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「ウルミリアお嬢様……!お体は?お辛くありませんか?」

ジルが慌ててウルミリアの顔を覗き込むようにそう声を掛ければ、ウルミリアはパチパチ、と何度か瞬きをして意識がある事をジルに知らせる。

ジルの胸元のシャツを握る指先の力は酷く弱々しく、その指先も馬車の揺れで今にも剥がれ落ちてしまいそうだ。

ジルは「失礼します」と声を出すと、そっとウルミリアの指先を自分の手のひらで掬い取ると自分の手のひらに乗せて、そっと力を入れて握る。

ウルミリアの顔色を見る限り、顔色も悪くない。
現状ではまだ分からないが、今すぐ死に至るような毒では無かった事に安心しつつ、にぎにぎとウルミリアの手のひらを握る。

「──私の手を握り返す力は無さそう、ですね?」

ジルの言葉に、ウルミリアは肯定するようにパチパチと何度か瞬きをする。
その様子を見て、ジルはある仮説を思い付くとその仮説を口に出した。

「……もしかして、ウルミリアお嬢様。痺れが全身に回っておりますか……?」

ぱちぱち、と再度ウルミリアは何度も瞬きをする。
ジルの言葉にしっかりと反応を返す様子から、意識もしっかりとしており、混濁している様子が無い事にジルは安心して思わず自分の手のひらでウルミリアの指先をぎゅうっと握り締める。

「痺れ以外には何かお体に異常はありませんか?」

ジルの言葉に、ウルミリアは何も反応しない。
ぱちぱち、と瞬きする時が肯定の意味で、何も反応しない際は否定、と言う事なのだろうか。
ジルは握っているウルミリアの指先に未だ力が入って居ない事を確認すると、再度ウルミリアに向けて唇を開く。

「先程、テオドロン様とラシェル・ミクシオン嬢がウルミリアお嬢様が倒れた際に、こちらを見てミクシオン嬢の顔色が悪くなっておりました。テオドロン様は顔色が変わっておりませんでしたので真意は分かりませんが、もしかしたら今回の件に関わっているかもしれません」

ジルは、先程馬車へと向かう前に確認した光景を思い出し、ウルミリアへと報告する。
顔色だけで判断すると言うのはまだ早いかもしれないが、あの時のラシェルの怯えたような表情が強く印象に残っている。

ウルミリアが倒れた事に対して、驚くのは分かるがあのように怯えたような表情を浮かべたのは何故なのか。
ウルミリアの身に起きた事を調べる為にラフィティシア侯爵家が動くだろう。
侯爵家が介入すれば結果はすぐに分かるかもしれない。
その事に対する恐怖だろうか。
それとも、本当にただ単に突然倒れたウルミリアに驚いただけなのだろうか。

ジルがウルミリアへ視線を向けると、先程のジルの言葉に「分かった」と言うようにウルミリアは何度かぱちぱちと瞬きをした。

「きっと、旦那様がお怒りになるでしょうね……。犯人はどうなるか……」

そして、毒物が入っていると言うのに気付かずウルミリアへその毒物入りのお茶を用意してしまったメイドもどうなるか。

ジルは、深く溜息を吐き出すと馬車の揺れが響かないようにウルミリアをしっかりと抱き直し、侯爵家の邸に到着するまでただただ待った。






がたん、と小さく馬車が揺れて停まった事が分かると、ジルは馬車の窓から外を確認した。

「──到着致しました」

学園の御者から声を掛けられ、ジルが返事をする前に馬車の扉が外側から開けられる。

「──お嬢様っ」
「──あ」

扉から顔を覗かせたのは、ラフィティシア侯爵家に昔から仕えている執事のオリバーだ。
白髪混じりの髪の毛を後ろに流し、いつも冷静沈着なオリバーからは想像も付かない程、慌てたような様子で馬車内に顔を出した。

だが、馬車内でジルに抱えられたウルミリアに視線をやった後、次いでジルに視線を向けたオリバーに、ジルは気まずさを感じてそっと視線を外しながら「戻りました」と小さく呟いた。

「…………取り敢えずその状態に関しては何も聞きませんが……一先ずお嬢様を旦那様の場所へ……」
「わ、分かりました……」

ジルはこくり、と頷くとウルミリアを抱えたまま馬車のステップを降りて行く。
オリバーからウルミリアの体を受け取ろうか、と言うような視線を向けられたが、ジルは小さく首を振るとそのままウルミリアを抱き上げた状態で地面に降り立つとそのまま邸の玄関へと向かう。

後に続くオリバーから書斎に行くように言付けられ、ジルはその言葉に返事をするとゆっくりとウルミリアの父親であるラフィティシア侯爵の待つ書斎へと向かった。
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