41 / 115
41
しおりを挟む「──なっ、にを……! 何をなさるつもりですか陛下!?」
ヒドゥリオンの暴挙にクリスタは顔を真っ青にしてヒドゥリオンの下から這い出ようとするが、直ぐに手首を掴まれ、逆にベッドに縫い付けられる。
ぎりっ、と手首に食い込むヒドゥリオンの指にクリスタは痛みを感じて眉を顰めるが、ヒドゥリオンは苛立ちにより感情が昂っているのだろう。
クリスタの表情の変化に気付く事無く、ギリギリと手首を掴む力を強めて行く。
「クリスタ、お前が言ったのだろう。建国祭が終わったら、と……! ディザメイアの王妃としての責務を果たすのは当然の事。大人しくしていれば手酷くはしない」
「──っ、嫌っですっ!」
「──……っ!?」
クリスタは、自分の服に手を掛けようとするヒドゥリオンに向かって攻撃魔法を放つ。
まさかクリスタに攻撃魔法を放たれるとは思って居なかったヒドゥリオンは、真正面からクリスタの魔法をまともに喰らい、大きくバランスを崩してベッドから落下した。
ディザメイア国の王城では、王族に対して貴族や平民が攻撃を出来ないよう攻撃魔法に関わる制約魔法が施されている。
王族の血筋や、その配偶者として選ばれる家門の一族は魔力が高く魔法使いとしての力量も高い。
だが、その制約魔法の対象者は王族以外に絞られている。
そのため、王族の一員であるクリスタはその制約には含まれていない。
だが、クリスタがまともに攻撃をしてしまえばヒドゥリオンは大怪我を負ってしまう。
だからこそ、逃げ出すだけの時間を稼ぐために魔法の威力を落としたクリスタはヒドゥリオンが落ちた場所とは反対のベッドから素早く降りて部屋の入口に向かって駆け出す。
(部屋の近くには、ギルフィード王子と、キシュート兄さんが居る……! それに、室内で騒音がすれば異変に気付いて誰かが来てくれるかもしれない……!)
扉に向かって駆け出すクリスタの背中を、床から立ち上がったヒドゥリオンが真っ直ぐ見据える。
「──クリスタ!」
ヒドゥリオンの口から怒声が発せられ、クリスタは思わず部屋の扉に向かって攻撃魔法を放った。
今度はそこまで手加減せずに放った魔法のお陰で、クリスタの目の前で部屋の扉が内側から廊下に向かって吹き飛ぶ。
派手な音を立てて廊下に崩れ落ち、廊下から戸惑うような気配を感じる事が出来てクリスタは安堵した。
(侍従か、私の侍女、もしくは使用人が来てくれれば……!)
クリスタがほっとしたのも束の間。
クリスタの直ぐ後ろから怒りに震えるヒドゥリオンの声が聞こえた。
「諦めろ。人払いをしている。騒ぎにはなるだろうが、誰も部屋にはやって来ない……!」
「──ぁっ!」
ずだんっ!
と、肩を掴まれて床に引き倒される。
強く掴まれた肩が悲鳴を上げてしまいそうな程、酷く痛む。
だがクリスタは痛みに呻く姿も、悲鳴を上げる姿もヒドゥリオンには見せたく無くて。
床に引き倒された体勢のまま、ぐっと息を飲み込み痛みをやり過ごす。
すると、背後からヒドゥリオンの息を飲むような気配がした。
「なん、だ……この傷跡は……」
襟ぐりを大きく開けられたため、ヒドゥリオンの目にも入ったのだろう。
背中から、左肩に掛けて残る大きな大きな傷跡。
この傷跡だけはギルフィードがどれだけ治癒魔法を掛けてくれても簡単には治らない。
時間を掛けて、ゆっくり治して行くしか無い、と言われた時は落ち込んだが見慣れてしまえばなんて事の無い傷跡だ。
だが、先程まで怒りに任せて衝動的に行動していたヒドゥリオンが思わず躊躇う程、その傷跡は酷いのだろうか、とクリスタが自嘲気味に乾いた笑いを漏らした時──。
「──何をなさっているのですか、国王……!」
ここ最近聞きなれた、低く心地の良い優しい声が聞こえて、クリスタの真上にしゃがみ込んでいたヒドゥリオンの体がギルフィードの攻撃魔法によって吹き飛んだ。
61
お気に入りに追加
2,039
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者様。現在社交界で広まっている噂について、大事なお話があります
柚木ゆず
恋愛
婚約者様へ。
昨夜参加したリーベニア侯爵家主催の夜会で、私に関するとある噂が広まりつつあると知りました。
そちらについて、とても大事なお話がありますので――。これから伺いますね?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします
柚木ゆず
恋愛
※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。
我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。
けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。
「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」
そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〖完結〗その愛、お断りします。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った……
彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。
邪魔なのは、私だ。
そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。
「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。
冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない!
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる