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しおりを挟む護衛の声に、クリスタ達はぱっと顔を上げ護衛が指し示す報告を見やる。
するとそこには地下に続く階段がぽっかりと口を開けていて。
近付いて階段を見下ろすとぽっかりと口を開けたその先。この部屋の明かりが届かない先は闇に包まれ階段を覗く一同は薄気味の悪さにぶるり、と体を震わせた。
「……先頭は俺が。キシュートはもう魔力も限界だろう? クリスタ様をしっかり守ってくれ」
「……階段が狭いから一列でしか進めないか。仕方ない」
「えっ、ちょっとギル……っ! 貴方自ら先頭なんて危ないわ……! 階段の先に明かりを投下してみるのはどう? 視覚で無事を確認してから、階段を降りた方がいいわ……!」
自ら先頭に立ち、階段を降りると告げるギルフィードを心配してクリスタはそう言葉を紡ぐ。
クリスタの言葉に、二人の護衛達はこくこくと頷き危険な事はしないでくれ、と言わんばかりの表情だ。
「──クリスタ様がそう言うのであれば……。けれど、先頭は変わらず俺が行きます。この場所に居た獣のような物が出てきたら対応出来るのは恐らく俺だけですから」
ギルフィードの言葉に、クリスタはキシュートに視線を向ける。
するとギルフィードの言葉を肯定するようにキシュートは深々と頷いた。
「魔力切れを起こしかけている俺や、護衛の手には負えない……。ギルフィードじゃなきゃ無理だ」
「……危険だ、と思ったら直ぐに上に戻りましょう。いい?」
「ええ、分かりましたクリスタ様」
「明かりを投下します」と護衛が告げ、火魔法で作り出した明かりを階下に落とす。
すると、真っ暗だった階段が途端明るく照らされ、長く長く続く階段がクリスタ達の目の前に現れる。
警戒していた、獣などの姿は何処にも見当たらず階段の一番下には重厚な扉が鎮座していた。
「……あるだろうとは思っていたが、本当にまだ部屋があるのか……」
キシュートが呟き、ギルフィードが無言で階段に足を掛ける。
各々自分の武器に手を掛けながら階段を下って行く。
ギルフィードを先頭に、護衛が続きその後ろにキシュートとクリスタ。そして最後尾には数人の護衛が。
このような場所で万が一敵襲に会えばひとたまりもない。
だが、その心配は杞憂に終わる。
あっさりと最下層に到着した一行は、その奥に続く部屋への扉を押し開いた。
ぎい、と耳障りな音が響き扉が開かれる。
投下した明かりが扉の隙間から部屋の中を照らし、扉の隙間が広くなるに比例して部屋の中も明るく照らされる範囲が広くなる。
「──これは……」
そして、先頭で獣の襲撃に備えていたギルフィードは腰の長剣に手を掛けたまま唖然と呟いた。
その部屋の中は。
一言で表すのであれば豪華絢爛。
一国の主が過ごすに相応しい程の煌びやかな内装に、調度品。
ディザメイアの王妃であったクリスタですら目が眩んでしまうほど煌びやかな室内はだが、そんな豪華な内装や調度品に似つかわしく無い物の存在が大きく主張していて。
それが一番に目に入った一行は動揺に瞳を揺らした。
「……なんなの、これ」
「クリスタ様、まだ安全では無い可能性が……傍を離れないで下さい」
よたよたと足を動かし、室内の中心部に歩いて行こうとしたクリスタをギルフィードが腕を掴んで引き止める。
そして、クリスタを引き止めたギルフィードの腕が微かに震えている。
その震えは、畏怖によるものか。憎悪か。
クリスタは自分を抱えるようにして回るギルフィードの腕に、自分も手のひらを重ねながら目の前に広がる光景をじっと、真っ直ぐ見つめる。
壁面、床に無数に散らばる魔術の古代文字。
そして、床に広がる夥しい血痕。
その血痕は茶色に変色していて、その血液の持ち主は遠い昔に事切れている事が容易に想像出来る。
「……っ、あの古代文字は……見覚えがあるわ……」
「どれ、ですか……?」
ぽつりと零したクリスタの言葉に、ギルフィードが反応する。
クリスタが一心に見つめる先。その先は壁で。
壁に描かれている古代文字のある部分を指先で指し示したクリスタがその古代文字を読み上げた。
「──あれは、忌み物……。古くから続く国で行われていた悪しき風習を示す文字よ……。王族は、神聖な存在……その神聖な存在を守るために必ず王族には対となる忌み物が必要だったの……。神聖な存在に襲い掛かる悪しきもの、出来事を全て肩代わりする忌み物……。そのものは魔術を施された人間よ……」
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