【完結】好きにすればいいと言ったのはあなたでしょう

高瀬船

文字の大きさ
上 下
5 / 68

5

しおりを挟む

ウルミリアをちらり、と見やるがウルミリアはしっかりとジルを見つめ返している。

「──ぅ……っ。ウルミリアお嬢様……そのような目で見られても……っ」

ジルは、何とかウルミリアを元いた場所に戻そうとあれこれ説得を続けるが、頷いてはくれない。
そればかりか、じっと無言で見つめ続けられてたじろぐ。

ジルがウルミリアに何を言っても頷いてくれ無いというのは分かっているのだが、ジルもどうしても諦めきれない。
そう思って、ウルミリアとジルが言葉を交わし続けていると、ジルが先程避けたい、と考えていた事が現実に起きてしまう。

二人が話していると後方から人の近付く気配がして、話し掛けられる。

「このような場所にまで入り込むなんて……。やはり君は貴族としての自覚が足りていないのだな……。君が僕の婚約者だなんて恥ずかしい限りだよ」
「──あら、テオドロン様」

ウルミリアの後ろから、テオドロンは呆れ果てたというような表情を隠しもせず、やはり隣にウルミリア以外の女性を連れながら話し掛けて来る。
テオドロンから貶すような言葉を言われても、ウルミリアは気にした素振りを見せずにけろっとそう言葉を返す。

その態度がまたテオドロンの癪に触ったのだろうか。
不機嫌そうに眉を寄せると、今度はテオドロンはジルへ視線を向けるが、その視線が非難めいている。

「──君はウルミリアの使用人だろう。主人を諌めるのも使用人の仕事の内だ。しっかりと自分の仕事をしたまえ」
「──……申し訳ございません」

テオドロンからは絶対に言われたくない、と言う言葉を言われてジルは不快な感情を何とか表に出さないように抑え込むとそっとテオドロンから視線を外した。
ジルのその態度にテオドロンは一瞬眉を顰めたが、次はウルミリアに視線を向けて唇を開こうとする。
だが、ウルミリアはテオドロンが何か言う前に先んじて唇を開くと、テオドロンへ遠回しに何処かに行ってくれ、と言葉を紡いだ。

「先程からジルは私に対して元の場所に戻るように、と言ってくれておりましたわ。ジルの言葉に逆らっていたのは私ですわ。ジルは何も悪くございませんので彼を責めないで下さいませ。──テオドロン様、私達これから場所を移動致しますので……」
「まったく……。君は……。僕に恥をかかせないでくれよ……。女性は女性らしく美しく着飾り、ラシェルのようにただ僕に寄り添っていればいいものを……そうだろう、ラシェル?」
「──ええ、まったくその通りですわ。テオドロン様。使用人達に混ざり、泥塗れになるなど貴族として……いえ、女性としてどうかと思いますわよ、ウルミリア嬢?」

テオドロンに話し掛けられたラシェルは、ウルミリアに向かって侮蔑の視線を送りながら最後の方は嘲り笑いながら言い放った。

「──……それでは、失礼致しますわね」

ウルミリアはラシェルの言葉には反応せず、テオドロンへ向かって一礼するとそのままくるり、と踵を返してジルや、他の使用人達の元へと向かって歩いて行く。

背後でラシェルが何やらまだ話しているがそれを無視して歩いて行った。
後からテオドロンに嫌味ったらしく文句を言われても構わない。
ウルミリアはラシェルに挨拶をされていないし、ウルミリアからラシェルに視線を向けてもいない。
侯爵家の令嬢であるウルミリアより伯爵家の令嬢であるラシェルの方が身分は低い。
身分の低い者から挨拶をするのは当たり前で、友人でもないラシェルがウルミリアに突然馴れ馴れしく話し掛けるのはいくら学園の中とは言え、失礼な行為にあたる。

そして、ウルミリアはジルと言う従者を学園に連れて来ている為、ウルミリアへ無礼な態度を取ったラシェルは必ず侯爵家当主であるウルミリアの父親へと報告されるのだ。

あの場所に居続けてしまったら、更にラシェルの無礼な対応が続きそうであった為、ウルミリアは敢えてラシェルの言葉を無視してその場を後にする為に移動した。
言うなれば、ウルミリアは彼女を「守った」のだ。

