冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 それからと言うもの。
 ヒドゥリオンは先ず国内にソニアを自分の妃として正式に迎え入れる事を発表した。
 貴族達は噂から薄々気付いてはいたようで、ソニアを妃として迎え入れる事を受け入れてはいたが、国民の中には長くクリスタがこの国の王妃として立っていた事からソニアの政治的手腕に疑問を覚える声も幾らか上がったが、国王であるヒドゥリオンの子をソニアが身篭った、と言う発表を受けて国内は瞬く間に祝福の雰囲気に包まれた。

 貴族達もソニアの事を肯定的で、喜ばしい事だ、とソニアを持ち上げる派閥まで出てきている。
 そしてその派閥は連日祝賀パーティーなるものを開き、派閥を大きくしようとしている。
 ソニアを持ち上げる派閥の代表的な人物はバズワン伯爵で、彼に続いて一癖も二癖もある曲者達がソニアを持ち上げ、クリスタを追いやろうと画策しているのがクリスタの耳にまで入ってくる。

「王妃殿下」
「──なあに?」

 自室のベッドから窓の外を眺めていたクリスタは、背後から話し掛けられて振り向いた。



 あの日、ヒドゥリオンと話をしたあの日以降。クリスタはヒドゥリオンと会ってはいない。
 ソニアがつわりで寝込んだり、体調が悪くなったり、体調を崩す事が多くなりソニアに掛かりきりになったのだ。
 クリスタの怪我も、ギルフィードが未だに城に滞在している事もどうでも良くなってしまったらしく、建国祭が終わったのに未だにディザメイア国に残り、クリスタの治癒を続けるギルフィードに何も言わない。

 そのヒドゥリオンのクリスタを気遣う態度も無く、ギルフィードに構う事無く、そしてクリスタが建国祭を欠席した本当の理由を国内に知らせる事が無かったため、周囲は二人の仲を勝手に想像し、噂をし、そして噂は広まっていく。
 貴族という生き物が元来噂好きだと言う生き物だったのだ、と言う事をクリスタはこの数日間で思い出した。

 王妃となる前。
 ただの侯爵令嬢として過ごして来た時は貴族達の噂に散々振り回されて来たと言うのに、王妃となってまだたったの二年しか経っていないのにその事をすっかり忘れてしまっていた。



 力無く笑うクリスタに、侍女は敢えて元気よく話し掛ける。

「本日はお天気も良く、お体を動かすのに調度いいと思います。クロデアシアの第二王子と、アスタロス公爵様をお誘いして庭園をお散歩されるのは如何でしょう?」
「──確かに……、確かにそれは良いかもしれないわね。部屋に閉じこもってばかりいたら、色々考え込んでしまうわ。ギルフィード王子と、公爵に声を掛けて来てもらっていいかしら」
「かしこまりました」

 クリスタが柔らかな笑みを浮かべた事に嬉しそうに頬を緩ませて侍女が一礼し、部屋を出て行く。

 今日はまだ治癒魔法を掛けて貰う時間ではないけれど、普段とは違い室内では無く、外の庭園で治癒魔法を掛けてもらうのもいいかもしれない。

「私の庭園なら……、他の者と会う可能性も無いし、ゆったり過ごせるわね」

 クリスタが呟いた時。

 侍女から話を聞いたのだろう。
 ギルフィードが嬉しそうに扉の向こうから声を掛けて来た。





 ギルフィードとキシュート。そして三人の侍女を連れてクリスタは王城にあるクリスタの、王妃専用の庭園に向かって歩いていた。
 その庭園内には温室もあり、庭師が丹精込めて手入れをしている睡蓮の区画がある。

 小さな池の上に掛かる橋の上から睡蓮を眺める事がクリスタは好きで。
 庭師が様々な色の睡蓮を咲かせてくれている。

 クリスタの庭園に向かうには、誰もが入れる庭園の奥に進み、施錠をされている扉を開けてその中に進む。
 ここ最近はゆっくり自分の庭園を回る時間が無かった、と庭師に申し訳無い事をしてしまった、とクリスタが考えていると。

「──クリスタ」
「え、」

 クリスタとギルフィードの少し前を歩いていたキシュートが強ばった声音で、クリスタを呼んだ。

「どうしたの? キシュート兄さん」
「あそこが、クリスタの庭園の入口だよな……? 扉が開いている。鍵を持っているのはクリスタだけか?」
「──っ!? ええ……。……いえっ、陛下も。陛下も鍵を持っているわ」
「ならば、陛下が庭園に入っていると言う事か……? いや、まさかな」

 首を傾げながらキシュートが呟く。
 そして王城では攻撃魔法を発動する事が出来ないので、懐から短剣を取り出した。

 王城に侵入者など、有り得ないだろうが用心しておく事に越したことはない。
 キシュートの行動に、ギルフィードもクリスタを守るように自分の体を前に割り込ませた。

 一体、誰が何の用でこの庭園の扉を開けたのか。
 そして、誰が庭園に入り込んでいるのか──。

 クリスタ達は慎重に庭園の入口である扉に近付いて行った。
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