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 翌朝。
 この日は週に一度のヒドゥリオンとの朝食の時間だ。

 お互いこの国の国王、王妃となって間もない頃。
 慣れない公務に忙しく過ごし、二人で会話をする時間が無いからと設定した朝食の時間。
 まだここまで関係が冷え切る前にこの時間を設けた。その為、互いに会話が少なくなり話す事と言えば仕事の事だけになってしまったここ最近は義務的にこの朝食の時間を過ごしていた。

(けれど……今日は建国祭の事についても話し合いたかったから丁度良いわね)

 クリスタは朝食の場に向かいながらそんな事を考える。
 結局昨日はヒドゥリオンが建国祭についてクリスタに何かを指示するような事は無かった。

(建国祭は毎回他国の王族を招いて盛大に開催するのだから準備期間も長い……。そろそろ本格的に着手しないと不味いわ)

 流石にヒドゥリオンもその事は分かっているだろう、とクリスタは考えていたのだがその考えが甘かった事を後悔する。



 クリスタが朝食の場にやって来てから少し。
 少し遅れてヒドゥリオンが扉から姿を現した。

「おはようございます、陛下」
「……おはよう」

 やって来たヒドゥリオンに気付いたクリスタが顔を向けて挨拶を口にすると、ヒドゥリオンも返事を返す。

 だが、挨拶をしたものの自分の席に向かわず扉の側に立ったままのヒドゥリオンに、クリスタは首を傾げる。
 席に着かねば朝食が運ばれて来ない。
 配膳の者達も戸惑っているのが分かり、クリスタが口を開いた。

「陛下? どうなさったのですか、席に……。皆が戸惑っておられます」
「──王妃」
「はい?」

 早く座って下さい、と言うようにクリスタが告げるとヒドゥリオンはクリスタを真っ直ぐ見つめたまま、ぽつりと呟いた。
 座らずにどうしたのだろうか、とクリスタが言葉を返すと、ヒドゥリオンは一度扉の方に視線を向けてから再びクリスタに向き直った。

「ソニアも、共に食事を取りたいそうだ……。王妃に挨拶もさせたいと思っていたし、丁度良いだろう?」
「……え?」
「直ぐにもう一人分の食事の用意を。……ソニア、おいで?」

 ヒドゥリオンの言葉に驚き、クリスタが言葉を失っている事に気付きもしないヒドゥリオンは使用人に料理をもう一人分用意させるよう告げる。
 そしてクリスタの様子を、返事を確認する事なく扉を開けて優しげに声を掛けた。

 優しげに微笑み、手を差し出すヒドゥリオンの手のひらに細く嫋かな手がちょこん、と乗りおずおずとその少女が姿を現す。
 頬を薔薇色に染め、美しいプラチナブロンドをふわり、となびかせてその少女・元タナ国の王女ソニアがヒドゥリオンにエスコートされ、扉から入室した。

「──あ、初めまして……。よろしくお願いします」

 可愛らしくはにかむソニアに蕩けるような笑みを浮かべるヒドゥリオン。
 その二人の姿を、クリスタは唖然としながら見詰めた。
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