54 / 115
54
しおりを挟む「り、利用──それは一体……」
一番年上の侍女が不安な様子を隠せずにソニアに問う。
するとソニアはにんまりと嫌な笑みを浮かべた。
「上手く行けば、王妃を追い出せるかもしれないわ。いえ、追い出さなくちゃ……私はこの国の国王陛下の子を授かったのだから、この子を守るために、とヒドゥリオン様にお話をして、説得を続ければ……」
「お、追い出すなど……! クリスタ王妃殿下を追い出す事など無理です……! あの方は幼少期より国王陛下の婚約者としてこの国に尽力して来た方ですし、陛下も王妃と婚約者として長く過ごして来たのですから、王妃を追い出す、などそんな事出来るはずがございません……!」
「でも、もし王妃がヒドゥリオン様の子を妊娠している私に手を出した、となれば? 多少情は湧いているかもしれないけれど、情よりも自分の血を継ぐ子を身篭っている私を優先するのは当たり前でしょう?」
「王妃殿下がソニア様のお子に手を掛けると言う事自体が有り得ません……。そんな方では無い、と言う事を城で長く働いている者は分かっておりますし、陛下も……今は怒りで判断が鈍っているかもしれませんが、冷静に考えれば王妃殿下がそのような事をされる方では無い、と気付きます」
クリスタの事を庇うような侍女に、ソニアは不機嫌さを隠しもせずに半眼で侍女を睨み付ける。
「──お前は一体誰の侍女なの? クリスタの侍女なの? それとも私の侍女なの?」
「そ、それは勿論ソニア様の……!」
「ならば、私の心配をなさい」
ソニアは心の中で小さく舌打ちをする。
(駄目ね、やっぱり同性には効きにくい……)
邪魔をするのであればその内処分してしまおうか、と考える。
(それに今はもう大分使い果たしちゃったから)
ふう、とソニアは溜息を吐き出して年上の侍女から、一番年若い侍女に視線を移す。
「……それはそうと、貴女」
「は、はい……っ!」
まさか自分に声を掛けられるとは思っておらず、油断していた年若い侍女はソニアの声に声をひっくり返して返答する。
ソニアは興味を失ったようにソファに腰を下ろし、自分の美しく波打つ金色の髪の毛を指先で弄りながら興味無さそうに口を開いた。
「──これ以上、ヒドゥリオン様に余計な事を言わないで。もし……、次に勝手に動いたら命を持って償ってもらうわ」
「か、かしこまりました……申し訳ございません……」
「いいわ、今回の事は私がヒドゥリオン様と全て話すから……、今回の件に関して、貴女達に一切口外する事を禁じるわ。例えヒドゥリオン様に問われても、私が全部答えるから余計な事を言わないで。良い?」
冷たく輝くソニアの薄いピンクの瞳が侍女達を射抜いた。
ソニアの冷たく輝く視線を受け、年上の侍女はぞくり、と寒気を感じつつ深々と頭を下げた。
そして、その時。
「──ソニア、居るか?」
扉の外からヒドゥリオンの声が聞こえ、ソニアはぱっと表情を輝かせ、途端に可愛らしい笑みを浮かべる。
「ヒドゥリオン様! 居りますわ、どうぞ入って下さい!」
途端、美しいけれど可憐な王女の姿に一瞬で変わったソニアに、年上の侍女は舌を巻く。
変わり身の速さは、流石だなと思う。
例え小国であるとは言え、生まれた時からソニアはヒドゥリオンと同じく王族として育って来た。
武力でのし上がって来たディザメイアとは違い、タナ国は情報を売り生き残って来た国だ。
狡猾さ、自分の使い方、相手の性格を把握する能力に長けている事が、ここ数日ソニアに付き従っただけで良く分かる。
(──これは……、相当ですわ、王子殿下)
侍女は、自分の主である男の事を思い浮かべ、ヒドゥリオンが入室した事に合わせて、年上の侍女は更に深く頭を下げた。
37
お気に入りに追加
2,039
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります
柚木ゆず
恋愛
婚約者様へ。
昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。
そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お姉様。ずっと隠していたことをお伝えしますね ~私は不幸ではなく幸せですよ~
柚木ゆず
恋愛
今日は私が、ラファオール伯爵家に嫁ぐ日。ついにハーオット子爵邸を出られる時が訪れましたので、これまで隠していたことをお伝えします。
お姉様たちは私を苦しめるために、私が苦手にしていたクロード様と政略結婚をさせましたよね?
ですがそれは大きな間違いで、私はずっとクロード様のことが――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〖完結〗その愛、お断りします。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った……
彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。
邪魔なのは、私だ。
そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。
「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。
冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない!
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結済】結婚式の翌日、私はこの結婚が白い結婚であることを知りました。
鳴宮野々花@軍神騎士団長1月15日発売
恋愛
共に伯爵家の令嬢と令息であるアミカとミッチェルは幸せな結婚式を挙げた。ところがその夜ミッチェルの体調が悪くなり、二人は別々の寝室で休むことに。
その翌日、アミカは偶然街でミッチェルと自分の友人であるポーラの不貞の事実を知ってしまう。激しく落胆するアミカだったが、侯爵令息のマキシミリアーノの助けを借りながら二人の不貞の証拠を押さえ、こちらの有責にされないように離婚にこぎつけようとする。
ところが、これは白い結婚だと不貞の相手であるポーラに言っていたはずなのに、日が経つごとにミッチェルの様子が徐々におかしくなってきて───
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】真実の愛に目覚めたと婚約解消になったので私は永遠の愛に生きることにします!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢のアリスティアは婚約者に真実の愛を見つけたと告白され婚約を解消を求められる。
恋する相手は平民であり、正反対の可憐な美少女だった。
アリスティアには拒否権など無く、了承するのだが。
側近を婚約者に命じ、あげくの果てにはその少女を侯爵家の養女にするとまで言われてしまい、大切な家族まで侮辱され耐え切れずに修道院に入る事を決意したのだが…。
「ならば俺と永遠の愛を誓ってくれ」
意外な人物に結婚を申し込まれてしまう。
一方真実の愛を見つけた婚約者のティエゴだったが、思い込みの激しさからとんでもない誤解をしてしまうのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる