19 / 68
19
しおりを挟むテオドロンが乗り込んだ馬車はその後、街の飲食店を何件か回り、その飲食店の内一つ、カフェでは誰かと待ち合わせをしているらしく、ジルが遠くから見守る中でテオドロンは学園の生徒らしい貴族女性とそのカフェで落ち合い、恋人同士のようにテーブルの上でお互いの手の指を絡めて笑顔で会話をしている。
(これ以上近付くとテオドロン様に気付かれる可能性があるな……)
風下に居るため、多少会話は聞こえて来るが声を落として話しているのか内容まではしっかりと拾えない。
テオドロンがカフェに着く前に回った飲食店は、公爵家が事業の中で融資している飲食店ばかりだった。
その為、ジルはテオドロンが家の仕事をしているのか、と思っていた所に現れたのがあそこの女性である。
相手の女性の後ろ側に居る為、ジルは女性の顔を見る事が出来ない。
あまり視線を向けてテオドロンに勘付かれても事だ。
何を話しているのか、内容はとても気になるが、ジルが座っている場所からは聞き取る事が出来ない為諦める事にする。
(休日に、ウルミリアお嬢様以外の女性と街で親密にしている、と言う事が分かれば充分だな……。それに、休日と言う事もあり街中には人が多い……。また学園内でテオドロン様の醜聞が噂になるだろう……)
ジルがそう考えていると、テオドロンとその女性がカフェのテーブルから立ち上がった。
ジルはその姿を視界に捉えながらそのまま二人の背中を視線で追う。
二人はカフェのテーブルから離れた場所で少し言葉を交わすと、再度お互いの指を絡ませてから離れて行った。
「──……大分離れたな」
ジルは、二人から大分距離が出来た所で席を立つとそのままテオドロンの尾行を続ける。
今日、テオドロンを尾行けただけでも二人の女性と親密そうな様子で会っていた。
その事から、テオドロンと今日の女性達は昨日今日の間柄ではないのだろう。
もしかしたら、ラシェル・ミクシオンと同時期か若しくはそれ以上前からの間柄なのかもしれない。
「これは想像以上だな……まさか、休日の度にこのような事をしていたのか……?だが、それだったら旦那様が既に知っている筈……」
侯爵家が既にテオドロンの身辺は探っていた筈だ。
それなのに、何故あの旦那様が何も言わないのか。
「いや、行動はしたが握り潰されたのか……?旦那様を握り潰す事が出来るのは──」
いくら公爵家であっても、ラフィティシア侯爵家の事を完全に抑える事は無理な筈。
実際、ウルミリアの父親は父親として、そしてラフィティシア侯爵家として何度かテオドロンの態度や婚約の解消について諌めたり、話を持って行っている筈だ。
だが、未だにその件は何も動きは無い。
「旦那様が沈黙せざるを得ない相手なんて、一つしかない──……」
ジルはその考えに至った瞬間、何かとてつもない面倒事にラフィティシア侯爵家は巻き込まれているのではないか、と背筋がゾッとした。
早くウルミリアの元に戻って、他愛もない話しで笑い合いたい。
テオドロンの事なんて捨て置いて侯爵家に戻りたい。
だが、ジルはウルミリアに頼まれてしまった。
テオドロンの行動を調べて欲しい、と言われればジルは断る事が出来ない。
ウルミリアに頼られれば何がなんでもウルミリアの役に立つ情報を得ないといけない。
それが、自分を助けてくれたウルミリアへ恩を返す事になる。
ウルミリアの優しさに助けられたジルはウルミリアの役に立つ事だけが自分の存在理由だ。
「ウルミリアお嬢様は何が何でも守らなければいけないな……」
最悪、侯爵家がどうなろうと。
最優先事項はウルミリアだ。もしウルミリアが傷付く事があるのであれば、侯爵からの命令も最悪の場合は後回しにしなければいけない。
もう、二度とウルミリアを先日のように目の前で倒れさせるものか、とジルは固く自分の中で誓うとテオドロンの後をしっかりと追った。
47
お気に入りに追加
4,301
あなたにおすすめの小説
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◆エールありがとうございます!
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆なろうにも載せ始めました
◇いいね押してくれた方ありがとうございます!

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。
ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。
しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。
もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが…
そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。
“側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ”
死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。
向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。
深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは…
※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。
他サイトでも同時投稿しています。
どうぞよろしくお願いしますm(__)m
公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】
佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。
異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。
幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。
その事実を1番隣でいつも見ていた。
一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。
25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。
これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。
何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは…
完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

最初からここに私の居場所はなかった
kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。
死なないために努力しても認められなかった。
死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。
死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯
だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう?
だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。
二度目は、自分らしく生きると決めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。
私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~
これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m
これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

愛してくれない婚約者なら要りません
ネコ
恋愛
伯爵令嬢リリアナは、幼い頃から周囲の期待に応える「完璧なお嬢様」を演じていた。ところが名目上の婚約者である王太子は、聖女と呼ばれる平民の少女に夢中でリリアナを顧みない。そんな彼に尽くす日々に限界を感じたリリアナは、ある日突然「婚約を破棄しましょう」と言い放つ。甘く見ていた王太子と聖女は彼女の本当の力に気づくのが遅すぎた。

【完結】裏切ったあなたを許さない
紫崎 藍華
恋愛
ジョナスはスザンナの婚約者だ。
そのジョナスがスザンナの妹のセレナとの婚約を望んでいると親から告げられた。
それは決定事項であるため婚約は解消され、それだけなく二人の邪魔になるからと領地から追放すると告げられた。
そこにセレナの意向が働いていることは間違いなく、スザンナはセレナに人生を翻弄されるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる