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しおりを挟む「キシュート!」
見知った男──キシュート・アスタロスの下に走り出したギルフィードは、魔法を付加した長剣を構えながらキシュートの名前を叫ぶ。
ギルフィードの叫び声を聞いたキシュートはぱっ、と弾かれたようにギルフィードの方向に顔を向け、明らかに安堵の表情を浮かべた。
「ギルフィード……、ギルフィードか!?」
「ああ! 避けろ……っ!」
短いやり取り。
短い単語のやり取りだけで昔から交流のある二人はこれだけで次の行動を取る。
キシュートは複数の人影に囲まれ、絶え間なく攻撃を受けていたのだろう。
疲労困憊、といった様子だったがギルフィードの叫び声に反応するや否や、目前に迫っていた敵と見られる男に一太刀浴びせ、大きく後方に跳躍し地に伏せた。
キシュートが伏せる寸前、ギルフィードは自分の長剣に付加した雷魔法で空間を切り裂く。
伏せたキシュートの直ぐ頭上をギルフィードが放った雷斬撃が通り過ぎ、キシュートを追っていた男に直撃する。
雷撃が直撃した瞬間、周囲には視界を覆い尽くす程の閃光が迸り、耳を劈く激しく高い音が響く。
キシュートが「うおおお!?」と情けない叫び声を上げているのが聞こえるが、ギルフィードと護衛騎士達は即座に散開し、複数の敵に向かって駆けた。
護衛騎士達は二人で一人の敵を相手取り、確実に相手を無力化させる。
ギルフィードは制約魔法外にある長剣への魔法付与で雷撃を飛ばし、複数の敵が攻撃を仕掛けて来る前に無力化させ、ギルフィードが長剣を振り翳す度に一人が地に倒れ、ギルフィードの背後から迫った敵に対しては回し蹴りを喰らわせ無力化させた所をキシュートが追撃して地面に叩き付ける。
例え言葉を交わさずとも、二人は息の合った共闘でもって敵を無力化させていく。
だが、護衛達やギルフィード、キシュートが真っ先に狙った相手は敵の中でも力が弱い者。
弱い者から無力化させていったので残る敵は自然と力が強い者になる。
「──人間、だよな?」
「ああ、間違い無く人間だ。だけど、多分……何らかの禁術を施されている」
相手に視線を定めたまま、ギルフィードは隣に居るキシュートに話し掛ける。
するとキシュートはよろよろとふらつきながら不敵に笑みを浮かべ、鼻で笑うようにしてギルフィードに言葉を返した。
良くよく見てみれば、キシュートの姿はぼろぼろで。激しい戦いが長い間続いていたのだろう、と言う事が分かる。
肩で息をして、顔色も悪い。
もう既に残る魔力量はギリギリだったのだろう。
半壊した謁見の間の様子で、激しい戦闘が長時間続いていたのだろうと言う事が分かる。
「あいつら、まるでいたぶる事を愉しむようにして攻撃を繰り出して来るんだ。始めはこっちも護衛が居たからいいが……」
「良く一人でここまで持ち堪えてくれた。……手遅れになる前にキシュートを見付ける事が出来て良かったよ」
「私を守ってくれた護衛達を後で存分に労ってくれよ」
キシュートは謁見の間の隅で倒れている公爵家の護衛達に視線を向ける。
事切れてしまっている者も居るが、まだ息がある者の方が多い。
この場の敵を処理し、制約魔法外の治癒魔法を掛ければ助かるだろう。
「それは勿論。だがその前に残りを片してしまわないといけないな」
「ああ。それに……あれを見ろギルフィード」
ふ、とキシュートがギルフィードから視線を外し、ある場所を視線で示す。
キシュートの視線を追ったギルフィードは訝しげに表情を歪めた。
謁見の間の最奥。
ギルフィードとキシュートが居る場所から一番遠く離れた場所。
その場所には不釣り合いな地下へと続く階段がちらりと顔を覗かせているのが見える。
「──この場所から更に地下があるのか……!?」
「ああ。あの場所に行けぬよう、この者達はこの場所を守っているのかもしれないな」
「タナ国が守りたかった場所、と言う事か……?」
「恐らく。私達を襲って来たあいつらはどうも敗残兵とは違う……統率の取れた、訓練された者達だろう? だからきっと……」
キシュートの言葉にギルフィードは一つ頷き、三人程残っている敵に視線を戻して長剣を構えた。
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