冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 相手も戦闘に慣れた人間だ。
 だらり、と腕を落として隙だらけに見えるが敵の視線はしっかりギルフィードやキシュートに向けられており警戒が解ける気配は無い。
 魔力量の多いギルフィードとキシュートを特に警戒しているようで、護衛達に視線を向ける事無くただただひたり、とギルフィードに視線を定めている。

(隙が無い、な……。無闇に攻撃を仕掛けたら反撃を喰らうのはこちら側か……。一瞬でも何か隙が出来ればいいのだが……)

 片手で構えた長剣を敵の一人にしっかり定め、じりじりと間合いを詰めていく。
 敵は一人を先頭に残りの二人は左右に散らばり、護衛達の攻撃に備えているようだ。

(何か攻撃に移る切っ掛けがあれば──……)

 ギルフィードがそう考えた時。
 膠着状態に焦れてしまったのだろうか。ギルフィードの護衛騎士が先手を仕掛けるために動いた。

 護衛騎士が動いたため、敵の注意が一瞬だけ護衛に逸れる。
 ほんの一秒にも満たない一瞬の隙。
 そんな僅かな瞬間を見逃さずにギルフィードとキシュートが動いた。
 敵の視線が自分から一瞬だけ外れた瞬間に駆け出し、長剣に付与した魔法でギルフィードは雷撃を放ち、キシュートは敵の足を床に縫い付けるために氷魔法を放ち、足を止める。

「──っ」

 感情の起伏が見えなかった敵に一瞬だけ焦りの表情が浮かび、次の瞬間にはギルフィードの雷撃が直撃する。
 ギルフィードの後ろから護衛騎士が飛び出し、床に縫い付けられ、ギルフィードの雷撃の直撃を喰らい身動きが出来ない状態の敵に対して護衛は自分の長剣を振るった。



◇◆◇

「──……っ!?」

 びくん、と体が跳ね、すぐ近くにあった窓から外を確認する。

 窓の外には穏やかで、自然豊かな美しいディザメイア国の景色がいつもと変わらず眼前に広がっているだけで、何ら変わりは無い。

 それまで談笑していた相手が突然口を噤んだ事に目の前に居たヒドゥリオンは驚き、心配そうに口を開いた。

「──ソニア? どうしたんだ、体調が悪いのか……!?」

 ヒドゥリオンは突然真っ青になったソニアに座っていた体勢から慌てて立ち上がり、ソニアに寄り添う。
 勢い良く立ち上がったせいでヒドゥリオンが座っていた椅子が激しい音を立てて倒れ、騒音を聞き付けた侍女が慌てて様子を確認しにやって来る。

「いえ、ごめんなさい……ヒドゥリオン様……。何でも無いのです……」
「だが、顔が真っ青だ……。体も震えているではないか……」

 かたかた、とか細く震えるソニアを慰めるようにヒドゥリオンはソニアを抱き寄せ、優しく声をかける。

「何か恐ろしいものでもあったのか……?」

 ソニアは確か窓の外を見て、こんな状況になったはず、と考えたヒドゥリオンはソニアに倣うように窓の外に視線を移す。

 すると、そこから少し遠く。
 ソニアに与えたローズ宮と、クリスタの住まう王妃の宮殿は隣り合わせでありクリスタの宮殿にある庭園が良く見える。
 そこで。
 侍女を伴い、散歩をしているのだろう。
 クリスタの姿が見えてヒドゥリオンは憎々しげに唇を噛んだ。

「──王妃、か!」
「……え、?」
「ソニア、そなたに王妃が未だつまらない嫌がらせのようなものをしているのだろう? 城のあちらこちらでそのような話が上がっているのは私の耳にも届いている。大人しくしていればいいものを……!」

 ヒドゥリオンの見当外れの言葉に、ソニアはぽかんとしてしまう。
 クリスタを見て、怯えたのでは無い。
 とある事に反応し、ソニアは無意識に窓に視線を向けてしまったのだ。

(確か、あちらの方向だったから……)

 だから、ただその方向に視線を向けただけ。
 クリスタが居た事にだって、ヒドゥリオンが言ったから気付いたのだ。

 勘違いを正そうとして、だがソニアは辞めた。
 今、この城──いや、ディザメイア国にはクリスタを守るあのアスタロス公爵家も、友好国である強大なクロデアシア国の王子も居ない。

 味方が少なく、時間が経つにつれて孤立していく王妃が邪魔だ。
 それならば邪魔をする人間がいない内に立ち直る事が出来ないよう、挽回など出来ぬようあの邪魔な王妃を退かしてしまおう。
 こちらが何かを告げた訳では無いのだ。
 勝手に勘違いをして勝手に行動してしまった、と。そう言う事にしてしまおう。

 そう考えたソニアはただ静かにハラハラと涙を零し、肩を震わせたままヒドゥリオンにひし、と縋り付いた。




「知っているかしら? 我が国でも桔梗が多く輸入されて来ていて、最近は良く見かけるようになったのよね」

 さくさく、と庭園の地面を踏み締めながら歩くクリスタは自分に着いて来ている侍女達に向かって話し掛ける。
 世間話としては何処か真剣味のある声音に、侍女達はぐっ、と表情を引き締め姿勢を正した。

「──王妃殿下が仰る通りですね、最近は市井でも良く見かけるようになってきました」

 侍女のナタニア夫人が代表してクリスタの言葉に返答する。
 前方を歩いていたクリスタは眉を寄せ、どこか憂い顔でじっと自分の体の横にある花々に視線を向けていて。
 クリスタは自分の指先でそっと咲き誇る花の花弁に優しく触れた。

「ええ、そうでしょう? 様々な色を楽しむ事が出来ていいけれど……。広まり方が早いわね。自国での開発が出来ていないのであれば輸入品に関税をもっと設けなければ……」

 すっ、とクリスタは視線を上げてナタニアの後ろにいる侍女に視線を向ける。
 クリスタの視線を受けた侍女は心得たとばかりに一礼し、「調べ物」をする為に庭園を去って行く。

(例え自分の庭園の中だとしても、誰が何処で私達の会話を聞いているか分からない……不便ね)

 クリスタが疲れたように小さく溜息を吐き出した所で、クリスタ達に近付いて来る足音が聞こえ、クリスタはその音のする方向に顔を向けた。
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