマルの三人は和やかに会話を続けながら、学園に到着するのを待った。




馬車に揺れること数十分。
学園に到着した事で馬車が停止すると、ジルが先に降りてウルミリアに手を差し出す。

ウルミリアもいつものようにジルの手を借りて馬車から降り、次いでアマルも降り立つと学園の正面玄関まで向かって歩いて向かう。

暫く歩き、正面玄関から中に建物内に入り、教室へ向かう為に階段へ向かう。

「──では、お嬢様。私は待機しております」
「ええ、アマルまた後でね」

階段から先へは、貴族の生徒一人につき、一人の侍従しか連れて行く事が出来ない。
その為、数多くの使用人達は学園内に設置された待機室で主人である人物の授業が終わるまで待機する。
授業が終わったり、使用人の人数が必要な授業の際には同行を許可されるが、教室内で人数が必要な授業は殆ど無い為、殆どが外での野外授業でのみ同行する。

また、主人に何かあった時だけ、その使用人は階段から先に向かう事が許可される為、殆どの子息、子女の使用人達は待機室で授業が終わるのを待つ。

だが、待機室でただ待機している使用人は少ない。
その待機室に居るのはその主人──貴族の子息や子女の使用人達だ。
数多くのその使用人達と会話をするチャンスを有効活用する場でもある。

そして、アマルは侯爵家の使用人──ウルミリアの侍女であり、公爵家の次期公爵夫人だ。
黙っていても、アマルの元には様々な家の使用人達が集まり、会話を試みてくる。
アマルはその中から、侯爵家に有益な情報を得られそうな相手を選び、慎重に様子を観察しながら交流して行く。
貴族社会は、貴族だけの戦いだけでは無く、使用人同士でも水面下で争いが起きているのだ。







階段を上り、教室に向かう為廊下をジルと共に歩いていると、ウルミリアの視線の先にテオドロンの姿が映った。

「──あら……?」
「あれは……」

見慣れたテオドロンの横には、先日まで共に過ごしていたラシェルの姿は無く、その代わりに今度は見慣れない令嬢が隣に寄り添っている。

「あらあら。まだミクシオン嬢とお別れしてから時間が経っていないと言うのに……。ジルが休日の間に見かけたのはあの女性かしら?」

ウルミリアが声を潜め、ジルに体を寄せながらそう問いかけると、ジルもウルミリアの耳元へ自分の顔を寄せながら唇を動かす。

「──いえ……。始めて見るご令嬢ですね……。あの方は、確か子爵家、ハズボーン家のご令嬢ですね」
「ハズボーン家……。ああ、ミーチェ・ハズボーン子爵令嬢かしら?以前、お茶会でご挨拶された事があるわね。その時に強く睨まれた覚えがあるけど……そう言う事だったのね」
「ウルミリアお嬢様にそのような不躾な態度を?申し訳ございません、私が処理しておけば良かったですね」
「──ふふ、睨まれただけでそうしては可哀想でしょう?ただ、三ヶ月程前だったから……テオドロン様はその時既にミクシオン嬢とハズボーン嬢お二人とお付き合いしていたのね」

こそこそと二人で声を潜め、会話をしている姿は周囲にどのように見られているだろうか。
まるで仲睦まじい恋仲のような光景に、周囲の生徒達や使用人は戸惑いの視線を向けている。

ラフィティシア侯爵家の令嬢と、使用人は仲が良い、と言う事はもう周囲には知られているが、今日はその先にウルミリアの婚約者であるテオドロンが居る。

案の定、ウルミリアとジル二人の姿に気付いたテオドロンは、不快感に瞳を細め、ウルミリア達に向かって歩いて来た。
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