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しおりを挟む動揺を顕にするクリスタを何とか落ち着かせ、クリスタとギルフィード一行はキシュートが潜伏していると言う村外れの森に向かった。
何故、王都に戻って来ないのか。
何故、国境付近のこの村に潜伏し続けているのか。
キシュートの考えも、会えば分かるだろう。
クリスタ達は周囲を注意深く確認しつつ、森に入って行く。
鬱蒼と茂る森は伸びた枝が上空を覆い尽くしていて太陽光が届かず昼間だと言うのに薄暗く、何処か不気味だ。
時折吹く風に木々の葉が揺れ、さわさわ、カサカサと揺れ動き葉が擦れ合う音が耳に届き森の雰囲気を不気味にしている。
じめっとした、肌にまとわりつくような空気が心地悪くてクリスタは常に緊張感に包まれ行動しているため疲れが色濃く出て来てしまう。
そんなクリスタに心配して近寄って来たギルフィードが話し掛ける。
「クリスティー、大丈夫……? やっぱりもう少し村で休憩してから出発すれば……」
「いいえ、大丈夫よギル。ありがとう……」
気丈に振る舞うクリスタに、ギルフィードは益々眉を下げてしまう。
慣れない旅路に、常に周囲を警戒しなければならない毎日に精神的にも疲労が限界に達しているのだろう。
やはりクリスタは侯爵家で待機していてもらった方が良かったか、とギルフィードが後悔していると、目の前が開けた。
「──あ」
森の中に突然現れた開けたスペース。
焚き火の跡や、人が居た形跡が残っている事から、近くにキシュートが潜んでいる可能性が高い。
「クリスティー。キシュートかもしれないけど……もしかしたら違う可能性がある。離れないでね……」
「ええ、分かったわギル」
今のクリスタは魔法を使う事が出来ない。
以前のように自在に魔法を使う事が出来ればここまで警戒する事はないが、この場に居た人物がもしキシュート達でなければ万が一の可能性がある。
魔法の使えないクリスタは自分の身を守る事が出来るのは短剣だけだ。
クリスタは自分の背中側に装備していた短剣を腰元のホルダーから取り出して構える。
周囲の護衛達もピリピリとした緊張感を孕んでいて、足音を立てないように慎重に移動している。
そして、ギルフィードが先に焚き火の跡にやって来てそこにしゃがみ込み、周囲に視線を巡らせた。瞬間──。
「ここまで来させてすまない」
ガサリ、と森の木々を掻き分けてひょこりと姿を現した見慣れた男、キシュートの登場にクリスタもギルフィードも安心して体から力を抜いた。
◇
合流したキシュートと、言葉少なに再会の言葉を交わした後、場所を変えると言うキシュートにクリスタ達一行は着いて行った。
足取りもしっかりしていて、疲弊しているのは目に見えて分かるが栄養状態も悪く無さそうに見えるキシュートにクリスタは安堵した。
外から見る限り、酷い怪我を負っているようにも見えない。
ただ、キシュートが一人でクリスタ達の前に姿を現した事だけが気がかりで。
少ないながらもキシュートは精鋭の護衛を連れていた筈だ。
それなのに、今目の前を森の深部に向かって歩いて行くキシュートの周辺に護衛らしき他の人間の気配は全く感じない。
無言で歩き、進むキシュートの後を着いてどれだけ進んだだろうか。
目的の場所に到着したのだろう。
そこでやっとキシュートが足を止めて、クリスタは目を見開いた。
「……っ、キシュート兄さん……!」
「──ああ、最後の一人も息絶えてしまってな。ここには私一人が潜伏している」
悔しそうに目を伏せて告げるキシュートの言葉の通り。
森の深部まで進んだキシュートは、少しだけ開けた場所で足を止めている。
開けた場所には少しだけ小高い山のような物がいくつかあり、その山の上に長剣が置かれている。
その様子から直ぐにこの小高い山の正体はキシュートの護衛達の物なのだろうと言う事が分かり、クリスタは無言で膝を着いた。
クリスタの行動に倣うようにギルフィードも護衛達も膝を着き、小高い山に向かって手を合わせる。
ぐっ、と唇を噛み締め、クリスタは目を瞑り護衛達の冥福を祈る。
キシュートはこの場を離れたくとも、離れられなかったのだろう。
自分を守り、命を落とした護衛達をこの場に置いて自分だけ王都に戻る事は避けたかった筈だ。
「……我が国のために戦った彼らを、私は誇りに思うわ。神のみもとで安らかに過ごしているでしょう」
「王妃殿下にそう言われて、彼らも誇らしい気持ちかと。ありがとうございます」
クリスタの言葉に、キシュートは苦しげに笑い、言葉を返す。
そして、クリスタ達が立ち上がりキシュートに向き直った事を確認して、キシュートは懐から一つの魔道具を取り出した。
「キシュート兄さん、それは……?」
クリスタが不思議そうにその小さな装置のようなものを見つつ、キシュートに声を掛けるとキシュートはクリスタに向かってその魔道具を起動した。
──ぶん
と低い虫の羽音のような音が聞こえたと思った次の瞬間。
クリスタの目の前に「映像」が現れた。
「これはギルフィードの国、クロデアシアで開発された映像記憶の魔道具だ。使用者の魔力量によって記憶出来る時間に違いがあるのだが……。まあ良い、これを見てくれ二人とも」
いつも処理している書類程度の範囲に映し出された映像に、クリスタとギルフィードは近付いて行った。
そして、目の前に映し出された映像に目を見開いた。
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