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しおりを挟む手を貸してくれる、と言うギルフィードに対して失礼な物言いをするヒドゥリオンを諌めようとクリスタが若干乗り出したが、ギルフィードはクリスタに向かって微笑み大丈夫だと言うように頷いた。
「──ははっ、勿論です。この程度、恩の内には入りませんでしょう」
ギルフィードはすぅっと目を細め、ヒドゥリオンを挑発するように口端を持ち上げた後、くるっと振り返りクリスタに向かって優しげな笑みを向けながら口を開いた。
「クリスタ王妃、それでは王妃の魔力を確認致しますね。お手を……」
「え、ええ。お願いするわ」
ギルフィードが差し出した手にクリスタは自分の手を乗せる。
きゅう、とクリスタの手を握ったギルフィードにヒドゥリオンはぴくりと片眉を跳ねさせたが何も言わずただその光景を不愉快そうに見詰めた。
ギルフィードが目を伏せ、真剣な表情を浮かべているため、クリスタも無言でその様を見詰める。
どれくらいの間、そうしていただろうか。
きっと時間にしたら数秒程度なのだろうが、しんと静まり返った夜会会場と、夜会に参加している貴族達からの視線が集中していて、たった数秒が数分にも錯覚する程長く感じる。
床に倒れたままのソニアは、事が大事になっている事にあわあわと戸惑っているようで。
きょろきょろと周囲に視線を彷徨わせ、どうしよう、と瞳を泳がせる。
「──終わりました」
ソニアがきょろきょろしていると、クリスタやヒドゥリオンの居る場所からギルフィードの凛とした声が聞こえた。
「何か分かりましたか? やはり王妃殿下が?」
含み笑いを浮かべ、バズワン伯爵が告げる。
その言葉を聞いたギルフィードは鋭い視線をバズワン伯爵に向け、クリスタを庇うように足を一歩前に踏み出した。
「王妃殿下の魔力を凝縮しました……。人の魔力は、その人によって色が違います。……私の魔力の色を見せた方が分かりやすいですね」
ギルフィードはそう言うなり、クリスタの魔力と思われる物を手のひらに移動させ、次いで自分の魔力を分かりやすく可視化する。
途端、ギルフィードのもう一方の手のひらにギルフィード本人の魔力を可視化させた物がふわふわと漂った。
その魔力はクリスタの魔力を凝縮した物とまるで寄り添うように空中を漂い、キラキラとした魔法の粒子を周囲に散らしている。
クリスタの色は白銀色で、見た目は冷たい色の印象が強いが、何故かその色を見ていると何故か心が暖かくなるような不思議な感覚を覚える。
そしてギルフィードは笑みを浮かべたまま、シャンデリアの落下した場所に歩いて行く。
ツカツカと足音を鳴らし、真っ直ぐ背筋の伸ばして歩くギルフィードの雰囲気に周囲に居た貴族達はまるで気圧されるように道を開ける。
ギルフィードはそのままシャンデリアの落下地点までやってくると、躊躇い無くその場に跪き、シャンデリアに向かって手のひらを翳した。
「──……」
そして、ギルフィードが数秒程無言で手を翳した後。
その手をふっと下ろした。
口元を弧を描くように変えたギルフィードはその場にすくっと立ち上がり、フロアに居る貴族達全員に聞こえるよう、声高に宣言した。
「シャンデリアからも王妃殿下の魔力の痕跡は見付からなかった。──これは、王族に対する不敬罪が適用される問題では!?」
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