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「あの古書か……」

 クリスタに言われ、キシュートは難しい顔をしながら口を開く。

「全てを解読するのは難しかったのだが、やはりタナ国の王族は魔術の知識を持っていると言う事に間違いは無いだろう。だが、あの寵姫が魔術を使う事が可能か否か……。魔力を魔術として発動させるのには魔法を発動するより手順が多く、面倒で緻密な作業が必要なようだ。それを、あの寵姫が一人でやってのける事が出来るのか……」
「けれど、王族に伝わっていると言う事は以前から知っていて、魔術の発動は出来ていた可能性があるわ」
「いや、それがだな……。魔術を発動するには十八になってからでないと駄目なようだ。タナ国での成人は十八。成人前の未熟な子供の体では、魔術を習得する事が出来ないらしい。だから、あの寵姫が魔術を学んでいたとしても、まだ一年程……魔術を発動するのは難しいのではないか、と私もギルフィードも同じ考えだ」
「なるほど……」

 キシュートの考えに、クリスタもこくりと頷く。
 確かに、僅か一年足らずでは魔術を習得する事は難しいだろう。
 それに、魔術は魔法よりも発動が難しいと言うのであれば尚更。

 王族に伝わる魔術を教える専門の講師が居たとしても、ソニアが完璧に魔術を操る事はほぼ不可能だろう。

(──いえ、これはそうであって欲しい、と言う願望が込められているけれど……)

 だが、そうでなければ。ソニアが魔術を使っているのであればこの現状に納得出来る部分も大いにある。
 それ程までに、印象操作の広まり方が早いのだ。
 それに、暗愚となってしまったヒドゥリオンにも納得が行くというものだ。

「クリスタ、心配するな。私も、ギルフィードもいる。クリスタはこの国で決して孤立しないし、君の地位が脅かされる事は無い」

 クリスタが黙り込んでしまったからだろう。
 安心させるようにキシュートがクリスタの隣に腰掛け、幼い頃のように笑いかけてくれる。
 クリスタの反対側に居るギルフィードもキシュートの言葉に強く頷いていて。

 そしてワゴンの側に居るナタニアもこくこくと何度も頷いている。

「──ありがとう、ありがとう皆」

 クリスタは三人の心遣いと、自分を思ってくれる優しくて強い心に深く感謝した。





 だが、翌日。
 意識を取り戻してからいつものように自室でギルフィードに治癒魔法を掛けて貰っていたクリスタの下に、血相を変えてクリスタの侍女二人が飛び込んで来た。

「王妃殿下……! タナ国の王女が……っ!!」

 慌てふためき、侍女が口にした言葉にクリスタは言葉を失う事になる。
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