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 全員が屋内に入り、一息つく。

 外観の荒れた状態から想像していたほど室内は荒廃しておらず、思っていたよりも綺麗だ。

「クリスタ様」

 ギルフィードに呼ばれ、そちらを向くとギルフィードが着替えの予備として持っていた綺麗な服を汚れた椅子に敷いているのが見える。
 そのギルフィードの心遣いが嬉しいのと同時に申し訳なく感じて、クリスタは困ったように微笑んだ。

「ギル……貴方の服が汚れてしまうのに……」
「クリスタ様を汚れた椅子に座らせることは出来ません」
「──ありがとう」

 意思の強い瞳に見つめられながら言われたクリスタは感謝の言葉を告げながら、用意された椅子に腰を下ろした。
 クリスタが椅子に座った姿を見届け、ギルフィードやキシュートも座り、三人の中で最初にキシュートが口を開いた。

「まず、情報を整理しよう」
「ええ、そうね。キシュート兄さんの言う通りだわ。あの場所に動揺してしまって、情報整理が追い付いていないものね」
「クリスタ様の言う通りですね。俺も今は頭の中がぐちゃぐちゃになってます……情報整理をしないと……」

 あの部屋で得た情報が多すぎる。
 先ずは一つずつ整理して行くことで、頭の中も整理することにした。

 護衛からあの地下の部屋から持ち帰った証拠品の数々を受け取り、大きなテーブルの上に取り出した証拠品を並べていく。

「……あの肖像画に描かれていた女性がタナ国のソニア王女であれば、ディザメイアにいる寵姫はソニア王女じゃないってことよね?」

 クリスタの言葉にギルフィードも、キシュートも頷く。

「詳しいことは分からないけど……。国王陛下は寵姫のことを亡国の王女と言っていたから……あの寵姫は陛下をも騙していると言うことになるわね。タナ国の王女に扮して、何をするつもりなのか……」
「それはきっと、あの寵姫が本当に忌み者なのであれば、忌み者として過ごしてきたことと関係していますよね?」

 クリスタの言葉にギルフィードが言葉を返す。

 今、ディザメイアにいるソニアが忌み者だったとしたら、とソニアが忌み者として過ごして来たと過程して、話を進める。

 ギルフィードの考えに同調するように、キシュートが口を開いた。

「忌み者として扱われたことに対する恨みを晴らそうとしているだけなのか、それともそれ以上の企みがあるのか……。そもそも、タナ国での忌み者の役割を把握する必要があるな」
「ええ。キシュート兄さんの言う通りよ。私たちが知っている、忌み者の役割なのか。それともそれ以上の……酷い生活を強いられていたのか……。彼女の、寵姫が強いられていた生活を調べる必要があるわ」

 忌み者の風習は、文献として残されている資料が限りなく少ない。
 顔を背けたくなってしまうほど、悪しき風習のだめ詳細に記されている書物は少ないのだ。

 クリスタはあの部屋から持ち出した証拠品をなんの気なしに見つめ、紛れていた厚手の本を手に取った。
 表紙を開き、ぱらぱらと中を確認する。
 中に書かれている文字は見慣れないものだ。
 それに、所々インスが掠れてしまっていて、読めない部分もある。
 紙の劣化具合から見て、相当昔の物だと言うことが分かる。

「……日記や、手記かと思ったけど……読めないわね」
「クリスタ様にも読めませんか?」
「ええ。古代文字じゃなくて……かつてタナ国で使われていた文字なのかしら? 見たことがないから、この文字についても調べないと」

 クリスタの手元にある本を、キシュートも覗き込む。
 そして考え込むようにして口元に手をやった後、キシュートは呟くようにして言葉を零した。

「……タナ国と関わりのあった国と接触を図るか……?」
「──! 確かに……、そうすれば解読することが可能かしら? だったら、私も外交時に交流を持った周辺諸国に連絡をしておくわ」

 キシュートとクリスタがそれぞれ本に書かれている文字を調べる、と言うことに決まる。

「──そうと決まれば、私はディザメイアには戻らずこのまま近隣の国に向かう。アスタロス公爵家に戻っている時間はないな」
「キシュート兄さんにも、負担を強いてごめんなさい……」
「いいさ。可愛い妹分のクリスタのためだ。それに、このまま何もせずにいたら、あの寵姫にディザメイアが滅茶苦茶にされてしまう可能性だってあるだろ? それは、流石に看過できない」
「ありがとう、キシュート兄さん……。私も出来うる限りのことはするわ」



 そして、クリスタたちは夜が更けるまでこれからのことを話し合った。


◇◆◇

 クリスタ達が元タナ国にいる時。
 クリスタの実家、ヒヴァイス侯爵家に一人の女性がやって来た。

「──来たわよ、クリスタ……! 何だか大変なことになっているじゃない?」

 腰に手を当て、高く聳える侯爵家の門を見上げる。
 門前にいる門番が困ったような顔をしていて、もう一人の門番は大慌てで邸に向かっていた。

 女性の背後から、彼女の護衛だろうか。すらりと背の高い男が疲れ果てたような顔でやって来る。

「……先触れも出さずに……。これでクリスタ様がいなかったらどうするつもりですか、王女殿下」
「それなら、クリスタが戻るまで待つわ。私の大親友が困っているのよ? 直接話を聞かなくちゃ、どう手助けすればいいのかわからないじゃない?」

 王女殿下、と呼ばれた女性は真っ黒の髪の毛をばさりと後ろに払い、勝気な笑みを護衛に向けた。
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