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 狩猟大会が開催されて二日目。
 表面上は何事も無く開催されているが、クリスタが姿を見せれば国内の貴族達から鋭い視線を向けられ、ギルフィードの国の貴族達からは憐れむような視線を向けられる。

 両国で合同開催している狩猟大会は日程が数日間に及ぶ。
 そのため、王族であるヒドゥリオンもそしてクリスタも王都に戻る事は出来ない。
 数日間の間、心無い視線に晒され続けると言う事に少しばかり気持ちが滅入るが今はその事に気を向けてばかりはいられない。

 クリスタは昨日、ギルフィードとの会話の中で自分の家、家族を守ってもらう事になった。
 以前はクリスタ自身魔法を扱えたが、今は魔法を扱う事が出来ない。家族の身の安全を危惧していたクリスタにギルフィードが部下を密かに配置してくれる事になり、一先ず目先の脅威は取り除かれた。

(後は……昨日、ヒドゥリオンと寵姫が話していた内容をいつ、どんなタイミングで私に話すつもりかしら……今日、若しくは明日……?)

 なるべく早くクリスタにソニアと話していた内容を告げたいだろう。
 それを考えると今日中にヒドゥリオンが使いを寄越して来る可能性がある。


 クリスタが自分の控えの間で考え込んで居ると、入口からナタニアが顔を出した。

「王妃殿下……」
「ナタニア夫人? どうした、の……」
「王妃。今良いか?」

 ナタニアの声が聞こえ、入口の方向にクリスタが視線を向けると同時に。ヒドゥリオンがやって来た。
 ヒドゥリオンはナタニアに下がるよう告げ、クリスタの部屋に入室して来る。

 近付いて来るヒドゥリオンの顔は何処か緊張しているようで、普段よりも表情が硬い。
 その様子を見たクリスタは「これから」話をされるのか、と言う事を察した。


 入室したヒドゥリオンは、ソファに腰掛け何処か落ち着かない様子で視線をあちらこちらに彷徨わせている。
 このままでは埒が明かない、と思いクリスタが話を促せば、ヒドゥリオンはクリスタと視線を合わせ「提案がある」と口火を切った。

「国内の貴族達の不信感は高まるばかりで、情けないが……収拾がつかない」
「──存じております」
「本当に、魔法が発動出来なくなったのか? 今、ここで私の前で発動してみせる事も出来ないか?」
「昨日お見せした通りです、陛下。現状、何も変化はございません」

 そう答えると同時に、クリスタは造形魔法を発動しようとしたがやはり魔力が弾けるように霧散してしまう。

「……っ、ならば、仕方ない事だ……。貴族達や、国民の不満を解消するために、国民を欺いていたとして、処罰を与える形にする」
「処罰、ですか……。どんな罰を与えるおつもりですか?」

 ソニアと話していた内容をそっくりそのまま告げるヒドゥリオンに、クリスタははっと吐き捨てるように笑った。
 仕方の無い事だ、と言う雰囲気を醸し出し条件を飲ませようとして来るヒドゥリオンの態度にクリスタは最早今この瞬間、話している時間も馬鹿馬鹿しく思えてしまう。

「一時的だ、一時的……。王妃には一時的に全ての権限権利を放棄してもらう……」
「つまり……」
「ああ……。私と、離婚と言う事になるな。……だが、一時的だ……! ほとぼりが冷めたら勿論再び王妃として私の隣に戻って貰うつもりだ……!」

 本当に離婚すると言うとは、とクリスタは吐息を零し笑う。
 ソニアの言う通り、本当にヒドゥリオンは離婚しようとしているらしい。
 ほとぼりが冷めたらまたもう一度戻る事が本当に可能だと思っているのだろうか。

「暫くの間は辛いだろうが……長くても二年、いや……三年以内には戻れるように私がどうにかしよう……。王都に戻ったら、早速神殿に私と王妃の離婚について書類を提出する。……署名の準備をしていてくれ」

 ヒドゥリオンはそう告げた後、クリスタの返事を待つこと無く、ソファから立ち上がってしまう。
 クリスタの顔を見ないようにしているようで、その様は嫌な事や面倒事から目を背けたいと言っているような物だ。

 去っていくヒドゥリオンの背中を、クリスタはただただ静かに、冷ややかな視線で見送った。




 そうして、思っていたよりもあっという間に時間は過ぎた。

 やらなければならない事が山ほどあり、その対応に追われている内に狩猟大会は何事も無く無事終了した。

 共同開催と言う形を取っていたため、ギルフィードとはここで別れる予定だ。
 だが、クリスタの実家であるヒヴァイス侯爵家で再び会う約束をしている。
 そこで、今後のクリスタが取るべき行動や、元タナ国からキシュートが持ち帰る予定の物。
 そして、ギルフィードがクリスタに「解読して欲しい」と言っていた遺物の文字解読を進める予定だ。

 ギルフィードとキシュートが持ち帰った遺物に、何か魔力を取り戻すような物が乗っていればいいが、それが無ければ最悪ギルフィードの国、クロデアシアに出向く必要がある。

 けれどそこでクリスタははたり、と気付く。

「──そうだわ……。離婚をしたら、国を出ても何も言われなくなるじゃない……」

 必要な手続きも、相手国への報告も最低限で済む。

 クリスタの呟きが聞こえたのだろう。
 控えの間の片付けを行っていたナタニアが不思議そうに振り返ったが、クリスタは「何でも無い」と首を横に振った。
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