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「──え、……と言う事は、この戦争の跡は……」

 ギルフィードから説明された事を、護衛騎士は頭の中で反芻し、理解したのだろう。
 さっと顔色を青ざめさせてきょろ、と周囲に視線を彷徨わせる。
 信じられない、と言った様子にギルフィードも、護衛隊長もこくりと頷いた。

「ああ。タナ国を滅ぼした後に破壊し尽くしたのだろうな」


 国民達もほぼ全て焼き滅ぼされている。
 戦争により、ディザメイアに亡命してきた移民の数は殆ど記されていない、とクリスタが言っていた事をギルフィードは思い出す。
 小さな国とは言え、国民は数百~数千人程は居たはずである。それなのに、だ。

(ディザメイアの国王はどうやってあの寵姫を城から救い出したんだ……、隣国との戦闘をしていても都の状態は見ているはず……。まだ生き残っている国民達も居たはずなのに……)

 一体どんな事が起きていたのか。
 王城に向かえばそれが少しは分かるかもしれない。

 ギルフィードは真剣な表情で黙り込む二人の護衛に声を掛けて休む事にした。




 翌朝、早朝。
 日が昇る前に動き出したギルフィード達は王城に到着した際に、またそこでも激しい戦闘が行われたであろう痕跡を見付けた。

「……やはり魔術か何かで城を守っていた痕跡が残っているな」

 ざり、と城壁の一部分を撫でる。
 そこには見慣れない文字が掘られており、古代文字なのだろうか。魔法に関して数々の文献を読んでいるギルフィードにもその古代文字を解読する事は出来ない。
 それ故に、その文字は魔法ではなく魔術に関するものなのだろう、と当たりをつける。

「魔術で城を守っていたにも関わらず、城が落ちたと言う事はやはり内部から手引きした人間がいるはずだ。……内部に進もう」
「──はっ」

 それだけを告げたギルフィードは、中に入り込み進む足を早める。

 これまで、キシュートがこの地に向かっていた痕跡はあったのに肝心のキシュートの姿は未だ無い。
 あれだけの力を持つキシュートが簡単にやられる事は無いだろうが万が一もある。
 ギルフィードの考え過ぎで、もう既にキシュートがこの地を離れていればいい。そう考えていたが、ギルフィードが進む先──通路の端にディザメイアで見慣れた服装を纏う人影を見付けて駆け出した。

「殿下! 危険です、お待ち下さい!」

 背後から慌てた様子の声が聞こえてくるが、足を止める事無くギルフィードは人影の下に辿り着くと、その場に膝を付いた。

「──おい! 生きているか!?」

 慌てて腕を取り、手首の脈を測る。
 だらり、と力無く下がる腕にギルフィードは思わず舌打ちをしてしまう。
 返答も無いし、脈も無い。
 体は冷たくなっておらず、硬直もしていない事から事切れてからまだ時間が経っていないのだろう。

 その人影、男性はアスタロス公爵家の騎士が纏う騎士服を着込んだキシュートの護衛騎士だ。
 青と白を基調とした公爵家特有の騎士服をギルフィードは何度も見た事がある。
 そして、命を落とした男の身分がアスタロス公爵家の騎士だと言う事を証明する公爵家の家門が入った袖のカフスボタン。カフスボタンから細いチェーンで留られ、少し上の部分にその男の家門が掘られた小ぶりのブローチが縫い付けられている。

「……これを回収していない、と言う事はこの奥にキシュートが居るな……」

 ギルフィードは事切れた騎士に自分が纏っていた外套を脱ぎ、包んでやると廊下の隅に移動させてやる。
 ギルフィードの護衛騎士が少し離れた場所に落ちていたこの騎士の長剣を回収して来て、受け取る。鞘に長剣を納め、ギルフィードはキシュートを守るために戦い切った騎士の胸に長剣を置いてやった後、その場に立ち上がる。

「行くぞ」

 短く声を掛けた後、ギルフィードは再び駆け出した。
 小国と言えども城塞のような城の内部は広い。
 あちらこちらに抜け道や抜け穴、隠し通路や部屋も多いだろう。
 ギルフィードは魔力感知の魔法を発動しようとしたが止め、廊下での戦闘の痕跡を追う事にした。長時間魔力感知の魔法を発動し続け、魔力が枯渇してしまっては元も子も無い。

 だが、ギルフィードが廊下を駆け出してまもなく。
 地下からずん、と大きな音がしてそして足元が僅かに揺れた。

「──下か!」

 ぱっ、と廊下の床に視線を落としたギルフィードが叫んだ言葉に返すように護衛が叫ぶ。

「地下への入口を見付けて参ります!」
「いや、時間が勿体無い、床を落とす!」

 地下に続く階段のような物を探しに駆け出そうとしていた護衛を止めるようにしてギルフィードが叫ぶ。
 護衛達が「え!?」と驚愕の声を上げた瞬間、ギルフィードは城の廊下を攻撃魔法で撃ち抜いた。
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