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 ぼうっと見惚れるようにクリスタを見詰めていたヒドゥリオンの視線に気付いたクリスタが怪訝そうに眉を顰める。
 クリスタの態度にはっとしたヒドゥリオンは咳払いをして誤魔化し、「そ、それで」と切り出した。

「王家主催の夜会、となるとまた王妃……そなたに負担が掛かるのではないか? 今は建国祭で忙しい中……夜会の主催ともなると……」
「ですが、それをやらねば王女は建国祭に出席なさるのですよね?」
「……そうだな」
「ならば、夜会を開く他ありません。早速手配を始めます」
「分かった──」

 ヒドゥリオンの返答を聞き、話しはもう終わりだと判断したクリスタは止まっていた食事を再開する。
 フォークを自分の口元に運び、咀嚼し飲み込む。
 そしてクリスタが何度か同じ行動を繰り返していると、再び正面から視線を感じてクリスタは自分の視線を上げた。

「……申し訳ございません、何か決め忘れてしまった事がありますでしょうか」
「い、いや……そうでは無く……」

 クリスタの質問にヒドゥリオンは何処か気まずそうに言葉に詰まる。
 何だろうか、とクリスタが疑問に思っているとヒドゥリオンは気まずそうにしながら口を開いた。

「──その、今日の夜は、どうする……?」

 一瞬言われた言葉の意味が分からずクリスタは瞳を瞬いた。
 だが、暫し遅れてヒドゥリオンの言いたい事を悟り小さく「あっ」と声を漏らす。

「申し訳ございません、陛下。本日から早速夜会の手配に取り掛かるため、夜遅くまで打ち合わせが入るかと……」

 クリスタも気まずそうに視線を逸らしながらヒドゥリオンに答える。
 部屋の空気が重苦しくなったような気がして、クリスタはヒドゥリオンから目を逸らしたまま、彼の目を再び見る事が出来ない。

「……そうか、分かった」
「申し訳ございません」

 ヒドゥリオンがぽつり、と低い声でクリスタに返事をし、クリスタも素直に謝罪を口にする。

 暫し無言で食事は続いたが、ヒドゥリオンは全て食べ追える前に無言で席を立ち、部屋を退出してしまった。

 ヒドゥリオンの背中をちらりと一瞥したクリスタは「やってしまったわね」と呟く。



 クリスタはすっかり忘れてしまっていたが、今日は国王夫妻として責務を果たす日だ。
 国政も大事だが、世継ぎを残す事もクリスタにとって大事な仕事とも言える。

 お互い忙しく夜を共にする日が少なくなって来たここ数年。
 世継ぎを設けるために月に二度は共に夜を過ごす事にしている。
 クリスタにとって大事な日だったと言うのにすっかりその事を忘れてしまっていた。

「──けれど、今は夜会の方が大事だわ……。夜会と建国祭が終われば落ち着くし……」

 それまでは仕方ないだろうとクリスタはこの事に関してはすっぱり頭の中から忘れる事にした。





 そして、クリスタが睡眠不足や臣下達との細かい打ち合わせ、調整、夜会会場の手配や警備などで忙しなく過ごし、あっという間に夜会当日がやって来た。

 当日は国王と王妃であるクリスタとヒドゥリオンは最後に入場する。
 そして二人が入場し、席に着いた所でヒドゥリオンが滅んでしまったタナ国王女、ソニアを皆の前で入場させ、紹介する。
 そういった流れをヒドゥリオンに説明し、ヒドゥリオンもそれに了承した。

 了承したのだが。



「──いや、です……っ。会場に一人で入るのは恐ろしくて……っ、お願いします、ヒドゥリオン様に隣に居て頂きたいです……っ」

 夜会会場である宮殿にこれから向かうと言う今。
 ソニアがぽろぽろと悲しそうに肩を震わせ、涙を零してそんな事を言い出した。
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