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 ──不敬罪。

 ギルフィードの厳しく、硬い声音にその場に居た貴族達が息を飲む。
 確かにギルフィードの言う通りだ。
 確たる証拠も無しに、王妃であるクリスタが誰かに害をなそうとした、と決め付けたようなものだ。

 そのような不敬な物言いをしたソニア。
 そして、周囲にまるでクリスタがそんな事をした、と思わせるよう誘導したバズワン伯爵。
 憶測だけで物を言い、王妃であるクリスタの信用を損なわせたのだ。
 王族に対する不敬罪は時には極刑も適用される。

 その事を理解しているバズワンは、若干顔色を悪くさせてはいるが命を取られる程の心配はしていないのだろう。

「ふ、不敬罪など……。ただ私は寵姫の言葉に一部納得出来る部分もある、と思い陛下に進言したまででございます。……ただ私は陛下の御身を思っただけにございますから……」
「……バズワン伯爵。だが、そなたは王妃に疑いの言葉を」
「いいえ、いいえ違います陛下。私は寵姫が怯えていらっしゃるので寵姫の言葉をお聞きになられた方が、とお伝えしただけですぞ」

 ヒドゥリオンの冷たい視線に怯む事無く、バズワンは顎髭に手を当て、目を細める。

(確かに……。伯爵はただソニア王女の言葉を確認した方が良い、と言っただけね。その後もヒドゥリオンの身を案じ、確認は必要と進言しただけだわ)

 クリスタに疑いの目を向けさせたのは、一重にソニアの態度と発言による所が大きい。

 クリスタは溜息を零し、事態の収集に掛かる事にする。

「……陛下。伯爵の仰る通りです、伯爵はただ確認するべき、と言っただけです」
「──っ、王妃、だが……!」

 クリスタの言葉に納得がいかないのだろう。
 尚も食い下がるヒドゥリオンに、クリスタは声を潜め、周囲に聞こえない程度の声音で告げる。

「バズワン伯爵を罪に問う事は難しいです……! 私に疑惑の目を向けさせてしまったのは誰かお分かりですか……?」
「──それは……」

 そこでヒドゥリオンははっとして言葉を飲み込む。
 この場で未だ不敬罪について話すと言うのであれば、その罪は誰に向くのか。
 クリスタに怯え、クリスタが魔法を使ってシャンデリアを落下させた、とさせてしまったのは誰なのか。

 ようやくクリスタの言いたい事を理解したのだろう。
 ヒドゥリオンは気まずそうにクリスタから視線を外す。

「……陛下。王女と共にお怪我の確認と、手当に行かれるのがよろしいかと」
「……分かった。そうする」

 クリスタの言葉に頷いたヒドゥリオンは、クリスタから離れ、ソニアの下に向かい足を踏み出した。
 だが、ヒドゥリオンがソニアの下に向かい始めた時。おろおろと慌てていたソニアは焦るように再び口を開いてしまった。



「あっ、で、ですが……っ! 魔法でなくても……もしかしたら……っ。夜会を準備して下さったのは王妃殿下と、お聞きしております……」
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