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しおりを挟む「待って……。確か、他国との国交で……献上品として納められた書物の中に似たような文字が……」
「本当ですか!? それは一体どの国が……!」
クリスタの言葉にギルフィードはぱっと表情を輝かせる。
その国がどこか分かれば、解読の手掛かりを得る事も出来るかもしれない。
「確か……王妃教育の時に学んだわ。あれは、そう……! そうよ、北大陸にあるティータ帝国よ! ティータの国の遺跡から文献が発掘されて、その中の数点を友好の証として献上されたのよ!」
「北大陸ですか……!? と、言う事は魔術と北大国は深い関わりがあると言う事ですかね……。それともタナ国の王族が北大陸と深い関わりがあったと言う事か……」
「どちらかは分からないわね……。他にタナの城から持ち帰った物は無いの?」
正面のソファに座るクリスタからぐっと顔を寄せられ、ギルフィードははっとして慌ててソファに背中を預ける。
期待に満ちたクリスタのキラキラと光る瞳を真正面から直視してしまったギルフィードは若干頬を染め、顔を逸らしながら返答した。
「持ち帰れるようなものは何も……」
「そう、なの……」
しゅん、と肩を落とすクリスタに慌ててギルフィードは言い募った。
「で、ですが! クリスタ様のお陰で北大陸ティータ帝国の事が知れましたから! ティータ帝国と関わりがあるのか、それともタナ国が北大陸と関わりがあるのかが分かった事が大きな進歩です!」
「そう、かしら……? ふふ、王妃教育も無駄にはならなかったと言う事ね」
「そうですよ。クリスタ様の行ってきた事に無駄な事なんて何一つありませんよ」
ギルフィードの言葉にクリスタはふわり、と嬉しそうに顔を綻ばせた。
◇◆◇
場所は変わって、王城。
クリスタが去った後の王妃の執務室でソニアは執務机の椅子に座り、近くの窓から見える景色に微笑みを浮かべている。
ふっくらと大きくなっている腹部に手をやり、無意識に撫でる。
(目障りな王妃は居なくなったけれど……この子の成長の助けになる魔力をどう補給しようかしら)
クリスタが魔力を使えない、と言う事で騒ぎになったばかりだ。
ここで再び誰かの魔力を奪い、魔法を発動出来た人間が発動出来なくなった、と騒いだら。
(あの王妃が言っていた事は本当だった、と思われてしまうし……調査なんてされちゃったら大変な事になるわ……。なら、周囲の人達から少しずつ魔力を奪えばいいかしら? それとも、魔力が豊富なヒドゥリオン様だったらある程度までは誤魔化せる……?)
けれどやはりヒドゥリオンから魔力を奪う事はやめておこう、とソニアはふるふると首を横に振った。
少しでも疑われてしまえば、元々の魔術の効きも弱まってしまう。
ソニアが頭を悩ませていると、丁度そのタイミングで執務室の扉がノックされる。
「はーい?」
「失礼致します」
ソニアが返事をすると、入室の声を掛けてから扉が開く。
扉から姿を現したのはソニア付きの侍女達で。
一番年上の侍女と、その侍女より少し年下の侍女合計二名だ。
以前ヒドゥリオンに偽の報告をした年若い侍女は、その罪により既にこの世には居ない。
ソニアは入室して来た侍女二人ににっこりと笑いかける。
「ソニア妃、お呼びでしょうか?」
「──ええ。貴女達に聞きたいのだけど……」
ソニアは執務机の上にあるいくつかの書類を手に取り、それを指先で摘んでヒラヒラと揺らして見せた。
「何で、クリスタ前王妃がこなしていた内務を私がしなくてはならないのかしら……? 私は子供を身篭っているのよ、長時間窮屈な姿勢を続けるのは体に悪いわ。陛下にどうにかして欲しい、と伝えて来てくれるかしら?」
「──っ、かしこまりました」
一番年上の侍女、ギルフィードの部下は恭しく頭を下げ、扉の前で再び一礼した後、部屋を出て行く。
扉から出て行く侍女を視線で追った後、ソニアは笑みを深めて残った侍女を手招いた。
部屋から退出した侍女に扮したギルフィードの部下は、自分の体から抜けて行く魔力が視えて、顔色を真っ青に変えていた。
動揺により不規則な靴音を鳴らしながら、ヒドゥリオンの執務室の方向に歩く。
(あの女……城内で働く人間からも魔力を微量ずつ奪い始めた──)
自分の隣に居た侍女の体からも、微量な魔力が奪われ、ソニアに吸収されて行く様を部下ははっきりとその目で視てしまった。
他者の魔力を奪い、それを自分の糧にする──。
(まるで、魔女のような女だ……!)
このままでは、この国はあの魔女に滅茶苦茶にされてしまうのでは無いか、と部下は思い、自分の主への報告を急ぎ行わなければ、とヒドゥリオンの執務室に向かう廊下を歩きながら、途中人気の少ない廊下の影に紛れて消えた。
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