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しおりを挟む「ヒドゥリオン様、この果物とても美味しいです……! 何という名前なのですか?」
朝。
キラキラと嬉しそうに目を輝かせて果物の名前を聞いて来るソニアに、ヒドゥリオンは目を細めて微笑むとソニアの質問に答えてやる。
「それは我が国で採れるシシナと言う果物だ。気温の変化に弱く、繊細でな……。温室でしっかり管理して栽培している。甘みが強くて美味しいだろう?」
「はい、とても! タナの国ではこんなに美味しい物を食べた事ありませんもの」
「ははっ、そうかそうか。これからは飽きる程食べられるようになる」
にこにこと嬉しそうな笑顔を浮かべてシシナを食べるソニアの綺麗な金の髪の毛を撫でながらヒドゥリオンはまるで愛おしいとでも言うようにソニアを見詰める。
「こんなに穏やかな朝を迎えたのは久しぶりだ……」
「? ──あっ、そうですよね……戦闘でお疲れの毎日だったから……」
「いや、その前から……。──何でも無い。ソニア、今日は王城の中を使用人に案内させよう。これからソニアもこの城で暮らして行くのだから、早く城内を覚えた方が良いだろう?」
「いいのですか!? 嬉しいです……!」
「色々見て回り、忙しく過ごしていた方が良い……」
気遣うようなヒドゥリオンの視線と言葉に、ソニアは考えないようにしていた事を思い出して表情が陰る。
だが直ぐにぱっと顔を上げてヒドゥリオンと視線を合わせ、「大丈夫です」と笑った。
「これも小国の王族として生まれた私の運命だったのです。亡くなってしまった家族は戻って来ませんが、私は生きています。いつまでも悲しんでいたら家族も報われません。生き残った私が笑顔で生きていかないと……」
「ソニア……」
無理矢理笑顔を作っているソニアに、ヒドゥリオンは眉を下げ、そっとソニアの肩に腕を回し、自分に抱き寄せる。
慰めるようにソニアの髪の毛を撫でながら、ヒドゥリオンは誓うように言葉を紡ぐ。
「安心してくれ。ソニアを絶対に悲しませる事はしない。この城で共に過ごし、何不自由ない生活を保証しよう」
真っ直ぐソニアの目を見て真剣な表情で告げるヒドゥリオンに、ソニアはうるうると瞳を潤ませる。
「──嬉しい、ありがとうございますヒドゥリオン様」
ソニアは自分を抱き締めてくれるヒドゥリオンに甘えるように擦り寄った。
◇◆◇
「陛下はまだ執務室に来られていないの?」
クリスタは数ヶ月後に行う建国祭の書類を持ち、ヒドゥリオンの執務室を訪れたがそこに彼の姿は無く、室内に居る政務官に問う。
時刻は昼前、この時間帯に何か公務が入っている事は聞いていない。
今までのように執務室で仕事をこなしているのだろうと思い、やって来たのだが何処にもヒドゥリオンの姿が見えない事に眉を顰めた。
「席を外しているだけならば、直ぐに戻って来られるわよね? 建国祭についてお窺いしたい事があるから待たせてもらうわ」
「お、王妃殿下……それが実は……」
クリスタの言葉に政務官が躊躇い、気まずそうに言葉を紡ぐ。
そして次に政務官が紡いだ言葉に、クリスタは執務室を足早に出た。
カツカツと苛立ちが足音に出てしまうが、気にせずにクリスタは目的の場所に向かう。
(信じられないわね……。昨夜からヒドゥリオンは例の王女の部屋に篭りきりですって!? だからこんなにも無様な噂が広められるのよ……!)
昨夜から国王であるヒドゥリオンは、亡国の王女に宛がった客室に入ったきり、そのまま部屋で共に過ごしているらしい。
そして、朝の時間に朝食を運ばせた後、その王女と共に部屋で食事をとり、そのまま一緒に過ごしているらしい。
(ヒドゥリオンを呼びに行っても、追い返されてしまうだけ、なんてみっともない事を……!)
クリスタが目的の部屋の前に辿り着くと、廊下に居ると言うのに室内の楽しげな笑い声がクリスタの耳にまで届いて来て、クリスタはぎゅっ、と拳を握った後扉をノックした。
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