冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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「──なっ、にを……! 何をなさるつもりですか陛下!?」

 ヒドゥリオンの暴挙にクリスタは顔を真っ青にしてヒドゥリオンの下から這い出ようとするが、直ぐに手首を掴まれ、逆にベッドに縫い付けられる。

 ぎりっ、と手首に食い込むヒドゥリオンの指にクリスタは痛みを感じて眉を顰めるが、ヒドゥリオンは苛立ちにより感情が昂っているのだろう。
 クリスタの表情の変化に気付く事無く、ギリギリと手首を掴む力を強めて行く。

「クリスタ、お前が言ったのだろう。建国祭が終わったら、と……! ディザメイアの王妃としての責務を果たすのは当然の事。大人しくしていれば手酷くはしない」
「──っ、嫌っですっ!」
「──……っ!?」

 クリスタは、自分の服に手を掛けようとするヒドゥリオンに向かって攻撃魔法を放つ。
 まさかクリスタに攻撃魔法を放たれるとは思って居なかったヒドゥリオンは、真正面からクリスタの魔法をまともに喰らい、大きくバランスを崩してベッドから落下した。


 ディザメイア国の王城では、王族に対して貴族や平民が攻撃を出来ないよう攻撃魔法に関わる制約魔法が施されている。
 王族の血筋や、その配偶者として選ばれる家門の一族は魔力が高く魔法使いとしての力量も高い。
 だが、その制約魔法の対象者は王族以外に絞られている。

 そのため、王族の一員であるクリスタはその制約には含まれていない。
 だが、クリスタがまともに攻撃をしてしまえばヒドゥリオンは大怪我を負ってしまう。
 だからこそ、逃げ出すだけの時間を稼ぐために魔法の威力を落としたクリスタはヒドゥリオンが落ちた場所とは反対のベッドから素早く降りて部屋の入口に向かって駆け出す。

(部屋の近くには、ギルフィード王子と、キシュート兄さんが居る……! それに、室内で騒音がすれば異変に気付いて誰かが来てくれるかもしれない……!)

 扉に向かって駆け出すクリスタの背中を、床から立ち上がったヒドゥリオンが真っ直ぐ見据える。

「──クリスタ!」

 ヒドゥリオンの口から怒声が発せられ、クリスタは思わず部屋の扉に向かって攻撃魔法を放った。

 今度はそこまで手加減せずに放った魔法のお陰で、クリスタの目の前で部屋の扉が内側から廊下に向かって吹き飛ぶ。
 派手な音を立てて廊下に崩れ落ち、廊下から戸惑うような気配を感じる事が出来てクリスタは安堵した。

(侍従か、私の侍女、もしくは使用人が来てくれれば……!)

 クリスタがほっとしたのも束の間。
 クリスタの直ぐ後ろから怒りに震えるヒドゥリオンの声が聞こえた。

「諦めろ。人払いをしている。騒ぎにはなるだろうが、誰も部屋にはやって来ない……!」
「──ぁっ!」

 ずだんっ!
 と、肩を掴まれて床に引き倒される。

 強く掴まれた肩が悲鳴を上げてしまいそうな程、酷く痛む。
 だがクリスタは痛みに呻く姿も、悲鳴を上げる姿もヒドゥリオンには見せたく無くて。

 床に引き倒された体勢のまま、ぐっと息を飲み込み痛みをやり過ごす。

 すると、背後からヒドゥリオンの息を飲むような気配がした。

「なん、だ……この傷跡は……」

 襟ぐりを大きく開けられたため、ヒドゥリオンの目にも入ったのだろう。
 背中から、左肩に掛けて残る大きな大きな傷跡。
 この傷跡だけはギルフィードがどれだけ治癒魔法を掛けてくれても簡単には治らない。
 時間を掛けて、ゆっくり治して行くしか無い、と言われた時は落ち込んだが見慣れてしまえばなんて事の無い傷跡だ。

 だが、先程まで怒りに任せて衝動的に行動していたヒドゥリオンが思わず躊躇う程、その傷跡は酷いのだろうか、とクリスタが自嘲気味に乾いた笑いを漏らした時──。



「──何をなさっているのですか、国王……!」

 ここ最近聞きなれた、低く心地の良い優しい声が聞こえて、クリスタの真上にしゃがみ込んでいたヒドゥリオンの体がギルフィードのによって吹き飛んだ。
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