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しおりを挟む「──っ、……ギルフィード王子!?」
聞き覚えのある声。
それは今回の合同狩猟大会の発案者であり、クロデアシア国の第二王子であるギルフィードの声で。
背後から聞こえたギルフィードの声にクリスタは慌てて振り向き、そして視界に入ったギルフィードの姿を見て目を見開く。
「王子殿下! ──ご無事だったのですね、良かったです……!」
クロデアシアの侯爵がひそり、と声を潜めてギルフィードに駆け寄る。
だが、クリスタは目の前に現れたギルフィードの姿に違和感しか覚えない。
じっとギルフィードを観察してみると、軽微ではあるが若干左足を庇うような動きが見える。
そして普段通りに見えはするが、以前ディザメイア国に滞在していた頃よりも顔色が悪いように見える。
「……ギルフィード王子」
「クリスタ王妃、遅れてしまい申し訳ございません。まだ開会の挨拶まで時間はありますよね?」
クリスタがギルフィードを問いただそうとしたが、侯爵に向けていた視線をぱっとクリスタに変えたギルフィードの笑顔についつい口を噤んでしまう。
普段余り感じないギルフィードからの圧を感じて、クリスタはぐっと言葉を飲み込む。
クリスタが黙ってしまった事で、クロデアシアの侯爵は嬉々としてギルフィードに話し掛け続ける。
「王子殿下がいらっしゃって下さり安心致しました。ディザメイア国王による開会の挨拶はまだですので、どうぞ控えの間に」
「──分かった。少しクリスタ王妃に話があるので、先に行っててくれないか? すぐに向かう」
「分かりました。我が国の貴族達も続々と会場に集まって来ておりますので、ご挨拶をさせて頂ければ、と思っております。よろしくお願い致します」
胸に手を当て、一礼して去って行く侯爵の後ろ姿を見送った後。ギルフィードはくるり、とクリスタに向き直った。
「クリスタ様。……少し話せますか?」
「え、ええ……。人払いをした方がいいかしら?」
「──はい。出来れば」
真剣な表情で告げるギルフィードに、心得たとばかりにクリスタは頷き「こちらへ」と自分の控えの間に案内する。
侍女や使用人を外に出し、控えの間にはクリスタとギルフィードだけになった事を確認したクリスタはギルフィードに向き直った。
「無事で良かったわ。キシュート兄さんや、ギルフィード王子に連絡を取ろうとしたのだけど、全然連絡が取れなかったから……。それにクロデアシアの侯爵も貴方の事を消息不明だ、と……」
「……申し訳無いです。少しばかり厄介な状態になっていたので……。連絡を取る余裕も無くて……」
ギルフィードは青い顔で頼りなく笑う。そしてクリスタの部屋にある椅子に力無く腰掛けた。
その様子がまるで立っているのが辛い、とでも言うような状態に見えたクリスタは眉を下げたまま、ギルフィードに近付いた。
「やっぱり顔色が悪いわ……。何か大変な事が起きた……? それとも、巻き込まれたの……?」
「──タナ国の城跡に行って来たのです」
ギルフィードを心配し、腰掛けたギルフィードの目の前に膝を着こうとしていたクリスタはその言葉を聞いた瞬間にピタリ、と動きを止めた。
「キシュートが城跡に向かっている情報があったので……。調査のために私も向かいました。そこで刺客にも襲われたりしたのですが、問題は城に入ってからです」
「ちょ、ちょっと待って……」
つらつらとギルフィードから説明される内容に、クリスタは驚き付いて行くのに精一杯になってしまう。
だが、クリスタが戸惑っている事に気付いている筈のギルフィードは言葉を止める事無く説明を続ける。
まるで、何かに急かされるように話を続けるギルフィードにクリスタは先程感じた違和感が益々膨れ上がっていった。
「タナの城の地下には、考えられないような空間が広がっていて……。そう、あれは……まるで誰かを隠すようにして造られた空間……あの場所には確実にもう一人の王族に匹敵するような存在が居たんです」
「ギルフィード王子……っ」
「そこを調べるために少ししくじってしまいましたが、大丈夫です。今はキシュートが私の代わりにあの跡を調べてくれていて……」
「ギルっ、ギルフィード……!」
ギルフィードの説明を遮るようにクリスタが大きな声を上げる。
クリスタの大きな声に、ギルフィードははっとして僅かに目を見開く。早く話さなければならない、と気が急いてしまいクリスタが戸惑っている事を知りながら説明の言葉を止めなかった。
これではクリスタが止めるのも当然だ、とギルフィードが反省しているとクリスタのひやり、とした手のひらが突然ギルフィードの額に触れた──。
「──……え、?」
「やっぱり。ギルフィード王子、貴方熱があるわ……。大怪我をしているんじゃないの……? どこ……? 足を引き摺っていたけど、足じゃないわよね……? 服の下……腹部……?」
ひたり、とクリスタの手のひらの冷たさが気持ち良く、ギルフィードは無意識にクリスタの手のひらにすり、と擦り寄ってしまうがクリスタの口から大怪我を隠しているのではないか、と言う言葉を聞いて慌ててクリスタから離れようと体を引いた。
だが、そんな事をクリスタが許す筈が無くて。
クリスタの鋭い視線に射抜かれたギルフィードは諦めたようにぽつり、と呟いた。
「……すみません……。へまをして……、腹に穴が……」
「──!?」
ギョッとしたクリスタは血の気が失せたギルフィードの腹部を確認するため、急いで服をたくし上げた。
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