冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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「り、利用──それは一体……」

 一番年上の侍女が不安な様子を隠せずにソニアに問う。
 するとソニアはにんまりと嫌な笑みを浮かべた。

「上手く行けば、王妃を追い出せるかもしれないわ。いえ、追い出さなくちゃ……私はこの国の国王陛下の子を授かったのだから、この子を守るために、とヒドゥリオン様にお話をして、説得を続ければ……」
「お、追い出すなど……! クリスタ王妃殿下を追い出す事など無理です……! あの方は幼少期より国王陛下の婚約者としてこの国に尽力して来た方ですし、陛下も王妃と婚約者として長く過ごして来たのですから、王妃を追い出す、などそんな事出来るはずがございません……!」
「でも、もし王妃がヒドゥリオン様の子を妊娠している私に手を出した、となれば? 多少情は湧いているかもしれないけれど、情よりも自分の血を継ぐ子を身篭っている私を優先するのは当たり前でしょう?」
「王妃殿下がソニア様のお子に手を掛けると言う事自体が有り得ません……。そんな方では無い、と言う事を城で長く働いている者は分かっておりますし、陛下も……今は怒りで判断が鈍っているかもしれませんが、冷静に考えれば王妃殿下がそのような事をされる方では無い、と気付きます」

 クリスタの事を庇うような侍女に、ソニアは不機嫌さを隠しもせずに半眼で侍女を睨み付ける。

「──お前は一体誰の侍女なの? クリスタの侍女なの? それとも私の侍女なの?」
「そ、それは勿論ソニア様の……!」
「ならば、私の心配をなさい」

 ソニアは心の中で小さく舌打ちをする。

(駄目ね、やっぱり同性には効きにくい……)

 邪魔をするのであればその内処分してしまおうか、と考える。

(それに今はもう大分使い果たしちゃったから)

 ふう、とソニアは溜息を吐き出して年上の侍女から、一番年若い侍女に視線を移す。

「……それはそうと、貴女」
「は、はい……っ!」

 まさか自分に声を掛けられるとは思っておらず、油断していた年若い侍女はソニアの声に声をひっくり返して返答する。

 ソニアは興味を失ったようにソファに腰を下ろし、自分の美しく波打つ金色の髪の毛を指先で弄りながら興味無さそうに口を開いた。

「──これ以上、ヒドゥリオン様に余計な事を言わないで。もし……、次に勝手に動いたら命を持って償ってもらうわ」
「か、かしこまりました……申し訳ございません……」
「いいわ、今回の事は私がヒドゥリオン様と全て話すから……、今回の件に関して、貴女達に一切口外する事を禁じるわ。例えヒドゥリオン様に問われても、私が全部答えるから余計な事を言わないで。良い?」

 冷たく輝くソニアの薄いピンクの瞳が侍女達を射抜いた。


 ソニアの冷たく輝く視線を受け、年上の侍女はぞくり、と寒気を感じつつ深々と頭を下げた。


 そして、その時。

「──ソニア、居るか?」

 扉の外からヒドゥリオンの声が聞こえ、ソニアはぱっと表情を輝かせ、途端に可愛らしい笑みを浮かべる。

「ヒドゥリオン様! 居りますわ、どうぞ入って下さい!」

 途端、美しいけれど可憐な王女の姿に一瞬で変わったソニアに、年上の侍女は舌を巻く。
 変わり身の速さは、流石だなと思う。
 例え小国であるとは言え、生まれた時からソニアはヒドゥリオンと同じく王族として育って来た。
 武力でのし上がって来たディザメイアとは違い、タナ国は情報を売り生き残って来た国だ。
 狡猾さ、自分の使い方、相手の性格を把握する能力に長けている事が、ここ数日ソニアに付き従っただけで良く分かる。

(──これは……、相当ですわ、殿

 侍女は、自分の主である男の事を思い浮かべ、ヒドゥリオンが入室した事に合わせて、年上の侍女は更に深く頭を下げた。
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