冷酷廃妃の誇り-プライド- 〜魔が差した、一時の気の迷いだった。その言葉で全てを失った私は復讐を誓う〜

高瀬船

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 夜、寝支度を終えたクリスタが部屋で侍女達とお茶の時間を楽しんでいると、自然と国王ヒドゥリオンと、ヒドゥリオンが連れ帰った亡国の王女ソニア二人の話題となる。

「王妃殿下、お聞きになりましたか? 王妃殿下が午前中に陛下の下に行かれて、執務室にと仰ってから実際陛下が執務室に来られたのは夕方頃らしいですわ」
「夕方まであの女と一緒に過ごしていた、と言う事ですわ……! 執務にまで支障を来たすのは流石に看過出来ないかと思います!」

 ヒドゥリオンの行動に、クリスタが一切怒りを表さない代わりに侍女達が怒りを顕にする。
 侍女達が自分の代わりに怒ってくれる姿を見て、クリスタは苦笑した。

「……そうね、流石に夕方まで室内に篭っていらっしゃるのは……外聞も良くないし陛下もお分かりだとは思うのだけど……」
「王妃殿下がお優しいからですわ! 王妃殿下が何も仰らないから、陛下は王妃殿下に甘えていらっしゃるのです……!」
「ちょっと、落ち着きなさいなナタニア夫人……。王妃殿下に失礼ですよ……」

 ナタニア夫人、と呼ばれた年若い侍女は年上の侍女に諌められるが怒りは収まりそうに無い。
 ナタニアは「だって!」と頬を膨らませて不服そうにしている。

「貴女達が怒ってくれるから私が怒らなくても気持ちが沈む事は無いわ、ありがとう」
「王妃殿下……!」

 クリスタの言葉に感動した様子でナタリアが声を上げる。
 だが、ナタリアの向かいに座っていたもう一人の侍女は未だ表情が曇っていて。

「王妃殿下……。お気を付け下さいね、陛下があの亡国の王女に夢中になっていらっしゃる事が城中に知られておりますから……」
「ええ……確かにそうね。……足元を掬われないように気を付けるわ」

 クリスタはもう一人の侍女の言葉を有難く受け取り、暫し会話を楽しんだ後に解散した。


 ベッドに横になったクリスタはふと自分がヒドゥリオンの婚約者になった頃の事を思い出す。

 クリスタはこの国の侯爵家の出だ。
 幼い頃、クリスタがまだ十歳にも満たない頃に王太子の婚約者候補として城に呼ばれ、ヒドゥリオンと顔を合わせた。

 クリスタ七歳、ヒドゥリオンが十一歳の時に王城の客間でヒドゥリオンと会い、お茶の時間を楽しんだ。
 クリスタは幼い頃だったのであまり良く覚えていないのだが、終始笑顔でヒドゥリオンと楽しく話をした記憶はある。
 そうして、数日後。王家から正式にクリスタを婚約者とする旨の報せが届き、それからクリスタは厳しい王妃教育を受ける事になった。

 厳しい王妃教育の中、それでもヒドゥリオンと会う時が唯一の楽しみで。
 クリスタが一生懸命王妃教育を受けている姿をヒドゥリオンはとても労い、褒めてくれた。

 そして長い長い年月を経て、婚約者となってから十一年後。三年前のクリスタが十九歳の時に結婚し、婚姻式を盛大に行った。
 そしてその一年後にはヒドゥリオンが正式に王として加冠した。

「──……」

 クリスタはころん、と寝返りを打ち目を閉じる。

 ソニアに向けて浮かべていたヒドゥリオンの笑顔を思い出して、クリスタは切なさを覚える。
 あんな笑顔、ここ数年は見ていない。
 「国王陛下」としての笑みは多く見ているが、あんなに楽しそうに笑う顔なんて、数年間見た記憶が無い。

(陛下に笑顔を向けられたのは一体いつ頃かしら……。それに、名前を最後に呼ばれたのは……?)

 お互い、「陛下」「王妃」と呼び合うようになってどれくらいだろうか。
 笑顔で会話をしたのはどれ程前だろうか。

(昔は私たち二人、良く笑い合いながら会話をしたのに……)

 いつ頃から冷えきった関係になってしまったのか。
 いつ頃から義務的な関係になってしまったのか。
 クリスタには思い出す事が出来なかった。
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