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しおりを挟む「王妃……? 何の騒ぎでしょうか……」
クロデアシアの侯爵が訝しげに眉を寄せ、クリスタに話し掛ける。
クリスタ自身も歓声が沸き起こるような催しを計画していないため、不思議そうな表情を浮かべ「さあ……」と言葉を濁す。
何が起きているのか、自分達の目で確認した方が良いと判断したのだろう。
クリスタも、クロデアシアの侯爵も二人で部屋の外に向かい、入口からひょこりと顔を覗かせて周囲を確認する。
すると何が起きたのか、外を確認したクリスタは直ぐに理解した。
歓声の中心部にはこの国の国王であるヒドゥリオンと、第二妃であるソニアが寄り添うようにその場に居た。
「あれが噂の……」
クリスタの隣に居たクロデアシアの侯爵がぽつり、と呟く。
(クロデアシアにも既に噂は広まっているようね……)
じぃっとソニアを観察する侯爵に、クリスタは苦笑しつつ口を開いた。
「ええ、そうよ。彼女が国王陛下の第二妃、ソニア妃よ。元タナ国の王女、ね」
「そうですか。……懐妊した、とお話は伺っておりましたが……今、ソニア妃は何ヶ月頃なのですか……?」
ちらり、と視線を寄越されたクリスタは若干戸惑いつつも「確か……」とソニアが妊娠している、とヒドゥリオンから聞かされた時期を思い出す。
「詳細は分からないけど……三ヶ月頃だと……」
何故そんな事を聞くのだろうか、と若干戸惑いつつ、クリスタが答えると侯爵は益々訝しげに眉を寄せた。
「そうですか。そう……」
「何か不自然な事が……?」
「いえ……。私にも今妊娠中の妻がおりましてね」
どう告げようか、と考えているのだろう。
侯爵は自分の顎に手を添え、クリスタに視線を向けて語り出す。
侯爵も自国に妊娠中の妻が居るのか、と知ったクリスタは「まあ」と目を細めて緩やかに口元を笑みの形に変える。
「それは、おめでたい事ね。ならば夫人のために今回の狩猟大会で素晴らしい成績を残さないと」
「ははは、ありがとうございます。本当は妻もこの狩猟大会に参加予定だったのですが……」
「長旅になるもの。国で安静にしていた方が良いわ」
「──お心遣い痛み入ります」
ふふふ、と和やかに会話をしている中。
侯爵は不思議そうにソニアを眺めながらぽつり、と言葉を続けた。
「我が妻も、ソニア妃と同様三ヶ月目なのですが……。ソニア妃のお腹はもう目立つ程大きくなっておられるのですね」
「──え、?」
侯爵の言葉にクリスタは戸惑う。
「その、他意は無いのです……。ただ、私の妻のお腹はまだ少しぽこりとしている程度なので……。体質によってもお腹が出やすい人と出にくい人が居る、と聞いた事はありますし」
「──ソニア妃のお腹は侯爵夫人より大きいのね……」
「ええ。きっとすくすく元気に育っておられるのでしょう。その、健康でいらっしゃると言う事ですので」
「ええ、そうね……」
クリスタは侯爵の言葉が嫌に頭に残る。
同じ妊娠三ヶ月の妻を毎日見ていた侯爵が驚いて、ついついクリスタに疑問を零してしまう程。
だが、三ヶ月程前にヒドゥリオンからソニアの妊娠を聞いただけで、体の関係は以前からあったのかもしれない。
(……もしかしたら、タナ国が滅亡してしまったあの時期から……)
それ程前からそういった関係であるならば頷ける。
(けれど……そうであるならば。……そう、ヒドゥリオンが争いを収めて国に戻る前からあの寵姫と関係があった、と言うのであれば……)
随分前から自分は裏切られていたのか、と気付きクリスタは何とも言えない感情が胸に込み上げる。
考えているような事は無いかもしれない。
ただ、本当に子の成長が順調なだけかもしれない。
そもそも、もしかしたら双子の可能性だってある。
けれど、侯爵の話を聞いたクリスタは愕然としてしまった。
それ程前から本当に二人がそんな関係だったのだとしたら。
(どれ程私は滑稽に映っていたのかしら……)
大切そうにソニアを見詰め、微笑み腰を支えて歩くヒドゥリオンと、それを当たり前のように受け入れているソニアの姿を遠くから見ているクリスタはまるで蚊帳の外の人間のように思えてしまう。
ディザメイアの貴族達はヒドゥリオンとソニアに溢れんばかりの笑顔を向けており、クリスタの存在に気付いていない。
そして、それはヒドゥリオンとソニアも同様のようで。
王族の観覧席に向かうヒドゥリオンとソニアの後ろ姿を呆然と見詰めていたクリスタの背後から、じゃり、と地面を踏む音と共に耳慣れた声が聞こえた。
「──クリスタ王妃殿下、お久しぶりでございます……」
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