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翌朝。
気持ちの良い朝の日差しに、ウルミリアは瞳を開けるとんんっと声を出してそのままの体勢で伸びをする。

大きく息を吐き出して、さて今日は学園でどんな光景が見られるかしらとにんまりと口の端を持ち上げる。

「好きにしろ、と言うのであれば私は私で好きにするわ……。その結果、テオドロン様が周囲からどう言う目で見られるか……。見物よね」

ウルミリアがくすくすと声を潜めて笑うと、一拍置いて自室の扉がノックされる。

「お嬢様、お目覚めでしょうか?」

扉の向こうから、女性使用人の声が聞こえる。
ウルミリアは起きてるわ、と返事をすると朝の支度の為に使用人を室内に入れ、身支度を始めた。









「おはよう、ジル。今日も宜しくね」
「ウルミリアお嬢様、おはようございます。本日も宜しくお願い致します」

大階段を下りて食堂へ向かうと食堂の前でジルが待っており、ウルミリアの姿を視界に入れるとふわりと笑みを浮かべた。
ウルミリアもジルに向かって微笑むと、声を掛けた。

ウルミリアが食堂内へと足を進めて行くのに合わせてジルも体の向きを変えてウルミリアの後に続く。
その際に、ジルは今日一日のスケジュールを確認して行く。

「ウルミリアお嬢様。本日は学園の午前の授業で野外に出て薬草採取の授業がございます。日焼け防止のクリームと、日傘、実際に採取する際の人員を三名ほど用意致します」
「──ええ、ありがとうジル」

ウルミリアはこくり、とカップから紅茶を一口飲み込むとソーサーへ戻す。
そして視線をジルへと向けると言葉を続けるように促す。

「本日は快晴ですので、学園の庭園にて昼食と致しましょうか。ご友人方にもこちらから数名お声掛け致します。午後の授業は礼儀作法の座学でございますね。──……ウルミリアお嬢様には必要のない項目ではございますが……」

ジルがちらり、と伺うように視線を向けてくる。
その視線を受けてウルミリアはにっこりとジルに微笑み返すと「参加するわ」と返事をした。

「──かしこまりました。参加なさるとの事ですね」
「ええ、宜しくお願いね。ジル」

お任せを、と胸に手を当てて頭を下げるジルに、ウルミリアは満足そうに微笑むと朝食をゆっくりととり始めた。






馬車に乗り、学園までの道すがら馬車の中でジルと侍女であるアマルと談笑しながら向かう。
家の使用人である者達と同じ馬車に乗る、と言う事はあまり褒められた行為ではないのだが、ウルミリアはそのような貴族としては当たり前、と言うようなルールを鼻で笑い飛ばす。

共に過ごしたい者と過ごして何が悪いのか。
無理をして嫌な人間と共に過ごしたり、自分の気持ちを曲げてまで貴族のルールを守りたくはない。

がたん、と馬車が小さく揺れて学園に到着した事を知ると、ジルが素早く動いて馬車の扉を開けてひらり、と地面へ降り立つ。
次いでウルミリアの侍女、アマルが降りると最後にウルミリアが馬車の扉から姿を見せる。

「ウルミリアお嬢様、お足元お気を付け下さい」
「……ありがとう、ジル」

すっ、とジルがウルミリアへ向かって手を差し出すと、ウルミリアも当たり前のように差し出された手に自分の手のひらを乗せる。

初めは、使用人が降りた馬車からウルミリアが姿を表した事に周囲は騒然となったが、日を追う事にその光景は「当たり前」となり、今では周囲の生徒達も慣れている。

高位貴族であり、国軍の総指揮官を務めるこの国で絶大な軍事力を持つラフィティシア侯爵家の娘であるウルミリアに、面と向かって何かを言う貴族の子息や令嬢はいない。
さらに、ウルミリアは一応はテオドロンの婚約者である。
実家の権力、婚約者の家柄を見て皆、ウルミリアのやる事に苦言を呈すものはいない。

唯一、ウルミリアの婚約者であるテオドロン以外は。



「──ウルミリア。君はまたこのような貴族の質を落とす事を……」

背後から声を掛けられて、ウルミリアはにっこりと笑みを浮かべるとくるり、と声の聞こえた方へと振り向いた。
目の前に居たジルが、嫌そうに表情を歪めたのが視界の隅に映った。

「──あら、テオドロン様。おはようございます」

ウルミリアはつい、と自分のスカートの端を指先で摘み、持ち上げると軽く膝を曲げる。
一応は婚約者である人物へ礼を尽くした挨拶だ。

相手からは朝の挨拶も無かったけれども。

「みっともない事は辞めてくれ。使用人と共に馬車に同乗するなど……君の貴族としての質を貶めるだけだぞ」

(貴族の質、ねぇ?)

ウルミリアはテオドロンの言葉に返事はせず、少しだけ眉を下げてやり、悲しげな表情を浮かべて微笑む。

ウルミリアの目の前には、確かにテオドロンが立っているが、そのテオドロンの腕に絡み付くようにして、自分の腕を絡ませている一人の女性が居た。

彼女の名前は
ラシェル・ミクシオン。
伯爵家の令嬢で、テオドロンの恋人である。
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