冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 小さな町での買い物は直ぐに終わってしまう。
 商店もこじんまりとした店で、市井にあまり馴染みの無いクリスタは見る物全てが新鮮で、視線をあちらこちらに向けてしまう。
 一方ギルフィードは慣れた様子で店主と会話に花を咲かせ、世間話をしている。

(ギルフィード王子は王族で、私よりもこういった状況に不慣れな筈、と思っていたけれど……)

 思ったよりも順応しているギルフィードに「これは自分の国でも度々抜け出して市井に下りているな」と分かってしまう。

「──ありがとう、店主」
「ああ、また機会があれば寄ってくれよ」
「負けてくれるならな!」

 笑いながら会話を終え、クリスタの所に戻って来るギルフィードをクリスタは悪戯っぽく笑みを浮かべたまま待つ。

「随分慣れた様子ね」
「──あっ。……その、内緒にしてくださいね」

 恥ずかしそうに自分の人差し指を唇の前に差し出すギルフィードにクリスタは眉を下げて笑う。
 ギルフィードの護衛達も慣れた様子で、気にした風も無い事からクリスタが思っていたよりもギルフィードは自国では自由に動いているのだろう。

「それよりも……随分話が盛り上がっていたわね。何を話していたの?」
「ああ……ここ最近の物流事情を聞いていたんです」
「物流を……? そんな事、簡単に教えてくれないんじゃ……」
「まあ……店にとっては大事な情報ですしね。けれど結構快く教えてくれましたよ。物流関係は以前と変わらないみたいですが……最近、王都の方面から国境方向に向かう人が増えたみたいです」
「本当?」
「ええ。ここは中継地点のような町ですからね……。大体の旅人や、商人はこの町で物資をしっかり調達して国境に向けて出発する訳ですが……最近──ここ数ヶ月は以前よりも確実に人が増えているようです。それも、直近ではかなり」
「……急に増え始めるのは変だけれど……店の店主が気にする程、記憶に残っていたの?」
「はい。それが、その旅人達は店主が聞いた事の無い言語を話していたようで、記憶に残っていたみたいです。周辺国の言葉でもなく、聞いた事のない言語だったので強く印象に残っていたみたいですね」

 さらり、と告げられた言葉にクリスタはもしや、と考える。
 周辺国の言語はこの国の人間であれば耳馴染みがある。
 しかも、国境付近に向かうための中継地点のようなこの町であればそう言った言語を話す人は多いだろう。
 それなのに、その町の店主が聞いた事の無い言語を口にする者の利用が多いらしい。

「それ、は……引っ掛かるわね。ここ最近急に増えたのであれば」
「ええ、そうでしょう? だから……後は宿の下にある食堂ででも夜中に情報を集めようか、と思っています」
「夜中……? そんなに人が集まるかしら」
「大丈夫ですよ。こういった中継地点の町では夜にかけて町に到着する人が増えますし、情報を集めるには夜の方が向いています」

 あ、クリスタ様は寝てて下さいね、と笑顔で告げるギルフィードに、クリスタは素直に頷いた。



 ──夜。
 夕食が終わり、クリスタを部屋に送り届けたギルフィードは夜は酒場になる一階に数名の部下と共にやって来た。

 自分達の部屋の見張り、クリスタ自身の護衛はクリスタが侯爵家から連れて来た護衛達が引き受けたため、ギルフィード達は情報収集を担当した。

「女性客はあまり多く無い。万が一クリスタ、クリスティー様の休む部屋に近付く男が居たら直ぐに処理しろ」
「分かりました、主」

 女性客が宿泊している、と言う事が分かり馬鹿な行動に走る男も少なくは無い。
 王都から離れれば離れるだけ、距離に比例して治安が悪くなる。
 その事を自国で嫌な程痛感しているギルフィードはクリスタの部屋がある二階を心配そうに仰ぎ見たが、クリスタが連れて来た護衛もいる。
 心配な事には変わりないが、異変が起きたら直ぐに駆け付ける事が出来る場所で情報収集を行う事に決めた。


 ギルフィードと護衛の四人は適当に酒を煽りつつ、周囲に聞き耳を立てる。
 今の所周囲から聞こえて来るのは耳馴染みのあるディザメイアの言語だけ。
 そして聞こえて来る内容に関しても世間話が多い。

「今日は外れか……何も有益な情報はなさそうだな」
「ええ。もっぱら気候や、移動に関してが殆どですね。早めに切り上げますか?」
「そうだな……。明日からも移動が続く。体力は温存しておいた方が良いな」

 あと少しだけこの場で時間を潰してから上に戻るか、と決めたギルフィード達だったが、酒場の客の一部。
 ギルフィード達の二つ程隣の席で談笑をしていた数人の男達が新聞を取り出して話し始めた内容に目を見張る事になる──。
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