93 / 115
93
しおりを挟む「魔力が、ない……!? 一体どう言う事だそれは……!?」
クリスタの言葉にキシュートは驚きを隠せず、上擦った声を上げてしまう。
だが、キシュートがこれ程驚くのも無理は無い。
魔力が無くなってしまうなんて事象、今まで聞いた事も無いのだから。
「混乱するのも無理はないわ、キシュート兄さん。私もその時は信じたくなかった。けれど、本当に今の私は魔法が発動出来ないの」
戸惑っているキシュートの目の前で、クリスタは小規模な氷魔法を発動しようとした。
手のひらを上に向けて氷魔法で物体を造形しようと、魔力を練り上げ発動しようとする。
けれど、クリスタの手のひらから僅かな光が発生した後、魔法が発動する事なくその光は直ぐに収まってしまう。
その後もクリスタはもう一度同じ事を繰り返したが結果は同じで。
「──っ、もう良い……。もう、大丈夫だ」
クリスタの手首を掴み、キシュートが魔法の発動を止めさせる。
そして混乱し、戸惑った表情のままクリスタに目を向けた。
「何故こんな事になっている……? 魔法が発動出来なくなる、とは……何かの病気が原因か? 医者に魔力回路を調べさせた方が……!」
「キシュート兄さん、原因は分かっているの。だから回路を調べてもらう必要はないわ」
「原因が分かっているのか……!? それならば、再び魔法を発動出来るようになるかもしれない、原因は何だ!?」
ぐっ、とクリスタに詰め寄るキシュートに、ギルフィードが悔しそうに答えた。
「──寵姫だ。あの、寵姫がクリスタ様の魔力を喰ったんだよ、キシュート……!」
ギルフィードの言葉に、キシュートは目を見開きクリスタを見詰める。
キシュートの視線を受けたクリスタは肯定するように唇を噛み締めた後、小さく頷いた。
「──そんな、事が? 人の、人間の魔力を喰う事が……? そんな事が可能なのか?」
嘘だろう、と言うようにキシュートは動揺が隠せない。
クリスタも、ギルフィードも大切な事を冗談めかして口にするような人間では無い。
二人が口にした事は真実なのだ、と言う事が二人と長年付き合いのあるキシュートは分かってしまう。
そしてクリスタやギルフィード達の護衛の姿を見ても二人が口にした事が本当なのだ、と言う事が分かり、キシュートは混乱する頭を押さえ「待ってくれ」と言いながら近場にあった岩に腰掛けた。
信じられないし、信じたくない事だ。
そんな事が出来てしまえば。人間の魔力を本当に喰らう事が出来てしまえば。
人を無力化させる事だって出来てしまう。
魔力を殆ど持たない平民と同等にまで成り下がってしまうと言う事だ。
そんな事が自在に出来る人間がいるとしたら。
キシュートやギルフィード達のように多くの魔力を持ち、魔法士である人間の脅威となる。
「そんな魔法を、あの寵姫は一体どこで……。そもそも魔力を喰らう魔法があるとは……」
「違うわ、キシュート兄さん。恐らく魔法ではなくて、魔術。あの寵姫は魔術を使用しているの」
「──魔術!? それはとっくの昔に滅びているだろう!?」
クリスタの言葉にキシュートは益々驚き、声が裏返ってしまう。
だからクリスタは、ギルフィードと話した魔術の事をキシュートに一つずつ説明して行く事にした。
◇
鬱蒼と茂げる森の中。
昼間も陽の光が殆ど入らず薄暗い森だが、今は日も落ちて周囲に闇が迫っている。
そんな中、キシュートはクリスタやギルフィードから説明された内容を聞いて、驚きに空いた口が塞がらなかった。
そして、その後暫し頭を抱える。
「──嘘だろう……、タナ国が……滅亡したタナ国が魔術を継承している国だったとは……」
キシュートは仕事柄様々な国に足を運ぶし、国の文化などにも精通している。
そんなキシュートがこれ程驚いている事から、魔術と言うものは本当に遥か昔に滅びているのだ。
魔術というものの詳細も多くは残されていない。
それなのに、滅びたタナ国の王族は魔術を継承していた。それに飽き足らず城の城壁に魔術を施していたのだ。
魔術と言うものが存在していた事は文献にも残っている事から知る人は居る。
だが、その魔術を操る事が出来る人間が今の時代にいるとは、とキシュートは戸惑っていた。
「だが、実際魔術の力でタナ国の城は守られていたし、クリスタ様本人が魔術をその身に受けている。事実、だろう……?」
ギルフィードの言葉にキシュートはゆるり、と首を縦に振る。
認めるしかない、認めざるを得ない。
「……ならば、やはりあの最下層にはどうしても行かねばならないな……」
「……でも、かなり危険な場所なのでしょうキシュート兄さん。目立たないように動くため、護衛も少数でやって来たから……増援を呼んでからの方がいいんじゃないかしら?」
「……いや。強襲された事もあるし、タナ国の城は監視されている可能性が高いだろう? これ以上の長居は危険だ。……速やかに最下層を調べ、王都に戻ろう」
「うん、キシュートの言う通りだな。俺とキシュートが先陣を切ればその獣? も、どうにか殲滅出来るかもしれない」
「そうだな。クリスタは最下層手前の階段部分で待機してもらって……。殲滅が済んだら入ってもらおうか」
ギルフィードとキシュートはトントンと話を進めて、最下層に向かう手筈を整え始めた。
493
お気に入りに追加
2,037
あなたにおすすめの小説
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。
りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。
やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか
勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。
ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。
蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。
そんな生活もううんざりです
今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。
これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

わたしがお屋敷を去った結果
柚木ゆず
恋愛
両親、妹、婚約者、使用人。ロドレル子爵令嬢カプシーヌは周囲の人々から理不尽に疎まれ酷い扱いを受け続けており、これ以上はこの場所で生きていけないと感じ人知れずお屋敷を去りました。
――カプシーヌさえいなくなれば、何もかもうまく行く――。
――カプシーヌがいなくなったおかげで、嬉しいことが起きるようになった――。
関係者たちは大喜びしていましたが、誰もまだ知りません。今まで幸せな日常を過ごせていたのはカプシーヌのおかげで、そんな彼女が居なくなったことで自分達の人生は間もなく180度変わってしまうことを。
体調不良により、現在感想欄を閉じております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる