94 / 115
94
しおりを挟む◇
──タナ国、王城跡。
クリスタ達一行はキシュートとの話し合いが終わり次第、王城跡に移動を始めた。
闇夜に紛れて周囲を注意深く確認しつつ、跡地に向かう。
その道中、獣などに襲われる事はあったがそれはキシュートが言っていた得体の知れない物ではなく、普通の獣だった。
そのため、護衛騎士が難なく獣の対応をしてクリスタ達は怪我を負う事も、無駄な魔力の消費も起こさずに王城跡に到着した。
「──ここにも古代文字が刻まれているわね」
城壁の部分に到達した時にクリスタがふと足を止め、壁をそっと自分の指先でなぞる。
「そうなんです、クリスタ様」
「この間ギルが見せてくれた城壁の欠片はほんの一部分だったのね。この場所では広範囲に古代文字が刻まれているわ」
クリスタのすぐ背後からギルフィードがクリスタと同じように城壁に刻まれた古代文字に視線を向ける。
キシュートが火魔法の灯りを二人の近くに移動させながらクリスタに話し掛けた。
「クリスタは見覚えが? まさか解読出来るのか?」
「──まさか! 流石に解読は出来ないわ。ギルとも話していたのだけど、ティータ帝国から同じ古代文字が刻まれた文献を献上された事があるの。だから先日帝国の知り合いに手紙を送っておいたわ。何か知っていてくれれば良いのだけど……」
「手紙を? もう送って下さったんですね、クリスタ様。どなたにお送りしたのですか?」
「昔外交で赴いた際に仲良くしてくれたマルゲルタ王女に送ったわ。王族だから、王族にしか伝わっていない事を知っているかもしれないわ」
けろり、と帝国の王女に手紙を送ったと告げるクリスタにギルフィードもキシュートもぎょっとしてしまう。
「……そう言えば、そうでしたね……」
「ああ……クリスタは昔から他国の人間と距離を詰めるのが上手いからな……」
ギルフィードとキシュートはお互い顔を見合わせて苦笑してしまう。
先程クリスタは簡単に口にしたが、北大陸のティータ帝国は北大陸の中で最大の国土を持つ強国だ。
クリスタ達の国、ディザメイアにも引けを取らない強大な軍事国家だ。
魔法士の総人口もディザメイアより多く、また力の強い魔法士も多い。
そんな帝国の王女に気軽に手紙を送り、やり取り出来るのはクリスタを含め数少ない。
クリスタは二人が若干引き攣った笑みを浮かべているのに気付かず、ケロリとしていて「直ぐにマルゲルタから返事があるといいけど」などと呑気に口にしている。
そんなクリスタを横目で見つつ、キシュートはギルフィードに向かってぽそりと呟いた。
「今後、我が国は外交問題で痛手を食らうな……」
「……キシュート」
ギルフィードが何とも言えない表情を浮かべ、キシュートはひょいと肩を竦めた後、クリスタの下に歩いて行った。
古代文字が刻まれていた城壁を過ぎ、王城跡に足を踏み入れる。
ぽつり、ぽつりと事切れている人間の体が視界に入る。
その者達の身に付けて居る衣服はクリスタやギルフィードの国では見慣れないデザインと、素材を使用しているようで。
その事から事切れ、地面に転々と存在しているそれらはギルフィードやキシュートを襲った敵側の人間だと言う事が分かる。
「──……」
周囲を見渡しながら「それでも」とクリスタは胸中で呟く。
(事切れている人の数が多いわ……。それだけ、この国の城には隠したい何かがあった、と言う事なのかしら……?)
