冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 ギルフィードが一旦帰国してしまう、と言う事を聞いてから。
 あっという間にその日はやって来てしまって。



 ギルフィードの帰国当日。

「──本当に、国としての見送をしなくて良かったのかしら……」

 未だに納得がいかない、という様子のクリスタにギルフィードは苦笑してしまう。

 クロデアシアの国賓が国に戻る、と言うのに見送りは本当にクリスタと彼女の侍女達三人だけで。

 友好関係にある国の国賓が自国に戻る際は、国王が姿を見せ、変わらぬ関係を維持していこう、と言う姿を周囲に見せるために盛大な見送りを行うのが今までのディザメイアの通例だ。
 だが、それはギルフィードの強い拒否に合ってしまい、盛大な見送りを行う事が出来ない。

(国王であるヒドゥリオンには、流石に帰国する日にちを知らせているとは思うのだけど……。それなのに見送りに来ないなんて……国王としての振る舞いすら出来ないの、ヒドゥリオンは……!)

 友人、である前にギルフィードはクロデアシアの王族だ。
 礼を欠いては国民にも貴族達にも示しがつかないではないか、とクリスタは姿を現す気配の無いヒドゥリオンに苛立ちを抱く。

「──クリスタ様。何かあれば直ぐに私宛に連絡を。何があっても駆け付けますから。一人で対応しようとしないで下さいね」
「ええ、分かったわ」
「それと、あの寵姫には出来るだけ近付かないようにしてください。……出来るだけの手は打っていますが、あちらから接触を持ちかけられても絶対に応じないで下さい」
「──え、手を打った、って……」
「絶対ですよ? 何かあれば私に連絡、寵姫の提案には乗らない。それだけ、それだけを徹底して下さい」
「ギルフィード王子……?」

 クリスタがこれ以上傷付かないように、と心配しているような様子では無い。
 何か、クリスタが知らない事をギルフィードは知っているのだろうか、とクリスタが疑問に思い、問い詰めようかと思ったがギルフィードが出立する時間がやって来てしまった。

 簡易的な旅装束に身を包んだギルフィードは、数人程の護衛だけを連れて国に帰国するらしい。
 通常であれば豪奢な馬車を用意し、ゆっくり時間を掛けて国に戻るのだが、ギルフィードの姿から直ぐに国に戻る訳では無いのだろう、と言う事が伺える。
 護衛が連れて来た馬にギルフィードは跨り、クリスタに振り返る。

「──では、クリスタ様。また三ヶ月後、合同狩猟大会で」
「ええ、そうね。道中気を付けて」

 笑顔を浮かべるクリスタに、ギルフィードも微笑み返す。

 そうして、二人はあっさりその場で別れた。

 ギルフィードは馬の腹を蹴り、クリスタを振り返る事無く進んで行く。
 クリスタもギルフィードを見送った後は振り返る事無く、目の前に聳える大きな大きな城を見据える。

 今では、慣れ親しんだ城ではなくまるで自分の知らない城のように見えてしまう。

(……これからはギルフィード王子も、キシュート兄さんも居ない……。タナ国の王女に集まる支持を、抑える事も出来ないし、止める事も出来ないかも……そうなったら、覚悟を決めなければ)

 クリスタはナタニア夫人を含む侍女三人と共に王城に戻るため、足を進めた。




 クリスタと別れたギルフィードは、逸る気持ちを抑えながら馬を駆る。

(国に戻るのは……滅亡したタナ国を見てからでも遅くは無いだろう……)

 キシュートも滅んだタナ国を確認しに行った、と聞いている。
 ただ、そのキシュートと数日前から連絡が取れない。
 安否が不明なのだ。

(キシュートに限って……万が一の事は無いだろうが……)

 連絡が取れないと言う状況に陥っているのであれば。
 もしかしたら助けが必要な状況になっている可能性もある。

(クリスタ様の側でもう少し寵姫の周囲を調べたかったが……それはあの侍女に任せるしかない)

 ギルフィードは唇を噛み締めて馬を駆る速度を上げたのだった。
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