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しおりを挟む(──あの子……っ!)
クリスタはソニアが垣間見せたその表情にカッと怒りで頭に血が上ってしまう。
(もしかして、全部分かった上で……やっているの!?)
自分の儚げな美貌を熟知した上で。
誰もが不憫に、と考えてしまうような状況を作り出しているのだとしたら──。
(まんまとヒドゥリオンは騙されている、と言う事……!?)
だが、それをクリスタがヒドゥリオンに告げたとしても。護衛や他の貴族に告げたとしても。
誰もクリスタの言葉を信じてはくれないだろう。
あれだけソニアを寵愛するヒドゥリオンだ。
クリスタが悋気を起こし、ソニアを排除しようとしている、と思われかねない。
(腐っても王族、と言う事ね……)
小国とは言え、国だ。
その国の王族として過ごして来たソニアは頭が回る、と言う事だろう。
自分の立場が弱い事を理解し、この国で一番権力のあるヒドゥリオンを味方に付けてしまえば怖い物は何も無い。
そこまで考えたクリスタは背中に嫌な汗が伝うのを感じた。
微かに揺れる馬車の中、ソニアの事。そして今日これから向かう夜会に参加しているクロデアシア国の第二王子の事。
様々な事を考え、どう対応すればと考えている内にあっという間に目的地に到着してしまったようで。
馬車が止まり、御者から声を掛けられた。
「王妃殿下、到着致しました」
「……分かったわ」
馬車の扉を開け、御者に手を借りて降りる。
クリスタがちらり、とヒドゥリオンとソニアが乗っていた馬車に視線を向けると丁度そちらの馬車も扉が開いて、ヒドゥリオンが降りたのが視界に入る。
ヒドゥリオンはクリスタが乗っている馬車に視線を向ける事などなく、ソニアに向かって微笑み、手を差し出している。
馬車の中から笑顔のソニアが姿を現して、まるでヒドゥリオンに抱き着くようにして馬車から降りた。
ここに向かうまでに泣き止ませたのだろう。
ソニアは嬉しそうに微笑みながらヒドゥリオンの胸に擦り寄り、そして擦り寄って来るソニアにヒドゥリオンは頬を緩めている。
クリスタが無表情で二人を見ていると、クリスタの視線に気付いたのだろう。
笑顔だったヒドゥリオンがさっと表情を曇らせ、咳払いを一つ。
「お、王妃……。馬車の中でソニアを説得したのだが……」
ソニアの腰を抱きながらヒドゥリオンがクリスタに向かって歩いて来る。
その様子を何処か冷めた視線で見つめながらクリスタは「はい」と返事をする。
「やはり、ソニアが憐れだ……。すまないが、この夜会だけソニアを私がエスコートする……」
ヒドゥリオンの言葉を聞き、そう言われるだろうと考えていたクリスタは表情を崩さない。
ただ──。
(私の事は憐れ、と思わないのね)
クリスタは諦めたように溜息を零し、了承の言葉を返した。
了承するしか、無かった。
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