城の内部に入り、廊下を歩いているとクリスタは突然前方に巨大な穴が空いているのを確認して目を見開いた。
魔法か何かで床をぶち抜いたとでも言うようなその惨状に、クリスタは自分の隣を歩くギルフィードをついつい見やってしまう。
「……」
「ギル」
クリスタの視線を受け、顔を背けたギルフィードにクリスタはじっと見詰めたままギルフィードの名前を低く呟く。
すると、びくりと肩を震わせたギルフィードがおずおずとクリスタに顔を向けて眉を下げ、何とも情けない表情を浮かべる。
「……その、キシュートを助けるために仕方なく」
「でも、こんな広範囲を破壊してしまったら……古代文字などが刻まれていたらそれも破壊してしまっていた可能性があるのよ?」
「……すみません」
思い切りの良いギルフィードに呆れてクリスタがそう告げると、ギルフィードはしゅんと項垂れてぽそぽそと呟く。
二人がそんなやり取りをしている間にキシュートは魔法を発動してその穴からさっさと階下に降りてしまっており、二人の護衛達もキシュートに続いて降りてしまっている。
「──あっ! クリスタ様、皆が先に行ってしまってます……! 一先ず降りましょう……!」
「あっ、ちょっと……っ」
話を変えるようにぱっと表情を明るく変化させたギルフィードは、魔法が使えないクリスタをぱっと横抱きにして魔法を発動する。
とんっ、と軽やかに床を蹴って自分が作り出した大穴に飛び込んだギルフィードに、クリスタは自分の額に手を当ててしまった。
453
お気に入りに追加
2,052
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
夫はあなたに差し上げます
水瀬 立乃
恋愛
妊娠をきっかけに結婚した十和子は、夫の綾史と4ヶ月になる息子の寿真と家族3人で暮らしていた。
綾史には仲良しの女友達がいて、シングルマザーの彼女とその娘をとても気にかけていた。
5人で遊びに行った帰り道、十和子は綾史達と別れて寿真とふたりで帰路につく。
その夜を境に、十和子の停滞気味の人生は意外な形で好転していく。
※小説家になろう様でも連載しています
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
生まれたときから今日まで無かったことにしてください。
はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。
物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。
週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。
当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。
家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。
でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。
家族の中心は姉だから。
決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。
…………
処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。
本編完結。
番外編数話続きます。
続編(2章)
『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。
そちらもよろしくお願いします。
私のことなど、どうぞお忘れくださいませ。こちらはこちらで幸せに暮らします
東金 豆果
恋愛
伯爵令嬢シャーロットは10歳の誕生日に魔法のブローチを貰うはずだった。しかし、ブローチは、父と母が溺愛していた妹に与えられた。何も貰うことができず魔法を使うことすら許されないという貴族の娘としてはありえない待遇だった。
その後、妹メアリーの策略で、父と母からも無視されるようになり、追いやられるように魔法学園に通うことになったシャーロット。魔法が使えないと思われていたシャーロットだったが、実は強大な魔力を秘めており…
さらに学園に通ったことが王族や王子とも出会うきっかけになり…
夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~
小倉みち
恋愛
元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。
激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。
貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。
しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。
ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。
ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。
――そこで見たものは。
ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。
「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」
「ティアナに悪いから」
「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」
そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。
ショックだった。
ずっと信じてきた夫と親友の不貞。
しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。
私さえいなければ。
私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。
ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。
だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。
私を拒絶した王太子をギャフンと言わせるために頑張って来たのですが…何やら雲行きが怪しいです
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のセイラは、子供の頃からずっと好きだった王太子、ライムの婚約者選びの為のお茶会に意気揚々と参加した。そんな中ライムが、母親でもある王妃に
「セイラだけは嫌だ。彼女以外ならどんな女性でも構わない。だから、セイラ以外の女性を選ばせてほしい」
と必死に訴えている姿を目撃し、ショックを受ける。さらに王宮使用人たちの話を聞き、自分がいかに皆から嫌われているかを思い知らされる。
確かに私は少し我が儘で気も強い。でも、だからってそこまで嫌がらなくても…悔しくて涙を流すセイラ。
でも、セイラはそこで諦める様な軟な女性ではなかった。
「そこまで私が嫌いなら、完璧な女性になってライムをギャフンと言わせていやる!」
この日から、セイラの王太子をギャフンと言わせる大作戦が始まる。
他サイトでも投稿しています。
※少し長くなりそうなので、長編に変えました。
よろしくお願いいたしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる