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◇◆◇

 建国祭まであとふた月。
 その時期になると、諸々の準備で否が応でもクリスタはヒドゥリオンと顔を合わせ、建国祭の準備で話し合う事が増える。

 ソニアの事で気まずく、何処かギクシャクとした雰囲気の二人ではあるが政務に関してそのような私情を挟む事は無く、国王と王妃が何処かぎこちないがそれでも問題無く準備は進んでいた。


 その間もヒドゥリオンは変わらずソニアの部屋に通い、クリスタとヒドゥリオン二人だけでとっていた朝食の時間にソニアが何回か顔を出したが、ソニアが嫌だとヒドゥリオンに言ったのか。
 それともヒドゥリオンが考え直したのかは分からないが、王と王妃二人の朝食の時間には途中からソニアが参加する事は無くなった。

 だが、国王であるヒドゥリオンがあからさまにソニアを溺愛しているのは誰が見ても明らか。
 そして王妃との関係は時間が経つにつれてぎすぎすとした物に変わって来ているのも周囲には分かってしまう。

 それまでは面白可笑しく噂話程度が流れていただけだったが、最近では国王の寵愛はソニアに注がれていて、王妃であるクリスタが冷遇されているのでは、と言う噂まで流れ始めた。
 そんな噂が王城で働く臣下達の間で囁かれ始め、元タナ国王女であるソニアを担ぎ上げようと画策する貴族まで出始める始末。

「──このままでは流石に不味いわね……」

 水面下でそんな事が起きている、と言うのはクリスタの耳にも勿論届いている。
 クリスタはうんざりだ、と言うように自分の顔を覆い、盛大に溜息を吐き出す。

 今日も今日とて、執務室に遅刻してやって来るヒドゥリオンの愚痴のようなものを政務官からネチネチと言われたのだ。
 表立って口にはしないが、遠回しにネチネチとねちっこく嫌味を言われ、ここ数週間クリスタはその対応に手を焼いていた。

 いくらヒドゥリオンに苦言を呈しても聞き入れる事は無い。
 「分かっている」と不機嫌そうにクリスタに言葉を返すだけで、実際改善される兆しは見えないのだ。

「……他の貴族の間では、陛下が美しい王女に骨抜きにされている、とからかわれているのよ……これ以上国王が臣下にみっともない姿を見せては……」

 王としての威厳もなくなり、貴族たちの求心力も得れなくなってしまう。

(確かに、あの王女は美しく目を惹かれる存在だけれど……あのヒドゥリオンがこんなに愚かな行動を取る程……? 臣下からの視線や、噂に気付いていないの……?)

 賢君として名高かったヒドゥリオンの権威がこれでは地に落ちてしまう。
 どうにかこの建国祭だけは盛大な物を開催して、王家の威光を再び示さねば、とクリスタが頭を悩ませていると言うのに、そのクリスタの考えをまるで嘲笑うかのようにヒドゥリオンはとんでもない事を言い出したのだ。

 それは、ソニアを建国祭に出す、と言うものだった。
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