冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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◇◆◇

 ティータ帝国の王女、マルゲルタがクリスタの実家に滞在して早数日。
 クリスタ達の帰りを待っていたマルゲルタの下に、魔法で手紙が届いた。

 魔力のないクリスタには、魔法で手紙をやり取りする事が出来ない。
 そのため、クリスタの両親は彼女と共に居るギルフィードに連絡をしたのだが、ギルフィードから返事が戻ってきたのだ。

「クリスタからの手紙も入っているわ……!」

 嬉しそうに表情を綻ばせ、同席している護衛のユーゼスに話しかけるマルゲルタ。
 ユーゼスは呆れたように笑い、「早く読んでくださいよ」とマルゲルタをせっつく。

 破いてしまわないよう慎重に手紙を開封したマルゲルタは、書かれている文章を読み、驚きに目を見開いた。

「──なんてこと……。こんな事、あっていいの……?」
「王女殿下? クリスタ様から何て返事がきたのですか?」

 興味津々、といった様子のユーゼスにマルゲルタは顔色を悪くしたまま手紙を手渡す。
 「いいんですか?」と言うような視線をユーゼスから向けられたが、マルゲルタはこくりと一度深く頷いた。

「……信じられないわ。もしかしたらタナ国は、禁術に手を出していたのかも……。多くの犠牲が必要な、忌み物を作り出していたのかもしれないわ……」
「──これ、は……。これが本当なのであれば……」

 手紙から顔を上げたユーゼスも、マルゲルタ同様、顔色が真っ青だ。

 クリスタからの手紙には、タナ国で得た情報が事細かに記載されていた。
 何枚にも及ぶ手紙を読み終えたマルゲルタとユーゼスは、無言で一冊の本に視線を向ける。

 そこには、マルゲルタが国から持ってきた持ち出し禁止の書物「魔術と歴史」があった。




 ディザメイアでは、あまり多くが知られていない魔術。
 遠い昔に魔術の使い手は滅び、今は魔術というものがあった、と伝わっているだけ。

 魔術の術式も、魔術を発動するために必要な古代文字も、歴史の資料で知る事が殆どだ。


 だが、そもそも魔術は北大陸で生み出された。
 古来、欲に溺れた人間が自分の欲望を満たすために多大な犠牲を払い、魔術を創り出した。

 本来、魔術は犠牲を伴う。
 それが魔術という術の正しい姿だ。

 今現在、広く知られている「魔術」は古代文字を複合して対価を払わぬよう作り替えられたもの。
 だからこそ、本来の魔術とはまた違うものなのだが、本来の魔術を継承し、ひっそりと使い続けていた国が、今回クリスタ達が訪れていたタナ国なのだろう。

 「忌み物」は本来の魔術でしか作り出せない。
 本来の魔術なのであれば、忌み物一人を作り出すために多大な犠牲者を出している筈である。

 忌み物が作り出される意味は、対となる人間を守るため。
 その人間が受ける痛みも、苦しみも、死ですら肩代わりするための魔術だ。

 だが、対となる人間が何故か既にこの世を去っている。



「……反転したわね」
「王女殿下……?」

 ぽつり、と呟いたマルゲルタの言葉が聞こえず、怪訝な顔をしたユーゼスが聞き返すが、マルゲルタは笑みを浮かべ、誤魔化す。

(……何が目的なの……? 忌み物にされた、恨み……? 復讐だとでもいうのかしら……)

 もし、そうだとしたら。
 忌み物が受けた苦しみや痛みは想像を絶するのだ。
 相当の恨みを抱いているだろう。

(……まさか、大陸全土を巻き込んで戦争を仕掛けたり……しないわよね……?)

 マルゲルタは、ふ、と浮かんだ自分の考えに慌てて頭を横に振る。

 いくら何でも、現実離れしている。





 クリスタからの手紙が届いた翌日。
 ようやくタナ国からクリスタ達が戻ってきた。
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