今はテオドロンが気まぐれにラシェルを気に入り側に置いているが、ラシェルに飽きたら?
テオドロンの後ろ盾が無くなってしまったら彼女は学園内で孤立する。

「──今までのテオドロン様の行動を見ていらっしゃらなかったのかしらね?」

ウルミリアは、誰に話し掛けるともなく呟く。
しっかりとウルミリアの後ろに着いて来ていたジルがその言葉に反応して、呆れたように返答した。

「恐らく、信じられぬ程記憶力が無いご令嬢なのでしょう。今までテオドロン様が飽きられたご令嬢方は尽く学園から姿を消しておりますからね」

自主的な退学か。
それとも侯爵家が手を回したか。

まだ学生であるウルミリアは家から詳細を伝えられていないが、確かに学園に入学してから二年。
テオドロンに気に入られ、側に置かれていた令嬢達はラシェルで九人目だ。
ラシェルの前に側に置かれていた令嬢達は皆、既にこの学園内にはいない。

「──彼女はどれくらい持つのかしらね?」
「さぁ……今までで最長ではございますが、何とも……」

公爵家嫡男であるテオドロンは、ウルミリアと初めて顔合わせを行った際に言い放った言葉通り、本当に様々な女性と沢山の恋を楽しんでいる。
ウルミリアは、何度家に相談しても、侯爵家から公爵家へ何度苦言を呈しても婚約を解消する事も出来ず、テオドロンの行動が変わる事も無い事に気付き早々にテオドロンと信頼関係を築く事を諦めた。
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

私を売女と呼んだあなたの元に戻るはずありませんよね?

ミィタソ
恋愛
アインナーズ伯爵家のレイナは、幼い頃からリリアナ・バイスター伯爵令嬢に陰湿ないじめを受けていた。 レイナには、親同士が決めた婚約者――アインス・ガルタード侯爵家がいる。 アインスは、その艶やかな黒髪と怪しい色気を放つ紫色の瞳から、令嬢の間では惑わしのアインス様と呼ばれるほど人気があった。 ある日、パーティに参加したレイナが一人になると、子爵家や男爵家の令嬢を引き連れたリリアナが現れ、レイナを貶めるような酷い言葉をいくつも投げかける。 そして、事故に見せかけるようにドレスの裾を踏みつけられたレイナは、転んでしまう。 上まで避けたスカートからは、美しい肌が見える。 「売女め、婚約は破棄させてもらう!」

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです

神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。 そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。 アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。 仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。 (まさか、ね) だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。 ――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。 (※誤字報告ありがとうございます)

私は家のことにはもう関わりませんから、どうか可愛い妹の面倒を見てあげてください。

木山楽斗
恋愛
侯爵家の令嬢であるアルティアは、家で冷遇されていた。 彼女の父親は、妾とその娘である妹に熱を上げており、アルティアのことは邪魔とさえ思っていたのである。 しかし妾の子である意網を婿に迎える立場にすることは、父親も躊躇っていた。周囲からの体裁を気にした結果、アルティアがその立場となったのだ。 だが、彼女は婚約者から拒絶されることになった。彼曰くアルティアは面白味がなく、多少わがままな妹の方が可愛げがあるそうなのだ。 父親もその判断を支持したことによって、アルティアは家に居場所がないことを悟った。 そこで彼女は、母親が懇意にしている伯爵家を頼り、新たな生活をすることを選んだ。それはアルティアにとって、悪いことという訳ではなかった。家の呪縛から解放された彼女は、伸び伸びと暮らすことにするのだった。 程なくして彼女の元に、婚約者が訪ねて来た。 彼はアルティアの妹のわがままさに辟易としており、さらには社交界において侯爵家が厳しい立場となったことを伝えてきた。妾の子であるということを差し引いても、甘やかされて育ってきた妹の評価というものは、高いものではなかったのだ。 戻って来て欲しいと懇願する婚約者だったが、アルティアはそれを拒絶する。 彼女にとって、婚約者も侯爵家も既に助ける義理はないものだったのだ。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。 婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。 「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」 サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。 それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。 サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。 一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。 若きバラクロフ侯爵レジナルド。 「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」 フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。 「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」 互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。 その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは…… (予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。 ※誤字脱字、名前間違い、よくやらかします。ご都合主義などなど、どうか温かい目で(o_ _)o))9万字弱です。

お前なんかに会いにくることは二度とない。そう言って去った元婚約者が、1年後に泣き付いてきました

柚木ゆず
恋愛
 侯爵令嬢のファスティーヌ様が自分に好意を抱いていたと知り、即座に私との婚約を解消した伯爵令息のガエル様。  そんなガエル様は「お前なんかに会いに来ることは2度とない」と仰り去っていったのですが、それから1年後。ある日突然、私を訪ねてきました。  しかも、なにやら必死ですね。ファスティーヌ様と、何かあったのでしょうか……?

処理中です...