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 まさか、自分がソニアに害をなそうとして魔法を放ったと言いたいのか──。

 だが、そんな事をすれば一番に疑われるのはクリスタだ。
 そんな愚かな事はしないし──。

(私は嫉妬に狂ってもいないわ)

 そんな事を仕出かす理由が無い。


 だが、クリスタがそう考えていても周囲の人間は違うようで。
 ソニアの言葉を聞き、集まっていた貴族達がざわざわと騒ぎ始める。

「……バズワン伯爵、その発言は王家を侮辱するに等しいぞ……?」

 低く、唸るようなヒドゥリオンの言葉にバズワン伯爵はただ肩を竦めるだけで発言を撤回する様子は見られない。
 それ所か、事態を大きくするつもりなのだろう。
 目を細め、クリスタを冷たい視線で見詰めた後良く通る声で言葉を続けた。

「陛下の御身にも危険が及んだのです。万が一陛下の頭上にシャンデリアが落下して来てしまったら? 万が一、陛下の御身に何かがあったら? 尊き御身に大変な事が起きていたかもしれないのです」

 悋気によって間違いを犯した、では済まなくなりますぞ。と声を潜めるバズワンに、ヒドゥリオンは不快感を顕に唇を噛み締める。

(このままここで押し問答をしていても埒が明かないわね。さっさと無実を証明したいけど……)

 だが、確かにソニアが口にしていた事は真実でもある。
 王家主催の夜会である今夜は、夜会会場では間違いが起きてはならないとして魔法の発動を阻止する魔法陣を組み込んでいる。
 貴族達の魔法を阻害するためであるが、その魔法阻害の魔法陣は王族には適用しない。

(私がそんな事はしていない、と言ったとしても証明しようが無いわね……。それはヒドゥリオンも分かっているからこそ、押し黙ってしまう)

 クリスタは、自分がやっていない、と証明出来る方法が無いだろうか、と考えていると。

「──よろしいですか?」

 集まっていた貴族達の中から、一人の男性が柔らかな声を発した。
 その声に聞き覚えのあったクリスタは、無意識にそちらに振り返る。

 人々の間から進み出て来たのは、ギルフィードで。
 ふんわりと柔らかな笑みを浮かべたまま、ギルフィードはクリスタに向かって安心させるように笑みを深める。

「ギルフィード王子……」
「……」

 ぽつり、と零したクリスタの声がヒドゥリオンの耳に届いたのだろう。
 ヒドゥリオンは不愉快そうに顔を顰め、クリスタとギルフィード二人を交互に見やる。

「……クロデアシアの王子が何を? これは我々ディザメイア国の問題だ」

 冷たく突き放すようなヒドゥリオンの言葉に臆する事無く飄々とした態度でギルフィードはクリスタの前までやって来ると、まるでクリスタを庇うように位置どった。

「僭越ながら、私の魔法は他者の魔力を感知する事に優れております。それは物に残った魔力も同じ……。魔法陣にて私も阻害を受けておりますが……それは国王陛下の許可さえあれば阻害から外れます」
「……確かにギルフィード殿が言う通りではある」
「他国の人間を阻害範囲から外すと言う事に危惧はございましょう。……ですが、王妃殿下の疑いを晴らすには、自国の人間では無い、何の関係も無い私が適任ではございませんか?」

 ギルフィードの言葉に、周囲に居た貴族達が「確かに」と納得し出す。
 確かに国内の人間では無いギルフィードが一番適任ではある。

 だが、それにも異論を唱えるのがバズワンで。

「お、お待ち下さいクロデアシアの王子殿下……! 貴方は王妃殿下と交友が──」

 バズワンの言葉に、ギルフィードが視線を鋭くする。

「……黙れ。まさか私が私情を挟むとでも思っているのか? その発言は我がクロデアシア国を侮辱する言葉と取るぞ?」

 ギルフィードの冷たく、硬い声音にバズワンも流石に言葉に詰まる。

「そっ、そのような……っ、私はクロデアシア国を侮辱するなど……っ断じてございません……っ」
「ならばそこで黙って見ていろ。……陛下、よろしいですか?」

 有無を言わせないギルフィードの雰囲気に、ヒドゥリオンも拒む理由は無いと考え、許可をする。

「許可をしよう……。王妃の疑惑が晴れるのであれば願っても無い事だからな」
「ありがとうございます」
「だが、これで王妃に恩を売った、などと考えないように」

 ヒドゥリオンは最後の言葉だけ、唸るように低い声でギルフィードに放った。
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