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しおりを挟むヒドゥリオンは怒声を上げた後、ツカツカと苛立ちを隠しもせずクリスタ達に近付いて来る。
ソニアと共に会場を後にしたはずのヒドゥリオンが何故ここに? と疑問符を浮かべている間にクリスタの目の前までやって来たヒドゥリオンはギルフィードに抱き止められている状態のクリスタをギルフィードからべりっと引き剥がした。
「……このような薄暗い場所で、……人気の無い場所で……っ、王妃に何をしていた……」
「陛下、違います。ギルフィード王子は私がふらついてしまった所を助けて下さっただけで──」
酷い勘違いをしているヒドゥリオンに、クリスタは落ち着くよう穏やかな声音で話し掛け、そして自分を抱き込むようにしていたヒドゥリオンの胸に手を当て、離して貰うよう腕を突っ張る。
だが、普段からクリスタの意図を汲み取りクリスタの意見を尊重してくれるはずのヒドゥリオンが、クリスタの意図を察しているはずなのにクリスタから体を離してくれない。
「──陛下、離して下さい。ギルフィード王子は助けて下さっただけです、陛下が考えるような下世話な事は何一つ起きていないのです。助けて下さったのに、クロデアシアからわざわざ起こし頂いたのにそのような態度では失礼にあたります」
「王妃……っ!」
クリスタの言葉に、ヒドゥリオンは咎めるような責めるような何とも言えない表情を浮かべ、クリスタを見下ろす。
(そなたは分かっていないのだ……! この男は最初からクリスタをこの国の王妃として見ていない……! この夜会で声を掛けて来た時も……っ、この王子はクリスタを熱の篭った目で見詰めていた……)
だが、ギルフィードがそんな目で見ている、と言う事に気付いていないクリスタにその事を知らせたくは無い。
昔からクリスタはこのクロデアシアの王子を可愛い弟分としてしか見ていない。
可愛い弟として見ていたギルフィードが異性なのだ、とわざわざ知らせる必要など無いのだ。
「陛下、これ以上は失礼にあたります。──ギルフィード第二王子、大変失礼致しました。先程は転倒してしまいそうになった所をありがとうございました」
「いいえ、構いませんよ。王妃殿下がお怪我をなさっては大変ですから」
ヒドゥリオンをやんわりと制し、クリスタはこの国の「王妃」として笑顔を作り、ギルフィードに礼を述べる。
すると直ぐにギルフィードも王子然とした輝かしい笑みを浮かべ、クリスタに返答する。
そして、そんな三人の様子を少しだけ離れた場所から見ていたキシュートはヒドゥリオンを見つめたまま僅かに首を傾げた。
◇
ヒドゥリオンがやって来てしまった事で、ソニアの国、タナ国の文献についてと魔術の事についての会話はそこでぷつりと途切れてしまい、何故か戻って来てしまったヒドゥリオンと共にクリスタは夜会会場に戻り、キシュートとギルフィードは早めに夜会会場から退出した。
時刻は夜半過ぎ。
そろそろ夜会もお開きになるだろう、と言う頃合にクリスタは先に部屋に戻る事にした。
侍女を伴い、自室に戻る最中──。
カツカツ、と足音を鳴らし廊下を歩きながらクリスタは先程キシュートやギルフィード達と話していた事を考え込んでいた。
(夜会に参加していた貴族達から向けられる感情は、以前より良くない物に変わって来ているわね……)
ヒドゥリオンと共に会場に戻ったクリスタを見る視線が厳しいものに変わっている者達も少なくない。
(タナ国の王女が本当に魔術を使っているのかしら……? でも、それならどうして陛下は戻って……?)
キシュートが言うような魔術、を使用しているのであればヒドゥリオンはきっとクリスタの事など気にせず、今も変わらずソニアの下に居ただろう。
(……これは、本格的に調べて行く必要があるかしらね……。建国祭まで、何も起きないといいのだけど……)
疲れたように溜息を吐き出し、クリスタは自室に戻った。
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